「雑草を商品にする魔法」無から有を生む逆転の経営

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「雑草を商品にする魔法」無から有を生む逆転の経営

連載企画:農業経営のヒント

「雑草を商品にする魔法」無から有を生む逆転の経営
最終更新日:2019年12月04日

「雑草」という言葉を聞いて、ほとんどの農家はあまりいいイメージを思い浮かべないだろう。とくに農薬を使わない有機農家にとって、雑草との戦いは、病害虫対策と並んでもっとも大変な作業の一つだ。だが多くの農家には厄介者でしかない雑草を、商品にして成長してきた農業法人がある。杜若(とじゃく)園芸(京都府城陽市)だ。

流通の仕組みを調べることから出発

杜若園芸は約300種類の水生植物の栽培や販売を手がけている農業法人。主な作物はスイレンやカキツバタのほか、白い小さな花を咲かせるナガバオモダカや、縦に細長く伸びるヒメホタルイ、丸い葉っぱが特徴のウォーターコインなど。水槽の中で小さな草原のように見えるコブラグラスも人気だ。
売上高は約4億円。社長の岩見悦明(いわみ・えつあき)さんは1990年に銀行を辞め、実家で就農した。もともと生け花用のカキツバタなどを栽培していたが、岩見さんが就農してからバリエーションを大幅に増やし、事業を拡大させた。現在、栽培している品種には海外から取り入れたものもたくさんある。

コブラグラス

経営を飛躍させるきっかけは、農産物の値段について就農直後に抱いた疑問にあった。父親が花の品質を高めた成果で、関西ではそれなりに高い値段で売れていた。だが関東にも販路を広げようと、岩見さんが営業に行くと、市場で提示された値段は関西のおよそ半値。同じ品質のものが地域によって相場が大きく違う点と、買い手主導で値段が決まることを知った。
ほかの農家なら「もっと品質を高めよう」と思うかもしれない。だが岩見さんは違った。「まず流通の仕組みを知るべきだ」と考えたのだ。そこで、高速道路の緑化事業で壁面に植えるツタなどを売買している企業の担当者を何度も訪ね、どんな値段で取引しているのかをたずねてみた。緑化用の植物を選んだのは、食用の作物よりも自社の商品に近いと考えたからだ。

ウォーターコイン

この企業は栽培を委託した農家からツタを仕入れ、道路への移植を手がける会社に販売していた。値段を調べてわかったのは、農家と比べて企業の利幅がずっと大きいという点だ。だが、この企業の担当者によると「農家はすごく喜んでいる」。他の農産物と比べ、農家の手取りが多かったからだ。
花の値段が地域によって違うことに気づいたときと同様、疑問を抱いた。農家は植物がどんな値段で流通しているのかを知らないままで、なぜ満足しているのか。自分はそういう生産者のあり方から脱皮したい――。
岩見さんが出した答えは、生産者ではなく、卸会社の立場でビジネスを構築することだった。例えば、栽培で使うトレーや肥料、農薬などの資材はふつう、メーカーから卸会社や農協、小売店などを経て農家の手に渡る。これに対し、杜若園芸は卸会社が参加する商談会などに参加することで卸価格、つまり小売店などで買うより安く資材を購入できるようにした。

美しく輝くスイレン

植物の売り先で重点的に攻略したのがホームセンターだ。中心となる植物は、需要がもっとも多かったスイレン。ホームセンターのすべての店舗に販売することを目標に掲げ、2000店に納入することに成功した。
そのために必要になったのが、大量のスイレンだ。自社農場だけでは足りなかったため、農協から仕入れて取引を増やしていった。ここでも卸会社の立場に身を置いた。2002年にはタイに農場を開設し、輸入を始めた。
ただし、いくら大量のスイレンを仕入れても、それだけでは販路は広がらない。ここで岩見さんは、売値を下げることでホームセンターと交渉していった。薄利多売で市場占有率を高める戦略だ。では何で利益を確保したのか。それが、岩見さんが「雑草」と呼ぶ多様な水生植物だった。

農薬を使えないことが強みになった

ここでいったん時計の針を、就農して間もないころに戻す。同じ花の相場が関西と関東で違うことを知った岩見さんは、ビジネスのヒントを求めてある植物学者に会いに行った。そこで「水生植物の専門会社はまだない。ニッチ市場を開拓してみたらどうか」というアドバイスを受けた。鉢に入れて鑑賞したり、金魚を飼う水槽に入れたりする植物だ。
ちょうど岩見さんも、同じことを考え始めていた時期だった。稲を栽培している周辺の田んぼは、除草剤の影響で稲以外の生き物がほとんどいなかった。これに対し、カキツバタを栽培している自分の田んぼ(別の地域の農家は「畑」と言うこともあるが、岩見さんは「田んぼ」と表現するのでそう表記する)には、昔ながらの田んぼの生き物がたくさん生息していた。
カキツバタやスイレンがマイナーな農産物のため、「カキツバタ以外の植物を防除する」といった専用の農薬が開発されていなかったからだ。農薬をまかない田んぼには、メダカやゲンゴロウが泳ぎ、オモダカやヒメホタルイなどの雑草が生えていた。当初はそうした雑草を手で抜いていたが、植物学者の助言も手伝い、「田んぼの中にあるものすべてが商品になる」と思いついた。

ナガバオモダカ

自らが卸会社の立場になり、ホームセンターにじかに販売する手法がここで生きた。店頭での並べ方など、田んぼのさまざまな植物の売り方をホームセンターに提案したのだ。苗を入れたポットにつけるポップも自ら作った。岩見さんは「栽培よりも販売促進にお金をかけた」と話す。
利幅の薄いスイレンで築いた販売ルートに、田んぼの雑草を次々に乗せていった。そしてスイレンとは違い、そもそも市場になかった植物の商品化を通し、杜若園芸は「買い手主導で値段が決まる構図」を崩していった。

さまざまな田んぼの植物が商品になった

流木さえも商品になった

もともと多くの農家にとっては価値のない存在で、お金にならなかった水生植物を商品化する。その戦略は、いまも研ぎ澄まされている。例えば、輸入したヤシの実の殻をカットし、「メダカ専用隠れ家ヤシハウス」の名前で売り始めた。流木さえも商品にし、水槽に入れて楽しむことを提案した。
メダカの飼育の普及に影響したことにも触れておこう。かつてメダカは小川などにいくらでもいて、子どもが網で捕って家で飼ったりしていた。そうした環境は都市開発でほとんど失われた。
一方、同社はボウフラがスイレンの田んぼで増えるのを防ぐため、メダカを放し飼いにしていた。その卵がスイレンに付着して流通し、家庭の水槽でふ化して消費者が喜んだ。狙ってやったことではない。それを知った別の会社が、観賞用のメダカを売り始めた。杜若園芸はこれも商機ととらえ、ヤシハウスなどメダカの飼育に合わせた商品を次々に開発していった。

メダカを飼う人向けに、ヤシの実の殻を商品化した

岩見さんによると、スイレンやカキツバタを栽培する田んぼで有効な農薬は今もないという。その状態はふつう考えれば、経営の弱点になる。だが岩見さんは、そのハンディを逆手にとり、「多様な生き物が生息できるという環境」として再発見した。逆転の発想と言うべきだろう。
他の農家も目を凝らせば、隠れたビジネスチャンスが見つかるはずだと思う。

流木も販売している

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