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超赤字農家を継いで年商1億越え! 直販で成功のヒケツとは【ゼロからはじめる独立農家#50】

西田 栄喜

ライター:

連載企画:ゼロからはじめる独立農家

超赤字農家を継いで年商1億越え! 直販で成功のヒケツとは【ゼロからはじめる独立農家#50】

農業経営に関する著書もあり、今や年商1億4000万円を超える農園の代表となった寺坂祐一(てらさか・ゆういち)さんの農業人生は波瀾(はらん)万丈。超赤字農家の後を継ぎ、先代では手掛けていなかったメロン栽培にゼロから挑戦。不作やメロン相場の暴落に苦労しつつも、逆境をバネに乗り越えてきました。そんな寺坂さんの運命を変えたのはダイレクトマーケティングとの出会い。その活用法などを聞きました。

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【本文】
■寺坂祐一さん プロフィール
寺坂農園代表。1972年、北海道富良野市の農家に生まれる。農業高校卒業後の1991年、18歳で就農。その後、1993年農業高校農業特別専攻科を卒業。現在はメロンを中心に全国の家庭に農産物を直接届ける「直送農家」として知られる。
2015年「直販・通販で稼ぐ! 年商1億円農家」、2020年「農家はつらいよ」を出版。現在オンラインスクール「農業始めたい人の学校」学長として活動中。

寺坂さんのTwitter
https://twitter.com/furanomelon

寺坂農園のホームページ
https://furano-melon.jp/

引き継いだら超赤字だった

西田(筆者)

寺坂さんは高校を卒業してすぐ、実家の寺坂農園を実質的に引き継いだそうですが、その時の農園はどんな状況だったのですか?
当時(1991年)は耕地面積が全部で4.5ヘクタール。そのうち、水田2.5ヘクタール、大豆1ヘクタール、あとはニンジン、アスパラガスなどを育てていました。

継いでから分かったのが年間売上600万円、借金1400万円 の超赤字経営だということ。年間150万円の赤字を父親が外で働いて補填(ほてん)するというありさまでした。

寺坂さん

西田(筆者)

ゼロからどころかマイナスからとは、いきなりハードモードですね。よく引き継ぎましたね。
その当時は長男として引き継ぐのが当たり前だと思っていました。就農しながらも通っていた農業特別専攻科の 先生に相談したところ、先生もうすうす気づいていたようで「寺坂、メロンをやってみないか」と。そして「親や祖父を頼りにしないで自分でやるなら教えてやる」と言われ、家族の反対を押し切り、まずは50mハウスでメロンの栽培を始めました。

寺坂さん

寺坂農園のビニールハウス群

西田(筆者)

現在の寺坂農園の代表作物というとメロンですよね。先生との出会いは大きいですね。
その先生がいなかったら、今は農家をやってないでしょうね。最初、メロンは全量農協出荷でした。その頃は夕張メロンのブームなどもあり、高値で売れたんです。
さらにニンジン相場の値上がりなども功を奏して、就農6年目でなんとか借金完済できました。

ただ、そうこうしている間に不況が本格的になり、世の中はデフレ経済に。メロンの買い取り価格もどんどん下がって、1200万円売り上げても所得は200万円まで下がりました。結婚したこともあって、このままでは家族が食べていけない、利益率を上げなければいけないと直売所をやることを決意し、2000年にオープンしました。当時はまだ「ダイレクトマーケティング」という言葉も知らず、経営に関してはあまり勉強していない状況でした。

寺坂さん

栽培とダイレクトマーケティング

西田(筆者)

寺坂さんといえば著書「直販・通販で稼ぐ! 年商1億円農家」があるように、農業界ではダイレクトマーケティングの先駆者というイメージがあるのですが、原点はリアルな直売所からなんですね。

寺坂農園メロンの直売所

ただ、直売所の立地がそれほどよい場所でもなかったので2年目(2001年)から通販を始めました。チラシを作って1年目に買っていただいた人や知り合いに郵送したんです。また、ちょうどIT革命と呼ばれる時代でもあり、いち早くインターネット販売に乗り出しました。
その頃から、とにかく本を読むようになりました。そんな中、ふと手に取った本の中に、ダイレクトマーケティングの本があって、「まさに自分がやっていることだ!」と。

寺坂さん

西田(筆者)

バックの本棚にも沢山の本がありますね。

寺坂さんの部屋の本棚にはたくさんの本が並ぶ

直販を始めたことで自分が経営者であることを認識しました。当時は地方で情報を手に入れるには本しかなく、マーケティング本、経営本をとにかく読みました。またダイレクトマーケティングの勉強会など直接学びにもいきました。

2011年にはFacebookマーケティングのコンサルタントを入れ、そのおかげでフォロワーが急増しました。販売先も全国に広がり、その年に売り上げが1億円を突破、寺坂農園も法人化しました。

寺坂さん

西田(筆者)

寺坂さんのその行動力はすごいですね。情報発信は現在も頻繁に行っていらっしゃいますが、何か意識していることはありますか。
今も郵送でのDMは続けています。SNSも毎日Facebook、インスタ、Twitterの投稿は欠かさず、ショート動画も配信しています。 

気をつけているのは見た人が心地よさを感じてくれること。それを意識しています。

寺坂さん

精神的支えの大切さ

西田(筆者)

ここまでの話を聞くと順風満帆に感じますが、もう1冊の著書「農家はつらいよ」によると、地域、また家族との確執など精神的にかなり苦労されてきたようですね。そこはどう乗り越えてきたのでしょうか。
うちはかなりひどかったのですが、総じて農家は苦労していても具体的な内容は外に話さないですよね。地域の中で相談すると「みんな大変。父親との確執なんてどこでもあるよ」と諭され、そして「寺坂さんのとこ、親子関係がうまくいっていないらしいよ」とうわさが広まる。

父親との親子関係に悩んでいた時に、「ユダヤ人大富豪の教え」などを書いた本田健(ほんだ・けん)さんが音声CDセミナーの中で勧めていたカウンセラーのカウセリングを受けました。当時の我が家の経済事情から考えるとカウンセリング料を捻出するのは大変でしたが、受けて本当によかったです。「王様の耳はロバの耳」と叫べる穴のように、思いを吐き出すのはとても大切なことでした。

寺坂さん

西田(筆者)

「農業は自然に囲まれてストレスがなくていいですね」と言われることありますが、実際には厳しい自然環境に左右されます。しかもそれを誰のせいにもできない。また地域の濃い人間関係などのせいで鬱になる人も少なくない仕事だったりしますよね。
所得を上げるためには経営のコンサルティングを受けることも大切ですが、自己肯定感が低いと、それが逆効果になることもあります。私はコンサルティングの前にカウンセリングが必要だと感じています。自分自身に対する感情をマイナスからせめてゼロにする。そこではじめて「目的を立て」「目標を持ち」「戦略をねり」「戦術を実行していく」ことができると思います。

寺坂さん

寺坂農園ホームページ

西田(筆者)

寺坂さんは現在オンラインで「農業始めたい人の学校」の学長をやっていますが、そんな思いもあるのでしょうか。
「農業始めたい人の学校」は講師陣による栽培計画、経営、マーケティングの技術を習得できるのはもちろんですが、相談できる先生や仲間ができるのが大きなメリットだと思います。また、心のサポートも大切にしています。心持ちとしては30年前の自分にアドバイスするつもりでやっています。

寺坂さん

西田(筆者)

資材・肥料の高騰や、そんな中でも価格転嫁が難しいなど、農業をとりまく環境が厳しい時代。そんな時に心の支えというのは何より大切ですね。心が前向きにならないと挑戦もできませんしね。寺坂農園の成功の一端をうかがわせていただいたように思います。

寺坂さんにはビニールハウスの活用法や今後の情勢における栽培についても近々教えていただければと思っています。本日は貴重なお話をありがとうございました。

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