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新規就農者増で売り上げV字回復を実現。山形セルリーを低迷から救ったプロジェクトとブランディング戦略【前編】

新規就農者増で売り上げV字回復を実現。山形セルリーを低迷から救ったプロジェクトとブランディング戦略【前編】

山形セルリーといういっぷう変わった名の商品がある。一般にセロリと呼ばれる作物だが、JA山形市ではフランス語発音の「セルリー」という呼称が用いられている。50年以上の歴史を誇り、ブランド力を生かして堅調な売り上げを作っていた山形セルリーだが、近年は高齢化などにより出荷量低迷の課題を抱えていた。そんな山形セルリーの出荷額をV字回復させたのが、ハウスを団地化するプロジェクトである。いったいどのような取り組みだったのか。JA山形市アグリセンター経済部次長の志田恭一(しだ・きょういち)さんに話を聞いた。

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担い手育成で出荷額がV字回復

山形セルリー誕生の歴史は、約50年前にさかのぼる。1968年、山形市の若手生産者4人がセルリーの栽培技術を学ぶため、「セルリー栽培の神様」として有名だった伊藤仁太郎(いとう・にたろう)さん(東京都)の元へ留学研修に訪れた。当時はまだ世間的になじみが薄く、栽培も難しかったセルリーに、この若手生産者らが挑んだのである。

1969年から山形市でセルリー栽培を開始し、仙台市の市場まで毎日往復4時間かけて出荷した。市場と消費者から高い評価を得られた「山形セルリー」は徐々にブランド力をつけ、1997年には出荷額1億円を超えるまでになった。

東北随一の産地となった山形セルリー。ところが、近年になって施設園芸の品目の多角化や生産者の高齢化などにより、作付面積は減少し、出荷額も2013年にはピーク時の3分の1にまで減少した。

「このままではセルリー部会がなくなってしまう」。危機感を覚えた生産者とJA山形市が2014年に立ち上げたのが、担い手育成を目的とした「農業みらい基地創生プロジェクト」である。

プロジェクトの立ち上げにより出荷額はV字回復を示し、2022年には再び1億円を超えることができた。

ハウス団地の仕組みとメリット

同プロジェクト最大の特徴が、ハウスの団地化だ。農地も就農資金も十分に用意できない非農家であっても、新規就農しやすい環境を整えたことで注目を集めている。

2014年のプロジェクト立ち上げから順次ハウスの棟数を増やして、現在は全79棟。7人の若手生産者が利用している。新規就農者の多くは非農家出身であり、中には東京都から脱サラしてやって来た人もいる。

農協レンタル方式で設備投資がゼロ

山形セルリーのハウス団地は、潅水(かんすい)設備や温度管理システムなどを備えた栽培ハウスを一定地区に集約させ、トラクターなどの農機も共同利用できる。これらの設備や農機はJA山形市が全て用意しており、新規就農者はそれを借りることで初期費用の負担なく就農できるという「農協レンタル方式」だ。

「全くの非農家が新規就農をするのは非常に厳しいものがあります。そこを行政、全農、農協がタイアップして、非農家でも就農しやすい仕組み作りを進めました」(志田さん)

JA山形市アグリセンター経済部次長の志田さん

暗渠(あんきょ)や潅水など設備の整った栽培ハウスがあり、トラクターなどの農機も使えて、貸し出し料金は坪当たり年額1000円。ハウス1棟(約100坪)を借りると年間10万円、10棟で100万円の利用料となる。

志田さんによれば、10棟程度借りている人が多く、10棟での営農で生活できるぐらいの収入になるのだという。

設備の整ったハウスや農機などはJA山形市が用意

ハウス団地のメリットは他にもある。同じ地区内に他の部会メンバーがいるため情報交換がしやすい環境にある。新規就農者にとっては先輩農家からの助言を聞けるため、わからないことがあった時に相談しやすいと志田さんは説明する。

「収穫期には、その日の出荷が終わると、部会メンバーでお茶飲みをしながら情報交換をしています。今日出荷したセルリーはどうだったかなど、ほぼ毎日のようにメンバー同士で話し合っていますね」

孤独な作業になりがちな農業において、仲間が近くにいることは新規就農者にとって精神的な負担軽減にもなりそうだ。

新規就農の流れ

山形セルリーの人材育成では、まず2年間の研修が用意されている。いきなりハウス施設を借りるのではなく、ベテラン農家について、しっかりと栽培技術を学ぶ。

指導者は、かつてセルリー栽培を学ぶため東京に赴いた会田和夫(あいだ・かずお)さんと、現部会長の佐々木弘一(ささき・こういち)さんだ。

研修期間は必ず2年間とされているわけではなく、1年で研修を終わらせる人もいる。

研修を終えると、自分で団地のハウスを借りて営農を開始する。栽培ハウスに加えて、トラクター、管理機、運搬車などが用意されている。坪当たり1000円の団地使用料も、就農1年目は免除されるという。

これまでのところ、ハウス団地から巣立って独自の農地・施設を持つといった生産者は1人もいない。79棟ある施設も全て借りられており、若手生産者は安定的に確保できているようだ。

ハウス団地はJA山形市アグリセンター付近にA、C、D、Eの4地区ある

山形独自の品種が安定収入に

JA山形市で取り扱っているセルリー商品は2種類ある。株の大きな「とのセルリー」と、株の小さな「ひめセルリー」だ。

山形セルリーの「とのセルリー」(画像提供:JA山形市)

とのセルリーとして売られているセルリーはコーネルという品種であり、JA山形市のセルリー部会の中でもベテラン農家を中心に栽培されている。全国でも広く作られており、長野県、静岡県が主な産地で、両県が市場の取り扱い量の多くを占めている。

他県でも広く栽培・出荷されている品種であるため、とのセルリーは出荷額が上下しやすい難点がある。

一方、ひめセルリーは若竹という品種であり、セルリー特有のえぐみが少なく、みずみずしくてやわらかいのが特徴で、一般消費者にも人気の商品だ。

しかも、ひめセルリーは山形県が唯一の生産地であり、出荷量全体の6割近くを値決め販売することができている。

「出荷額1億円を回復させるのにも、ひめセルリーは大きな活躍をしてくれました」と志田さん。

山形だけで作られているブランド商品「ひめセルリー」(画像提供:JA山形市)

JA山形市のセルリー団地では、ほぼ全ての施設でひめセルリーが作られている。
値決め販売は新規就農者にとってメリットが大きい。価格が大きく上下しないため収入が安定し、収支の計画も立てやすくなるのだ。

独立したばかりで見通しがわからない新規就農者には、売り上げの見込みが把握できるのは安心材料になるだろう。

JA山形市は、こうしたハウスの団地化のほか、市場での販路や販売額を確保するためのブランディング戦略にも精力的に取り組んできた。次号ではその戦略をひもとくとともに、新規就農者の声を交えてセルリー栽培の全容を紹介したい。

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