ビニールハウス1棟、牛2頭で創業
田んぼと住宅が入り混じる田園地帯と市街のはざまの一画に、ゆうぼくの本社と直営レストラン「ゆうぼく民」、精肉や加工品を販売する直売店「ゆうぼくの里」がある。レストランの建物はログハウスで、そのデッキは緑の木々に囲まれている。落ち着いた雰囲気の中で、自社農場で育てたこだわりの「はなが牛」や「はなが豚」を使った料理を提供する。
同社は牛600頭、豚50頭を飼育し、それぞれ「はなが牛」「はなが豚」というブランドで販売する。岡崎さんの父・哲(てつ)さんは北海道の酪農学園大学短期大学部を卒業後、北海道の不動産業界で働き、郷里の西予市にUターンした。
「もともと、この場所から経営が始まっているんです。1980年に手作りのビニールハウス1棟で2頭の牛を飼うところからのスタートでした」(岡崎さん)
こだわりが商品価値になると気づく
畜産に新規参入した哲さんは、経営を確立する過程で、今に続くゆうぼくのオリジナリティーを生み出していく。肥育を早める効果のある成長促進剤などを使用しないのは、もとはといえば、コスト削減のために配合飼料の購入をやめ、エサを自家配合に切り替えたのがきっかけだった。
「自分で必要なものだけを厳選してエサを作ったら、エサ代がかなり安くなったんです。そうやって自家配合をするようになって、配合飼料にはさまざまな抗生物質が含まれていたと知って、そうしたものを排除していったんです」(岡崎さん)
経験や研究成果をもとに独自の配合飼料を作り上げ、与えるようになった。そんなこだわったエサで牛を育てていると聞きつけた地元生協の理事から「そういうふうに育てられた牛を食べてみたい」と言われ、こだわりが消費者に認められるのだと気づく。
輸入肉に負けない。販売から加工、レストランまで
おりしも1991年に牛肉の輸入が自由化され、海外産の牛肉が国内で大量に流通するようになっていた。「自分たちで価格決定権を持っていないと、これからの農業者は生き残るのがしんどくなるのではないか」。哲さんはそんな危惧も抱いていたため、自ら肥育した牛の肉を販売しようと決める。
食肉販売業の許可をとり、JAに出荷した牛の枝肉を買い取って売るようになった。「はなが牛」の名前は、地元の歯長(はなが)峠という地名からとった。
肉の加工まで手掛け、食肉加工品によく使われる発色剤や化学調味料、保存料などの添加物を使わない無添加にこだわった。そして、消費者に自分たちがよりおいしいと思う形で肉を楽しんでもらいたいと、1996年、レストラン・ゆうぼく民をオープンする。
お客様目線を徹底して「もったいない」を改善
創業からまもなくオリジナリティーを確立し、事業を拡大したゆうぼく。しかし、2代目社長の岡崎さんが5年間の化学メーカー勤務を経て2013年に入社したとき、その業績は右肩下がりだった。直売店やレストランの組織づくりを担うことになった岡崎さんの率直な感想は「もったいないことがすごく多い」だった。
「コンテンツやプロダクトは、いいものがそろっているんですけど、それを生かしきれていないし、生かすための手法も分かっていないという印象でした」
たとえば、直売店では新商品の情報がコピー用紙の裏紙に書いてある、ほかでは手に入らない希少部位があっても「モモ肉」といった大くくりで販売されてしまっている、レストランはなぜかイタリアンのメニューばかりでサーモンがメインの料理まである、無添加のこだわりについて従業員が理解しておらずせっかくの強みをアピールできていない……など。
そこで「お客様目線を徹底しました。お客様が不快に思うところを改め、こうしたら喜ぶという改善をすべてやりました」と岡崎さん。直売店のポップや値札を整え、希少部位の名前を出して売ることで、選ぶ楽しみが得られるようにした。レストランのメニューは肉をメインに変えて、希少部位も選べるようにした。
「お客様目線」による改革は、短期間に効果を発揮する。レストランは雑誌やテレビ、口コミで評判が広がり人気店になった。ゆうぼくの年間の売り上げは、いまや岡崎さんが入社したころの倍である4億円に達している。
ブランドは知ってもらうきっかけ
岡崎さんはブランディングに成功し、経営をV字回復させた。しかし、ブランドの確立自体が事業の目的ではないと言う。
「ブランドは、私たちの活動を知ってもらうためのきっかけに過ぎないと思っています。納得したものを売りたい、お客様に喜んでもらいたい、ほかでは味わえない体験をしてもらいたい。そういう思いが強いです」
店舗は、本社に隣接する直売店とレストランに加え、愛媛県内に2軒の直売店と1軒のレストランを持つまでになった。
4分の3和牛という珍しい牛も導入
生産部門でも、新たな挑戦を重ねている。2019年にはブランド豚「はなが豚」の肥育を開始。
加えて、「F1クロス」という珍しい種類の牛の繁殖と肥育も始めた。一般的な肉牛には次の3種類がある。和牛と乳用牛の去勢牛、和牛と乳牛の交雑(F1)種だ。F1クロスは交雑種に和牛を掛け合わせたもの。「4分の3が和牛というスリー・クオーターで、市場には出回りません。味が和牛に近く、生育が早いとされています」と岡崎さん。これまで肥育のみ手掛けてきた同社にとっては初めて、繁殖に携わることとなった。
「市場流通においては国産牛、交雑牛、和牛という3つの規格しかありません。そのため『その他肉用牛』になってしまうF1クロスを育てるメリットは、生産者にはありません。その点、自分たちには価格決定権があるので、新しい価値を作ることができるはずだと始めました」(岡崎さん)
新たな挑戦支える若い人材
岡崎さんは今後について「足元をしっかり固めたい」と、生産体制を強化していくつもりだ。飼料については、すでに使っている地元産の飼料用米や稲わらに加えて、トウモロコシといった濃厚飼料も国産を調達できないかとも考えている。
ゆうぼくは従業員45人を擁する。岡崎さんは入社以来、有給休暇をきちんととれるようにする、休日を増やす、給与水準を上げるといった働き方改革を続けてきた。社員は20人いて、平均年齢は29歳と若い。同社は今後も変化を遂げていくに違いなく、それを支える若い人材が次々と集っている。
株式会社ゆうぼく
https://yuboku.jp/