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北の大地で施設栽培。柔軟に経営のあり方を変えるメロン農家の戦略とは【ゼロからはじめる独立農家#51】

西田 栄喜

ライター:

連載企画:ゼロからはじめる独立農家

北の大地で施設栽培。柔軟に経営のあり方を変えるメロン農家の戦略とは【ゼロからはじめる独立農家#51】

大規模な土地利用型の農業のイメージが強い北海道。そんな北の大地のど真ん中、中富良野町にある寺坂農園は施設栽培中心の農家です。代表の寺坂祐一(てらさか・ゆういち)さんは、メロンを皮切りにミニトマト、アスパラガスも栽培しています。「農業を継続していくために必要なのは柔軟な姿勢」と語る寺坂さんは、農園の栽培品目も経営状況に合わせて大きく変化させてきました。これまでの試行錯誤とその中で見つけた大切なこと、そしてそれをふまえた今後の戦略について聞きました。

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寺坂祐一さん プロフィール

寺坂農園代表。1972年、北海道富良野市の農家に生まれる。農業高校卒業後の1991年、18歳で就農。その後、1993年農業高校農業特別専攻科を卒業。現在はメロンを中心に全国の家庭に農産物を直接届ける「直送農家」として知られる。
2015年「直販・通販で稼ぐ! 年商1億円農家」、2020年「農家はつらいよ」を出版。現在オンラインスクール「農業始めたい人の学校」学長として活動中。

寺坂さんのTwitter
https://twitter.com/furanomelon

寺坂農園のホームページ
https://furano-melon.jp/

 

施設園芸で規模拡大の裏では苦労の連続

西田(筆者)

前回の記事では、超赤字経営を引き継ぐもダイレクトマーケティングの手法で売上1億円超えに至った経緯と、その裏で苦労したことなどをお話していただきました。今回は、栽培している品目やハウスの運営についてお聞きしたいと思います。

今や寺坂農園の代表作物となったメロンですが、栽培のキッカケは農業高校の先生の勧めだったと前回お聞きしました。栽培を始めるにあたっての苦労はありましたか?
新規就農者は新規就農ならではの苦労があると思いますが、後継ぎは後継ぎだからこその大変さがあります。その筆頭が新しいことをやる時に反対されるということ。

後を継いですぐ、メロンの栽培を始めようとした時に、祖母から「雑草管理が大変」「そんな時間がどこにある」と大反対されたんです。確かにただでさえ忙しいのに、メロン栽培が加わると大変だと思っていました。でも超赤字の状態で農園を引き継ぎ、このままではダメだということは分かっていたので、メロンをやることを決断しました。

寺坂さん

西田(筆者)

引き継いだ時はコメ、大豆、ニンジン、アスパラガスを栽培してたんですよね。そこにメロンが加わるのは確かに大変そうですね。
いろいろな意味で大変でした。ある日、メロンの様子を見に行ったら大切なつるがない。祖母が「こんなワサワサだと育たん」と勝手につるを切ってしまっていたんです。手を借りないでやる覚悟はありましたが、まさか手間が増えることになるとは、とがくぜんとしました。

それでも、できたメロンを近所や知り合いにお裾分けしたらホントに喜んでくれて、おいしいと褒めてくれました。それまで農業は大変なだけで、親からも祖父からも褒められることがなかったので新鮮でした。

寺坂さん

西田(筆者)

その食べた人の喜びを直接見られたことが、寺坂さんをダイレクトマーケティングの道に進ませたキッカケなのかもしれませんね。でもまったく経験がないメロン栽培、最初はどうでした?
意外なことに、初年度は大成功で豊作でした。「こんなに簡単にできるものか」と、翌年には150万円借金して50メートルハウスを2棟建てて栽培したんですが、メロンが不作で。天候不順もあったとはいえ、また借金を増やしてしまったと青ざめました。

寺坂さん

西田(筆者)

私も含めてなんですが、この農作物におけるビキナーズラックは何なんでしょう。農家仲間に聞いても、初年度は豊作で2年目は不作という経験をする人が多いですよね。

そんな苦労を重ねつつも、寺坂さんがメロン栽培の規模を拡大できたのはすごいですね。
不作を味わったことで、本気で土づくりや栽培の勉強をするキッカケになりました。今もぼかし肥料づくりは冬場の大切な仕事です。このおかげで32年間連作障害なくやれています。

そして26歳の時、50メートルのハウスを10棟まで拡大しました。当時はとにかく休む暇がなく、体力には自信があったのですが、いよいよ限界でした。そのタイミングでメロンの買い取り価格が暴落し、私の手取りを時給換算したら300円以下になってしまって……。根本的な経営の見直しを迫られました。

寺坂さん

苦労があったからこそ安定した品質が保てるようになった寺坂農園のメロン

コメをやめた寺坂農園の品目選びの基準

西田(筆者)

体が限界に達したところでメロンの買い取り価格の暴落とは! しかし、それをキッカケに直売所をオープンし、ダイレクトマーケティングの道に進んだわけですね。その時に栽培品目も変えたのでしょうか。
それまでコメとニンジンも栽培していたのですが、メロン栽培と忙しい時期が重なり、結果的にどちらもおろそかになってしまう。そこでコメをやめる決意をしました。富良野は北海道の中でも稲作が盛んな地域なので、やめると決断した時は周囲の農家からかなり責められました。
それでもその時に決断してよかったと心から思います。

寺坂さん

西田(筆者)

経営的戦略が大きいと思いますが、直売を始めたことで意識が変わったのかもしれませんね。
意識はかなり変わりました。コメは全量農協出荷だったので消費者の顔が見えない。その点、メロンは直売しているのでダイレクトに反応が返ってきます。それからは栽培品目もどんなものがお客さんに喜んでもらえるかを基準に考えるようになりました。

寺坂さん

西田(筆者)

現在の栽培品目と規模を教えてください。
現在はメロン、アスパラガス、ミニトマトが中心になっています。それぞれハウス26棟、4棟、2棟育てています。

寺坂さん

西田(筆者)

ミニトマトですか! それこそメロンの栽培時期と丸かぶりしていそうですが。
ある日、後輩農家が「ほれまる」という品種のミニトマトを「試食してみてください」と持ってきたんです。食べてみたら衝撃的においしくて、これを育ててみたいなと強く思いました。
「ほれまる」ならお客さんが喜んでくれるという確信がありました。まさに忙しい時期はメロンと重なりますが、従業員も食べたら納得のおいしさで。実際、お客様からの喜びの声が従業員たちのやりがいにもなっています。

寺坂さん

寺坂さんが何より味に惚れたミニトマト「ほれまる」

この先の展望

西田(筆者)

寺坂農園というとメロンという印象が強いのですが、売上比率はどうなんでしょう。
以前はメロンの売り上げが8割だったこともあったのですが、今はメロンの売り上げが5割、あとはミニトマト、アスパラガスで4割、あと1割は他のものといった感じでしょうか。

今の時代、一つの品目に偏ってると何かあった時に怖いなと思い、そのように変化させてます。また寺坂農園のものだけでなく、提携している農家仲間のものも販売しています。

寺坂さん

西田(筆者)

直売所やECサイトでの通販といった販売チャンネルを持っているのが強みですね。
「何かあった時」とはかなり危機感を持っているようですが、それはどこから?
このところ人件費が上がっています。富良野で時給1100円出してもパートが来ない。そして資材、肥料、農薬代も上がっている。それに、日本人の少子高齢化、人口減も実感しています。何年もうちで購入してきた方が介護施設に入ったり、年金暮らしになったからと購入をやめたり。そういう人が近年一気に増えてきました。

そこで今年から33棟あるビニールハウスのうち、3棟で栽培をやめる決断をしました。収穫量は減りますが、これまで以上に良いものを育てることに注力しようかと。販売価格も8%上げることにしました。

寺坂さん

西田(筆者)

それはすごい決断ですね。さらにこの先の経営戦略を教えてください。
経営には目標設定型と展開型があります。目標設定型は数値目標を設定してそこを目がけて全力疾走すること。展開型はその時々によって柔軟に変化させていく方法です。寺坂農園ではずっと目標設定型でやってきていたのですが、ここに来て展開型を重視しています。ここ数年で時代がすさまじく変化していますしね。そんな時は目標にしばられると逆効果になります。

寺坂さん

ベビーメロンを活用した寺坂農園自社製造のピクルス。寺坂農園では、栽培ができない冬場に雇用を確保するため、6次化にも注力している

西田(筆者)

どんどん変化していく寺坂農園。そんな柔軟な姿勢に寺坂農園の強さを実感しました。これからの展開も楽しみにしています。隠し立てすることなく教えていただき本当にありがとうございました。

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