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ネット販売23年。直販農家が教える梱包方法【ゼロからはじめる独立農家#58】

西田 栄喜

ライター:

連載企画:ゼロからはじめる独立農家

ネット販売23年。直販農家が教える梱包方法【ゼロからはじめる独立農家#58】

産直ECやフリマアプリが登場したおかげで、農家が全国のユーザーに気軽に直接販売することができるようになりました。ただ、扱っているのが野菜など傷つきやすい生ものだけに、気をつけないと輸送中のトラブルでユーザーさんからの印象が悪くなる危険性も。また再送や弁償などを自分で対応しなければならず、直売があだとなることも。そこで、ネット販売を23年やってきて見つけ出した梱包技術、サイズの最適化などを伝えます。

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直販は梱包が課題

私が「菜園生活 風来(ふうらい)」を起農したのが1999年。その頃からインターネット販売も盛り上がってきて、風来でも2000年春からネット販売をスタートしました。個人のホームページ販売から始まり、ショッピングモール、Amazon、産直ECやフリマアプリなど環境も大きく様変わりしてきました。

そんなネット販売の環境は変われど、宅配業者を使い全国に届けるということは同じ。初期の頃から野菜セットなど生ものを販売していたので、梱包ではいろいろと苦労してきました。そんな梱包で一番重要なのはダンボール箱。どこで、どんな形のものを買うかで商品、特に野菜の入る量が大きく違ってきます。

ダンボール箱はどこで買う?

ネット販売を始めた当初は大型のホームセンターで何種類かのダンボール箱を買ってきて、どの大きさ、縦・横・高さのバランスがいいのか探りました。現在は地元のダンボール屋さんにその都度発注しています。縦・横・高さの組み合わせはこちらで自由に決めることができて、製造元に直接注文ということで安価なのがメリットです。しかし注文から届くまでに1週間、また最低ロットが1種類100枚以上、合計200枚以上となっています。風来のような小さいところでもダンボールは常時5種類必要で、在庫は全部で1000枚以上あります。そうなると置き場所も大きな問題で、現在はダンボール専用の物置を設置しています。

ダンボール倉庫

ダンボール専用の物置。屋外に設置

メインは先述した近所のダンボール屋さんですが、小ロットや急ぎの時はネットで注文しています。よく使うのは【ダンボールワン】。早い時は翌日に届くとあって大変助かっています。

ダンボール箱選びは「厚み」も重要

ダンボール箱の種類は豊富ですが、気をつけなければならないのがダンボールの厚みです。ダンボールの厚さはいろいろ選べるのですが、風来では通常5ミリのものを使ってます。「このダンボール安いな」と思うと3ミリのものだったりします。容積の小さい60サイズなら3ミリでも大丈夫ですが、80サイズや100サイズの場合、配送の際などに箱の上に荷物を積まれるとつぶれる可能性も出てきます。どんなに安くてもつぶれてしまったら、クレームにつながり、さらに野菜に傷がつくなどの損害があれば交換などの手間もかかります。結果的に経営上の損失になってしまうこともあるので気をつけましょう。

サイズ選びは慎重に

宅配便の料金はサイズ別になっていて、それぞれのサイズは箱の縦・横・高さの3辺の長さの合計と重さで決まります。風来ではヤマト運輸の60サイズ(60センチ以下、2キロ以下)、80サイズ(80センチ以下、5キロ以下)、100サイズ(100センチ以下、10キロ以下)の3つのサイズで発送することが多いです。また苗の販売を行う場合は120サイズ(120センチ以下、15キロ以下)で発送することもあります。

風来で今使っているダンボール箱のサイズは以下の5種類です。
箱のサイズの表

それぞれのサイズで3辺の合計をギリギリにしていないのは、中身をパンパンに入れると膨らんでサイズオーバーになることがあるからです。以前と比べ宅配業者もサイズにはかなりシビアになってきました。クール便のオプション料金もサイズで変わってくるので、ワンサイズ大きくなると金額もかなり変わってきます。

ちなみに風来では野菜セットは6~9月をクール便(冷蔵)、10〜5月は常温で送っていたのですが、温暖化の影響もあり10年ほど前からは5月中ごろから10月後半までクール便で送っています。

ダンボール箱に屋号は入れるべき?

箱に屋号など印刷しようと思ったこともありました。しかし、印刷のコストがかかります。またユーザーさんから「無地のダンボールだと他に使い回せる」と聞いて「なるほど」と思い、無地にしています。

クレームからの気づき

全国に届けられるネット販売はとてもありがたいものですが、これまでたくさんのトラブルがあり、その都度対応してきました。今でも配送に関してのクレームは完全になくなった訳ではありませんが、こちらのミスということはほぼなくなりました。

箱に袋を重ねて水漏れ対策

野菜セットを発送していて、初期の頃に一番多かったトラブルが水漏れ。野菜それぞれ袋に入れていても漏れてしまうことがありました。そこで今はHD袋と言われる半透明ポリ袋(サイズは800×530ミリ)を使っています。

アイキャッチ HD袋を敷く

箱に大きなHD袋を敷き詰めて水漏れを防ぐ

個別の野菜に関してはコスト面でもできるだけ袋を使った包装はしたくないのですが、ミニトマトや葉野菜などは包装することで傷みの防止にもなるので袋を使っています。ただ最近ではSDGsの観点からか、ユーザーさんから「できるだけビニール袋を使わないで」とリクエストをもらうこともあり、時代は変わってきたと感じています。

野菜の傷み防止に緩衝材は必須

また隙間(すきま)があると配送中に野菜が動いて傷んでしまうことがあるので、できるだけ隙間をなくさなければなりません。野菜セットの場合は野菜の組み合わせ(トマトのまわりにピーマンを置くなど)で対応していますが、どうしても隙間ができる時があります。その時はボーガスペーパーと呼ばれる紙の緩衝材やプチプチなどのポリエチレン製の気泡緩衝材を使って隙間を埋めます。

梱包資材

左がボーガスペーパー、右がプチプチ。双方コスパが高い

シールの有効活用でトラブル防止

あと大切なのは、中身がわかりやすいようにすることです。宅配便のドライバーさんや仕分け作業の担当者に中身がわかれば、相応の扱いをしてくれるからです。「ワレモノ注意」「クール冷蔵便」のシールはもちろんですが、宅配業者には意外なくらいたくさんの種類のシールがあったりします。中には「スイカ取り扱い注意」や「卵取り扱い注意」など、農業に関係するものも。自分が送るものに関係するシールはないか、営業所に問い合わせてみるといいでしょう。

また、思ったようなシールがない時は自分で作るのもオススメです。風来から発送した荷物の中でも輸送中のトラブルが多かったのが苗ですが、「ハーブ・野菜苗・取り扱い注意」のシールを貼ってからトラブルが少なくなりました。

シール

自作シール(左)と宅配業者で用意してくれるシール(右)

値上げラッシュを乗り越える

この春から配送料金も値上がりし、またダンボール箱や野菜を包装するボードン袋も値上げとなりました。その分送料を上げられればいいのですが、「送料が高すぎると購入意欲がなくなるかも」という心配からすべてを価格転嫁できず、通販もなかなか厳しい時代になってきました。

野菜を取りに来てくれる人を増やす

風来では10年前から野菜セットの販売戦略として「お店に直接取りに来てくれる人を増やす」を掲げています。まだまだ配送がメインですが、野菜セットの2割ほどが直接取りに来てくれるようになりました。直接取りに来てくれる人には、マイバッグ持参の場合ダンボール代還元として少しサービスしています。

取りに来てもらえれば配送のクレームもなく、代金の取り損ないやクレジットカードなどの販売手数料もない。そんなメリットもあることから、さらに増やしていこうと思っています。これもひとつの梱包トラブルを防ぐ方法かもしれません。
ただ、風来の野菜セットの存在を知ってもらえたのは通販していたからこそでもあるので、そのあたりはバランスを取りつつ……。

クリックポストを活用

郵便局のサービスである「クリックポスト」は、長さ14~34センチ、幅9~25センチ、厚さ3センチ以下、重さ1キロ以下という制限はありますが、185円で全国に届けることができます。

送料の新たな節約方法についての記事はこちら
栽培と販売にかかる変動費を減らすには? 小さい農家の節約術【ゼロからはじめる独立農家#41】
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ただ、食品を送る時には注意が必要。汁漏れや匂い漏れ対策が必須になります。風来ではクリックポスト用のダンボールにプチプチを敷き、動かないようにしています。そして漬物をチャック付き袋に入れています。

クリックポスト

クリックポストで漬物を送る時の荷姿。プチプチを敷いてチャック付き袋に入れて汁漏れ、匂い漏れ防止に

私がよく利用しているヤマト運輸では、これまで送り状の住所以外に届け先を変更する「転送料金」は無料でしたが、この春から有料になりました。物流の2024年問題などもあり、料金だけでなくさまざまなサービスの提供に関して事業者側の対応がさらにシビアになってくることでしょう。
梱包に気をつけることで、再送の費用やクレーム対応の時間といったコストの削減になり、またユーザーさんからの信頼にもつながってきます。梱包に悩んだ時は、産直ECなどで同じ品目の野菜を販売している人気の出品者から買ってみるのもいいでしょう。生産物そのものと同じくらい梱包にも気を配る、それがこれからの農家には必要なスキルだと思います。

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