就農者50人が集う「東京ネオファーマーズ」とは~挑戦する脱サラ農家~

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就農者50人が集う「東京ネオファーマーズ」とは~挑戦する脱サラ農家~

就農者50人が集う「東京ネオファーマーズ」とは~挑戦する脱サラ農家~
最終更新日:2019年11月28日

「東京NEO-FARMARS!(ネオファーマーズ)」という名前の新規就農者のグループがある。かつては新たに就農することが考えられなかった東京で、都市近郊農業に挑戦している農家の集まりだ。今回紹介するのは、青梅市で就農し、メンバーに加わった永易征道(ながやす・まさみち)さんだ。

会社員から見た1次産業

「この辺りまで水につかってしまいました」。10月半ば、永易さんはサトイモ畑で地面から30センチくらいのところに手をかざしながらそう語った。関東各県を暴風雨が襲った台風15号の影響だ。
幸いなことに、サトイモは11月半ばから無事収穫を始めることができた。だが今年の夏は日照不足でニンジンが生育不良になり、出荷できないということも経験した。天候に左右される農業の難しさを実感しながら、栽培技術の向上を目指す毎日だ。後述するように、そこで支えになるのが東京ネオファーマーズのメンバーたちだ。

永易さんはいま46歳。2017年春に青梅市で就農した。栽培面積は70アール。サトイモやニンジンのほか、タマネギやカブ、ダイコンなどを農薬や化学肥料を使わない有機農法で育てている。
新規就農の有機農家の中には、何十種類もの野菜を育てている人が少なくない。いわゆる多品種少量栽培だ。だが永易さんは、品目を絞り、個々の野菜をたくさん作るという方法を選んだ。この営農の仕方には、会社に勤めていたときの経験が反映されている。

台風で水につかった高さを手で示す

「ずっと環境問題に関心がありました」。永易さんはこれまでの経歴をふり返ってそう語る。大学では、都市部が郊外より高温になるヒートアイランド現象について卒論を書いた。
卒業後はある大手企業に勤め、護岸の緑化や段ボールのリサイクルなど、環境関連の事業に携わった。その後、木材チップの加工を手がける会社に転職し、生産や営業、販売の仕組みを再構築し、収益を改善する仕事を担当した。
就農を考え始めたのは、40歳のころ。学生時代からずっと環境問題に関わってきた延長で農業にもともと興味があったのと、2番目に働いた会社で林業に接して1次産業への関心が強まったことがきっかけになった。

就農に際して有機農業を選んだのもこうした流れからだ。「農薬を使わないから環境に優しい」という意味ではない。有機農業なら地域資源を循環させることができると考えた。具体的には現在、周辺の養鶏場が鶏ふんを発酵させて作った堆肥(たいひ)を使っている。

メインの作物の一つであるカブ

農業を始めることを考え始めた永易さんは、農業法人などが人材を募集するフェアに行ってみたり、農家を訪ねてみたりして、農業について調べ始めた。一様に言われたのは「農業で暮らしていくのは厳しい」ということだった。「ある程度の貯金が必要」とも言われた。
そこで会社を辞める前に2~3年かけて貯金を殖やした。永易さんには2人の子どもがおり、家族の理解も大切だった。自分がなぜ農業をやりたいのか、就農後にどんなプランがあるのかを、時間をかけて妻に説明した。
会社を辞めたのが4年前。有機農家のもとで1年間研修した後、もともと住んでいた青梅市で就農した。最初に借りた農地は13アール。青梅市があっせんしてくれた。

品目選びと販路の確保

ではなぜ多くの有機農家のように、多品種少量栽培にしなかったのか。農薬を使わない有機農法は作物が病害虫にやられる恐れがあるが、たくさんの品種を作ればリスクを分散できるというメリットがある。
これに対し、永易さんは品目を絞って大量に作ることで、栽培効率を高めようと考えた。2番目に働いた会社で、経費を抑えて収益力を高める仕事を担当していたことがこうした判断の背景にある。多品種少量栽培だと、梱包などに手間がかかることも考慮した。
その際、品目が少ないと害虫に一気に作物がやられるリスクも当然考えた。それを防ぐため、ニンジンやタマネギ、ダイコンなどを栽培することにした。葉物野菜と違い、土の中で育つ分、畑がまるごと害虫の被害を受けるようなリスクは回避できると考えたのだ。

ダイコン畑で雑草を抜く

就農に際して何をどう栽培するのかと並び、課題だったが販路の確保だ。そこで頼りになったのが、東京都農業会議で就農支援の仕事をしている松沢龍人(まつざわ・りゅうと)さんだ。いま東京で新たに農業を始めた人のほとんどは、農地や売り先の確保で松沢さんのサポートを受けている。

永易さんも会社を辞める前から松沢さんに相談しており、就農後は総菜メーカーやスーパーを紹介してもらった。とくに限られた品目を大量に作っている永易さんにとって、漬け物などの原料にする野菜を大量に必要としている総菜メーカーは売り上げを支える有力な売り先となった。永易さんは取材の中で、「松沢さんには本当に感謝しています」という言葉をくり返した。

東京都農業会議の松沢龍人さん

刺激し合う仲間「東京ネオファーマーズ」

ここで東京ネオファーマーズについて触れておこう。井垣貴洋(いがき・たかひろ)さんと美穂(みほ)さんの夫婦が東京都西多摩郡瑞穂町で2009年に就農した。その際にバックアップしたのが松沢さんだ。
それまで新規就農は農業が盛んな地方でスタートするのが常識で、東京で新たに農地を借りて農業を始める人はいなかった。だが井垣夫妻が登場したことで、就農希望者が続々と松沢さんのもとを訪ねるようになった。

人数が増えてくると、松沢さんを囲んで月に1回、懇親会を開くようになった。そこで何かグループ名があったほうがいいということになり、メンバーのロゴを作ったりしているデザイナーが東京ネオファーマーズと命名した。メンバーは東京の西多摩地区を中心にすでに約50人になった。
東京ネオファーマーズは共同で野菜を販売するかちっとしたグループではない。活動の中心は懇親会に集まり、情報交換したり励まし合ったりすることだ。だがそこで意気投合し、マルシェを一緒に開くこともある。

東京ネオファーマーズの懇親会

青梅市で就農したメンバーも定期的にマルシェを開いており、永易さんもそこに参加している。加えて意義が大きいのは、栽培に関する意見交換だ。永易さんも、青梅市のメンバーに「タネはいつまいたらいい?」「どうやって病気を防いでるの?」といったことを相談しているという。
都市部に住む人が農業を始めようと思うと、これまでは地方に引っ越して就農するパターンがほとんどだった。だが東京ネオファーマーズが誕生したことで、都市近郊での就農が脚光を浴びるようになった。

東京で農業をやることのメリットはさまざまにある。例えば、生活環境を大きく変えないですむ。地方と違って広い農地を借りて売り上げを大きくするのは難しいが、夫婦の片方が農業をやり、片方が会社に勤めるなどして家計を支え合うことができる。働く場所は地方よりも多いからだ。
さらに大きな利点は、売り先が目の前にたくさんあるということだ。消費者に直接販売し、畑のイベントに招いてファンを増やすことも、地方と比べてやりやすい。マルシェが盛んなのもそうした一環だ。

「心の中でちょっとライバル視しつつ、お互いに刺激し合っています。みんなで盛り上がっていければいいと思っています」。永易さんは仲間の農家たちについてこう語る。大勢の農家が同じ作物を同じように作る地方の産地と違い、このゆるやかな連携が東京ネオファーマーズの魅力だろう。

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