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捨てられる稲わらにビジネスチャンス 肥育牛のエサとして高い需要

山口 亮子

ライター:

捨てられる稲わらにビジネスチャンス 肥育牛のエサとして高い需要

日本全国、水田のあるところ、どこにでもある稲わら。とくに肉牛のエサとして引き合いがあるが、農水省によると国内で飼料として使われるのは国産稲わらの1割弱に過ぎず、一部は輸入に頼っている。その主要な輸入元である中国からの調達がコロナ禍で滞り、価格が高騰して畜産農家を悩ませる結果になった。食料安全保障が注目を集める前から、畜産と稲作の農家が連携して稲わらを使う先進事例はある。連携の動きを紹介しつつ、国産が足りない理由も解説する。

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循環型農業で粗飼料の87%が国産

日本の飼料自給率は、わずか25%に過ぎない(2021年度概算、農林水産省調べ)。干し草や稲わら、サイレージ(サイロなどで発酵させたエサ)といった粗飼料は国産が比較的多く、自給率は76%。国は2030年度にその自給率を100%まで引き上げると掲げている。

そんな中、粗飼料の国産割合が87%に達していて、その割合をさらに高めようとしている農業法人がある。愛媛県西予市で独自のブランド牛「はなが牛」やブランド豚「はなが豚」を飼育する株式会社ゆうぼくだ。

「環境への負荷の少ない、無理のない農業を目指す」のが経営の特徴。地元でとれる稲わらや稲発酵粗飼料(稲WCS)、麦わらなどをエサとして与え、畜舎から出る堆肥(たいひ)を地元農家に使ってもらう。そんな循環型農業に早くから取り組んできた。

地元・西予市産の稲わら(画像提供:株式会社ゆうぼく)

過去の高騰きっかけに稲わら収集組織立ち上げ

近年、化学肥料の高騰やロシアのウクライナ侵攻を受けて飼料価格が高騰している。ただ、価格上昇はそれ以前から繰り返し起きており、長期で見ると値上がり基調にある。

2008年には、米国でトウモロコシをエタノールに使う量が増え、オーストラリアで干ばつが続いたことなども影響し、価格が急騰した。

ゆうぼくはこれ以前から、エサを自家配合してきた。「自分で必要なものだけを厳選してエサを作ったら、エサ代がかなり安くなった」と社長の岡崎晋也(おかざき・しんや)さん。

経験や研究成果をもとに独自の配合をする自家配合飼料(画像提供:株式会社ゆうぼく)

「自分たちでできることを広げる」ことを目指す中で、粗飼料を自前で調達できないかと考え、稲わらを飼料にしてはどうかと思い至ったそうだ。

創業者である岡崎哲(てつ)さんは、地元の稲作農家とともに飼料用稲の生産で先進地である熊本を訪れた。稲わらの収集をどうやって事業として成り立たせているか視察し、稲作と畜産の農家双方にメリットがあると事業の立ち上げを決めた。

こうして、ゆうぼくも含め、3軒の農家で稲わらや麦わらなどの収集組織「3F(スリーエフ)クラブ」を立ち上げる。「F」は「ファーマー(農家)」の頭文字をとった。哲さんが出資して機械を購入し、稲わらなどの収集作業にも加わっていた。

3Fクラブは2016年に発展的解消を遂げる。メンバーだった牛の肥育と稲作を兼ねる農家が代表となって、農事組合法人JRBを立ち上げた。JRBは稲わらや稲WCS、麦わら、燕麦(えんばく)や牧草などを生産したり収集したりする。

3Fクラブのころと違って、ゆうぼくはJRBと資本関係はなく、稲WCSを中心に飼料を購入する。発酵させているぶん、牛は稲WCSへの食いつきが最もよく、次に稲わらを好んで食べる。

岡崎晋也さん

デントコーンや飼料用米で地元産の割合アップへ

2016年に社長に就任した岡崎さんは「国産飼料の割合を一層高めたいし、地元の飼料も今以上に増やしていきたい。自分たちも飼料の生産にまでかかわりたいという思いがあるので、何らかの形でJRBの活動を手伝えるようになれたらと考えています」と話す。

地元の飼料を使い、堆肥を農地に施してもらう耕畜連携ができれば地元への貢献になる。海外から穀物を輸送するのに比べ、二酸化炭素の排出削減にもなる。地域内での循環を重視した生産をすることで「地球環境への配慮や、持続可能な社会などSDGsの観点に関心を持つ方にも、商品を選んでいただいています」(岡崎さん)。

ゆうぼくは、地元産の割合を高める手を次々と打っている。北海道でよく使われる飼料用トウモロコシ(デントコーン)のサイレージを試したいと、2023年に10~20アールほど作付けする見込みだ。実際に栽培することで費用対効果や、給餌したときの嗜好(しこう)性も見たいという。

濃厚飼料についても、国産の割合を高めていく。全国平均の自給率が13%のところを、同社は20%に達している。2023年秋から地元の飼料用米の使用を増やし、30%に引き上げることを目指す。

西予市産の飼料用米(画像提供:株式会社ゆうぼく)

「地元のものをできるかぎり使用しながら、牛にも、人にも、地域にも優しいサイクルを作る」と岡崎さん。この目標に向かって試行錯誤を重ねている。

稲わらを給餌しているところ。牛の嗜好性はいいという(画像提供:株式会社ゆうぼく)

取材後記

主に肉牛のエサとなる稲わらは、年間約90万トンが飼料として使われ、うち約20万トンを中国から輸入してきた。コロナ禍による輸送の乱れで価格が高騰したのは先に紹介した通りだ。

全国が供給地になり得る稲わらは、大半が収穫時にコンバインで細断されて田んぼにすき込まれるか、焼却されてしまう。稲わらの収集が進まない理由は、農家に商品だという意識が薄いこと、稲わらをロール状にまとめる機械や貯蔵する倉庫が必要になることなどがある。

畜産と稲作の農家が対話をする中で生まれたJRBのような組織が全国に広がることに期待したい。

株式会社ゆうぼく
https://yuboku.jp/

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