■阿部俊樹さん(通称:しなやん)プロフィール
三重県四日市市のキュウリ農家、しなやかファーム代表。1981年生まれ。進学を機に名古屋に出たのち会社員を経て2017年、35歳の時に帰郷し、兼業農家であった両親から農地を引き継ぐ。四日市市内で当時唯一のキュウリ農家となり、現在はブルームキュウリ専門農家に。販路開拓も自身で行い、三重県内のスーパーや産直ECにて販売。Twitterを活用したさまざまなプロデュース、ポッドキャスト人気番組を手がけ農の魅力を発信している。 阿部さん(しなやん)のTwitter |
ある日、がんの宣告を受ける
西田(筆者)
まずはどういう経緯で健康診断を受けに行こうと思い、がんが見つかったのでしょうか?
でも2021年のその時はふと思いついて、健康診断を受けに行こうと。その理由のひとつに、自分がというより同じ年齢の妻に健康診断を受けてほしかったというのがあります。
阿部さん
西田(筆者)
そしてその検査の結果、甲状腺がんだと判明しました。
阿部さん
西田(筆者)
その時に大切な家族を悲しませてしまったと実感し、“他人ごと”から“自分ごと”になりました。
阿部さん
西田(筆者)
一方で、今は情報がありすぎて、そのせいで不安になってしまう時代ですよね。がんに関しても、ネット上にいろんな情報が飛び交っている。むしろ不安な時は見たくないものほど目につくことがあると思うのですが、阿部さんはどうでしたか。
阿部さん
Twitterでがんの告白、その時……
西田(筆者)
なぜTwitterでがんであることの告白をしたのでしょうか。
でも、もし発見が遅れていたら、緊急性のある病気だったらどうだったのかと。もっと妻や子供達を悲しませていただろう。そんな悲しい思いを他の農家にさせたくない。ひとりでも多くの人に健康診断に行ってほしい。そんな思いでツイートしました。
阿部さん
西田(筆者)
「今までと全く違った内容のツイートで驚かせるかもしれない」「そんなこと公に言うべきではないかも」「これまで築いてきた信用が崩れるかもしれない」「がんの人が育てた野菜は不健康だと思われないだろうか」「地域の人達はどう思うだろう」「子供達に対してネガティブな影響はないだろうか」
そのようなことをいろいろと考えました。でも多くの農家にこんな経験を味わってほしくないと強く思い、ツイートする前に思いの詳細をnoteに書いて、家族にも「お父さんはこんなこと思っているからツイートしていいか」と確認をとり、覚悟してツイートしました。
阿部さん
突然の報告で驚かせてすみません。悪性の腫瘍が見つかり医者から「がん」と告知されました。公表するか悩みましたが一人でも多くの人に知ってもらうことが最善の選択でした。同じ悲しみを生まないために検診を受けてほしい。そして僕は「農家と健康」の新しい文化を作ります。https://t.co/a2Wv6hRlyi
— しなやん|百姓 (@shinayan_way) January 20, 2022
西田(筆者)
阿部さん
西田(筆者)
手術後の経過はどうですか?
今も3カ月に1回検診に行っています。その都度転移がないかとドキドキしています。私の場合、安心できる状態になるまで8年とも10年かかるとも言われていますので、いつも心の片隅にあって落ち着かないところがあります。
阿部さん
西田(筆者)
あと、どんなことがあっても畑に行きたくなるのが自分でも意外でした。強烈に死を意識した時に自分の中に農業が残りました。
阿部さん
西田(筆者)
健康診断の大切さ
西田(筆者)
阿部さん
西田(筆者)
人間ドックまでいかなくても、まずは簡単な健康診断の受診を習慣化してほしいです。また女性農業者も増えてますが、女性特有の病気もあるので、女性もぜひ健康診断を受けてもらいたいと思います。
阿部さん
西田(筆者)
命のもとである食料を育てている農業は「究極のサービス業」というのが私の自論ですが、それも提供し続けてこそですね。
実は私の妻は現役の看護師なんです。毎年、地元の石川県能美市から無料で受けられる健康診断の案内がある度に「今年こそ受けに行くように」と言われていたのですが……。それこそ初めに阿部さんが話していたように、自分だけは大丈夫だと何となく思いこんで受けていませんでした。阿部さんのお話を聞いて、今年こそはと強く思いました。
阿部さんが大変な思いをしてきたことを隠すことなく伝えてくださったことで、私を含め多くの人に気づきを与えてくれたと思います。本当にありがとうございました。