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梅産地のPRをけん引した「梅ボーイズ」が、新規就農支援と産地の“自己改革”に取り組んだワケ

梅産地のPRをけん引した「梅ボーイズ」が、新規就農支援と産地の“自己改革”に取り組んだワケ

日本有数の梅の産地、和歌山県みなべ町。後継者不足の解消と産地振興に取り組む「梅ボーイズ」のリーダー山本将志郎(やまもと・しょうしろう)さんは、この町に梅農家の三男として生まれました。甘い調味梅干しが名産品とされる和歌山県ですが、梅農家で食べられているのは、いまも塩とシソだけで漬けたすっぱい梅干し。山本さんは、昔ながらの味を柱に6次化を進め、3年という早さで軌道にのせました。この取り組みは、「伝統の梅文化を残したい」という思いから生まれたものでしたが、「このままでは日本一の梅産地が本当に消えてしまうかもしれない」という危機感から始めた取り組みでもありました。

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外から人を呼ぶ前に、まずは町の自己改革からスタート

山本さんは自身のYouTubeで、就農支援に取り組むきっかけとして、みなべ町の梅農家の後継者不足や就農希望者の定着率の低さを挙げています。
また実家では、梅農家を継いだ兄が、どんなに丹精込めていい梅を育てても、ほぼすべての梅が調味液の味付けになることに落胆している姿がありました。山本さんは、“自分たちが本当に届けたい味を商品化できていない”ことが、離農の原因になっていると確信。梅を中心とした活性化の仕組みを、みなべ町に作っていくことにしました。外から人を呼ぶ前に、まず自己改革が先だと考えたのです。

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みなべ町の梅農家は、収穫後、梅の塩漬け(1次加工)をしてから梅干し加工業者へ納品しています。実は、この過程で派生する大量の梅酢を持て余していました。農家によってはお金を払って廃棄していましたが、山本さんが代表を務める株式会社うめひかりでこれを引き取り、梅酢の商品化を進める仕組みを考えました。

また、梅干しの商品化では、近隣農家の梅干しを食べ比べできるセット商品を企画。購入者には、商品レビューへの協力を後日メールで依頼し、消費者の声をフィードバックする仕組みを作りました。廃棄していた梅酢の有効利用や、農家が本当に届けたい梅干しを商品化し、農家のメリットとやる気を引き出しながら、ECサイトを軌道にのせた山本さんは、2021年1月、YouTubeで本格的に新規就農者募集を呼びかけることにします。

梅農家と就農希望者、それぞれの本音とマッチングの難しさ

YouTubeなどによる呼びかけを受けて、これまでに7人(いずれも20代)が、みなべ町に就農を希望して移住してきました。現在、そのうちの3人がうめひかりに社員として入社し、梅栽培を学んでいます。

山本さんは当初、梅農家と就農希望者のマッチングをメインに考えていました。農家のもとで農作業を手伝いながら梅栽培のノウハウを覚え、将来的には後継者がいない農家の梅畑を引き継いで独立する──そんな流れを思い描いていたのです。しかし、両者の思惑がうまくかみ合わないことが見えてきたと言います。

「農家はとにかく繁忙期の人手がほしい。そして少なくとも数年は働いてもらいたいと思っています。一方、就農希望者は、ノウハウを学んだらできるだけ早く独立したい。人生をかけて移住したわけですから、急ぐ気持ちもわかります」

さらにもう一つ、見えてきたことがありました。

「農家が自分の畑を継がせたいのは、やはり自分の子どもです。いつか息子の気持ちが変わって後を継ぐかもしれないと思っている。一方、新規就農者に対しては、繁忙期のサポート人員という認識が強い。代々の土地を受け継いできた農家としては当然の気持ちですが、改めて農家の本音を知ることになりました」

就農者育成用の梅畑を作り、社員雇用によって大切な「後継者」を育てる

農家と就農希望者の間に生じていたミスマッチを認識した山本さんは、途中で方向転換をします。うめひかりで梅畑を所有し、そこで就農支援をすることにしたのです。畑は開墾した耕作放棄地をあてることにしました。

「2年で栽培を覚えられるようにしていますが、2年目には、農園長として梅畑をまるごと任せることにしています。梅農家からのアドバイスをもらいながら、まずは1人でやってみる。その後、独立してもいいし、うめひかりの社員として農園長を続けてもいい。2年で完全に独立して農園経営をやるのは、起業と同じくらい難しい。独立までの育成ステップが必要です」(山本さん)

梅農家を目指してみなべ町にやってきた彼らは、独立就農でも雇用就農でも、大切な「産地の後継者」であることに変わりありません。山本さんは、梅農家として独り立ちするにあたり、経営的に必要な広さを1.5町歩(約1.5ヘクタール)と試算しています。2年半かけて開墾した耕作放棄地が、2023年春、ちょうどその面積に達し、独立へ向けたシミュレーションが開始されることになりました。

就農希望者からの問い合わせは、今も全国から月1人のペースで来るそうです。「関心を持ってくれている人は予想以上に多い」と山本さん。

ただし、山本さんが若い就農希望者と接していて感じるのは、農法に関して頭でっかちな持論を持った人が多いこと。そのため、まずは畑の泥臭い作業に地道に取り組むことができるか、が採用の決め手になります。
「今年、新たに2人が入り、去年入社したスタッフは、農園長になります。将来的には、1年に5人ほど採用できるようになりたいですね」(山本さん)

継続的に就農支援ができるのは、「うめひかりという経済的基盤(ECサイトでの商品販売による売り上げなど)があるから」と山本さんは言います。梅の商品化とPRを進めてきた梅ボーイズだからこそ成し得る取り組みと言えるかもしれません。

「半農半林」の就農スタイルで定着率を高める

ところで山本さんは、最近、植林の研修を受けました。
「山を切り開いて作った梅畑が、離農や高齢化などで耕作放棄地化するという問題があるんです。このあたりは、紀州備長炭の伝統があるので、炭の原木であるウバメガシを耕作放棄地化した山に植林し、ウバメガシの山に戻す活動も始めているところです。梅の栽培時期は農業、それ以外の時期は植林作業と、半農半林の働き方も就農者の定着につながるのではないかと思っています」

山に木を植えれば、きれいな水が山に蓄えられ、ふもとの梅畑を潤す。植林事業は梅農家にとっても無関係ではないのです。

一朝一夕には解決しない後継者問題がある中、山本さんは理想と現実のギャップを埋めながら手探りで進んできました。そして、新規就農者育成のために設けた梅畑から農園長を輩出し、いよいよ具体化していきます。耕作放棄地対策をきっかけに、南高梅と紀州備長炭、2つの名産品を生み出す半農半林の取り組みによる可能性も見え、魅力的な産地づくりを目指している山本さんにとって、さらなる追い風となりそうです。

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