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耐暑性と抜群のつるもちで多収の複合耐病性品種「Vブイシュート」

連載企画:注目の春タネ新品種

耐暑性と抜群のつるもちで多収の複合耐病性品種「Vブイシュート」

2023年注目の春タネ新品種について、育種のプロである大手種苗会社・タキイ種苗のブリーダーさんに解説してもらう本連載。第2回のおすすめ品種は「キュウリ」です。

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キュウリ生産の動向

夏秋露地のキュウリ産地では、近年の気象変動で年々作柄が不安定になり、以前のように長期間の安定生産や収穫量の確保が難しくなってきています。また、露地栽培は天候と害虫の影響を直接受けるため、病害虫の発生リスクは高く、薬剤散布による防除が欠かせないのが現状です。

これまで省力栽培の複合耐病性品種「Vアーチ」「Vシャイン」を発表してきましたが、ゲリラ豪雨、記録的猛暑、台風が頻発する環境変化の中でも「栽培後半まで草勢が安定」「うどんこ病、べと病、モザイク病(ZYMV)に加え、褐斑病、黒星病、モザイク病(PRSV)にも耐病性」の品種開発を進めてきました。2019年から3年間の試作を経て収量性、秀品性、耐病性、省力性、栽培安定性にすぐれた特性を確認し、東北をはじめとする夏秋露地の産地で導入が進みましたので、この度「Vシュート」として発表いたします。
ZYMV:ズッキーニ黄斑モザイクウイルス
PRSV:パパイア輪点ウイルス

品種特性

秀品率が高く、果長が安定

果皮は濃緑で、果実の長さは21~22センチ前後でよくそろい、短果になりにくく、栽培後半まで出荷規格の長さを維持できます。

果長は平均21~22㎝で秀品率が高い

安定した草勢で 長期間栽培可能

葉は濃緑色で側枝も太く、栽培後半まで草勢が維持できます。主枝雌め
花率は40%程度(4~5月播種)で日々の収穫量の山谷が少なく、栽培後半までスタミナが持続し多収が期待できます。

葉が立性の省力草姿

主茎の葉の大きさは、「Vアーチ」「Vシャイン」よりもやや大きめです。葉柄は立性なので、収穫作業で果実を容易に見つけることができます。側枝以降の葉は小さくなるので、栽培後半は摘葉を中心とした半放任栽培で管理することが可能です。

褐斑病、黒星病、モザイク病(PRSV)にも強い複合耐病性

従来の「Vシリーズ」がもつうどんこ病、べと病、ウイルスによるモザイク病(ZYMV)耐病性に加えて、褐斑病、黒星病、モザイク病(PRSV)に複合耐病性です。褐斑病は、感染拡大のスピードが著しく早く、8月以降に夏秋露地栽培で問題になる難防除病害です。黒星病は低温期の降雨などで広がり葉や茎に感染し、冷涼地では定植後から防除が必要になる病害です。また、パパイア輪点ウイルス(PRSV)はアブラムシ媒介で広がる西日本、九州で発生の多いモザイク病です

栽培ポイント

露地早熟から普通露地が最適

すべての露地作型や東北地方で導入の多い防虫ネット栽培で使用可能ですが、栽培期間が長い作型で最も能力を発揮するので露地早熟(5月中旬)〜普通露地(6月下旬)までの定植が最適作型です。

土づくりと肥培管理

有機質に富んだ水はけのよい土壌が望ましいですが、水田土や粘土質などの水はけが悪い圃場では排水対策(暗渠、明渠、高畝、土壌改良資材投入)が必要です。元肥は10アール当たりチッソ成分で25キロ程度を目安とし、追肥主体の肥培管理がポイントです。

強勢台木の「スターク」で株づくり

定植後から10日程度は、毎日こまめに定植苗の周辺を十分に潅水して活着を促します。主枝7〜10節までの雌花を除去し、初期の株づくりに努めましょう。

1本仕立ては「力枝」を利用する

株間によって仕立ては異なりますが、70〜90センチの株間の場合は、主枝+側枝1本利用の2本仕立てを推奨します。株間が100センチを超える場合は、主枝+側枝2本利用の3本仕立ても可能です。70センチ以下の株間で主枝1本仕立ての場合は、中段から強い側枝を「力枝」として残して誘引することをおすすめします。

整枝は腰より下の節位は1節摘芯、上の節位は2節摘芯を基本とし、主枝は手が届く高さで遅れないように摘芯します。

草姿立性で風通しがよく、収穫果が見つけやすい

5孫枝以降は半放任で管理

下位節の孫枝までは整枝が必要ですが、収穫最盛期の枝の摘み過ぎには注意しましょう。多くの果実が着果している場合、株への負担が大きいため、次の枝(新芽)の展開が停滞することがあります。

また、急激な草勢低下は不良果の発生につながりますので、収穫、潅水、追肥など草勢を維持することに集中し、収穫量が少なくなってきてから、枝摘み、摘葉などの管理を進めるようにしましょう

左:Vシュート、右:他社品種。褐斑病にも強い「Vシュート」(9月上旬福島県)

(執筆:タキイ長野研究農場 馬塲 大悟)

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