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つるちゃんに聞く! AI、ChatGPTがもたらす農業の未来(後編)【ゼロからはじめる独立農家#57】

西田 栄喜

ライター:

連載企画:ゼロからはじめる独立農家

つるちゃんに聞く! AI、ChatGPTがもたらす農業の未来(後編)【ゼロからはじめる独立農家#57】

高性能のAI技術によって人間のような自然な会話や文章作成ができるChatGPT(チャットジーピーティー)。このChatGPTによって日本の農業にも変化が起こると予想するのが、農系ポッドキャスト「ノウカノタネ」を配信する“つるちゃん”こと鶴竣之祐(つる・しゅんのすけ)さん。自身もその技術を活用し、農業で生かそうとしています。そんなつるちゃんにAI農業の現状の課題と未来、そしてさまざまな変化の時代を迎えるための心構えについて聞きました。

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■つるちゃんこと鶴竣之祐さんのプロフィール
1986年、兼業農家の息子として福岡県に生まれる。高校時代には1年半のオーストラリア留学を経験。大学卒業後、実家は継がず福岡市内で独立就農する。2014年、地元若手農業者と共に農業ポッドキャスト「ノウカノタネ」の配信を開始。2020年にはYouTubeチャンネル「科学的に楽しく自給自足ch」も配信開始。2022年より農メディア事業、営農事業、AI開発事業を統合してノウカノタネ株式会社を設立。ミッションは「農業の民主化」。
2021年 Spotify NEXT クリエーター賞(Spotify社)受賞
2022年 第51回日本農業賞 食の架け橋の部 奨励賞(NHK、JA全中、JA都道府県中央会)受賞

ノウカノタネ株式会社

ポッドキャスト「ノウカノタネ」

AIの農業への実際の活用

西田(筆者)

前編ではAI、ChatGPTと農について、つるちゃんがおおよそ考えていることを聞かせてもらいました。後編ではより具体的に農業がどのように変わるのか聞きたいと思います。実例として何かありますか。
アグリテック関連事業に携わる友人の話を例に出しますと、植物を搾った汁から抽出したマイクロRNAやタンパク質といった分子の動態を機械学習にかけ、それにより植物の健康状態を診断する技術の研究が進んでいます。まさに近い将来、植物でも人間の健康診断や血液検査のようなことができる時代が来るでしょう。

つるちゃん

西田(筆者)

そんな時代が来るとは。でも改めて考えてみると、植物から抽出した成分からその状態を調べるという発想はこれまでにもあってよかったのでは?
実はその発想自体は以前からありました。しかし、分子レベルになると人間も植物も複雑性は同等かそれ以上、しかも作物は世界に2000~3000種類あるので、理論上はできても現実的には無理でした。
最近ではパソコンのCPUやGPUといったマシンの性能が上がって分析スピードが上がり、またそれによってAIの学習も進んで、可能になってきました。

人間もまず町医者に行き、精密検査が必要な時は大病院に行く。そのように普段は農家がそれぞれ判断するけど、何かあった時には数値で分かる検査をする。それを気軽にできる時代が来るかもしれません。

つるちゃん

西田(筆者)

分子レベルで健康状態とか安全性とか分かるようになったら、何となく「無農薬栽培だから安全」と感じるというようなことはなくなるかもしれませんね。そしたら慣行とか無農薬というような栽培方法でカテゴリー分けする時代ではなくなるかも。そういった意味でも大きなインパクトになりそう。
前回も話したように、農業でも環境制御の分野においては、AIはすぐ取り入れられると思います。数値データから瞬時に判断するのはAIの最も得意とすることですから。

そしてこれも前回話したように、AIに比べて農業機械などのロボティクスは発展に時間がかかるので、圃場(ほじょう)で直接活躍するにはまだ時間はかかるかと。でもそのロボティクスが追いついてきたら大規模化が一気に加速すると思います。

日本は一つ一つの圃場が小さいことがネックになってますが、自動運転の法整備が進めば、AIトラクターを圃場から圃場へ自走させるのも難しいことではありません。そうなってきたら1人の農家で1000ヘクタール栽培するのも可能になるかもしれません。

つるちゃん

西田(筆者)

農業のあり方自体が変わってきそうですね。

Zoom

ネオ自然栽培2.0

西田(筆者)

つるちゃんが経営するノウカノタネ株式会社は、ミッションに「農業の民主化」と掲げて「ネオ自然栽培2.0」についてもYouTubeにアップしてましたが、つるちゃん自身がAIを使って実際にやろうとしているプロジェクトについて教えてください。
ネオ自然栽培2.0とは、人間は種をまいて収穫するだけで、管理はAIや機械がしてくれるような農業のスタイルです。今進めているのが、雑草と農作物をAIで認識して、ドローンに搭載したレーザーで雑草だけ焼けるようにできないかと。

雑草の識別自体はあと1年ぐらいでかなり精度が高いものができると思っています。ドローン開発などのハード面は個人では難しいので、ある程度までいったら企業と共同開発することになると思いますが。

つるちゃん

西田(筆者)

それはすごい。前回の記事でもつるちゃんがつくったAI「農仙人」を紹介しましたが、ドローン除草機などもプログラミング技術やそのための数学の知識がないとできませんよね。つるちゃんは理系は中卒レベルと話していて、それこそ一から勉強する必要があったと思うのですが、そこまでするのはなぜ?
うちの実家は中山間地域で農業を代々やってきました。しかし、私は同じ農業でも数年前まで条件が有利な土地を借りて経営していて、合理性を追求し稼げる農業を実践していました。

一方で、自分がやりたかったのは、先祖が代々やってきた条件の悪い中山間地の農地を守ることだったんだと。AIを活用すればそれが実現できると気づいて。それで借りてた農地を返納して、実家の中山間地域で農業をやろうと決意しました。そこで新規事業の融資を受けようとしたら、銀行から無理と言われました。確かに経済効率から見るとその通りだろうなと。

そんな中山間地域で農業をやる時に一番大きなネックを考えたら、それは除草ではなかろうかと思いました。でも、除草するにはどうすればいいんだろうと。そんな時にAIを活用すれば解決できるのではと思い付き、今に至ります。

つるちゃん

西田(筆者)

そんな思いがあったんですね。つるちゃんがそこまでやってる理由の一端が垣間見えた気がします。
日本の農地面積の6割は平地で4割が中山間地です。手間のかかる中山間地域は経済性、効率を考えるとプロがやるべきではありません。

農業などのエッセンシャルワーク以外の業種を見てみると、先進国では全体的に何の価値も生まない空虚な労働が増えすぎているように感じます。今は自身の労働の空虚さに無自覚でいられても、今後のAI技術の発展によって、自分の仕事が実質的に何の価値も生んでいないことを強制的に自覚させられる人が増えると私は考えています。

その時に人は、実体として分かりやすく価値を生む活動を求めると思っていて、農はその選択肢の一つになりえるのではないかな?と。ただ今のままの農業では大変すぎるので、家庭菜園がものすごく楽になるソリューションを用意して、誰でも農に簡単にアクセスできる状態をつくる。それが「農業の民主化」というミッションの意味になります。

つるちゃん

西田(筆者)

私も、大規模農業と小さい農業は同じ農業でもこれからは意味合いが違ってくる、そして家庭菜園こそ耕作放棄地を守る手段の一つではないかと思っています。アプローチは違っても向かうところが同じということで、とてもうれしくなりました。

AI時代の農家の役割

西田(筆者)

これからのAI時代に農家ができること、また心構えはどんなことでしょう。
現場の情報、つまり1次情報を持っているのは強い。私も現在、自分の圃場で雑草のデータを集めています。ただ、それだと自分のところの雑草のデータしか収集できません。雑草の図鑑もありますが、現場でよくある半分影になっている状態とか別角度からの様子とかをAIで識別していくには、とにかく現場のデータの数が必要になってきます。

最初に話した植物の健康状態を診断する技術も、病気になった植物のデータがないと判断できないのですが、そのためにわざわざ病気にするのは大変だし時間もかかります。ですが、病気になった作物が農家から集まれば研究が一気に進みます。

つるちゃん

畑の野菜

西田(筆者)

そう考えると現場の協力が必要になってきますね。
GoogleなどアメリカのGAFAと呼ばれるIT大手企業らは、さまざまなプログラムをオープンソース化(※)して発展してきました。日本の企業は技術をクローズ(非公開)にすることで衰退してしまった。短期的にはクローズにした方が利益が出るかもしれませんが、グローバルな時代において長い目で見るとマイナスになります。

日本農業の大産地でもノウハウをクローズするというところがありますが、そうこうしているうちに海外から一気にその上を行くものが入ってくるかもしれない。クローズしているところに情報はめぐってこない時代です。

※ プログラムを誰でも自由に使用、改変、再配布などができるよう無償で一般公開すること。

つるちゃん

西田(筆者)

クローズからオープンの時代なんですね。
ドローンにレーザーを搭載する場合、圃場から圃場への自動移動などに法律の壁があるでしょうし、また仕事を奪われるかもという恐れがAI農業発展の一番の阻害になると思います。
AIはこれからもどんどん進化していきますが、それを活用できるかどうかは人が意識の変革をできるかどうかだと思います。

つるちゃん

西田(筆者)

テクノロジー進化には価値観のアップデートが不可欠ですね。

私は現在54歳。AI農業の波がきても、まだ普及に時間はかかるだろうし現役のうちは使うことなく逃げ切れると思ってました。でもつるちゃんから話を聞いて、今は「現役のうちに間に合ってくれてありがとう」と思えるようになりました。

自分が培ってきた栽培技術、加工技術、販売技術などをAIに残すことで広く後世の役に立てるかもしれない。新しい知恵の残し方が出てきた。そう考えるとワクワクしてきます。

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