今回の座談会参加者
■井上能孝さんプロフィール
株式会社ファーマン代表取締役 2001年に山梨県北杜市に移住し独立。有機野菜の栽培・加工から廃校を活用したボルダリングジムの運営など、活動は多岐にわたる。日本テレビ「有吉ゼミ」の人気コーナー「工藤阿須加の楽しい農業生活」での栽培指導もその一つ。農林水産業全体を視野に入れた事業を展開している。 |
■香取岳彦さんプロフィール
ベジLIFE!! 代表 商社勤務の後、2016年千葉県我孫子市で新規就農。約60品目の野菜を育てる。農業の魅力を伝えたいと農業体験ができる観光農園を運営し、保育園児から大人まで延べ1500人が農園を訪れている。目標は「農業を子どもの憧れの職業にする!!」 |
■佐藤義貴さんプロフィール
株式会社アグリ・コーポレーション代表取締役 会計事務所勤務の後、2013年に長崎県五島列島に移住就農。耕作放棄地を借り受けるころからスタートし、10年間で生産面積約30倍売り上げ約32倍まで伸ばし、小売会社、海外への卸・輸出商社も立ち上げるなど急成長を遂げている。 |
■萩原紀行さんプロフィール
のらくら農場代表 メーカーの営業職として勤務後、埼玉県小川町の金子美登氏に師事。26歳のときに長野県佐久穂町で就農。収穫タイミングや食味、栄養価まで「狙って作る」多品目栽培を実現している。オーガニックエコフェスタ栄養価コンテストにおいて部門別最優秀を10冠、総合グランプリを獲得。 |
■伏田直弘さんプロフィール
株式会社ふしちゃん代表取締役 大学で農業経営学を学び、農業参入を計画していた企業へ就職。その後日本政策金融公庫を経て2015年に茨城県つくば市で就農。2017年には有機JAS認定を取得し、早々に売上を伸ばす。現在はアジア向けに日本食品を輸出する商社と組み輸出に力を注いでいる。 |
事業計画をしっかり作るべき?
井上:皆さん新規就農希望者から相談を受けることがあると思うので聞きたいんですが、事業計画や資金計画って、あった方がいい人と、ない方がいい人に分かれると思うんですよね。計画を絶対に作らないといけないのか、それとも自分なりに柔軟性を持って取り組んでいくのか、教える立場の皆さんはどう思われますか?
香取:うちの研修生には全員に決算書を説明しています。若い頃の方が頭が柔軟だから覚えられると思うんですよね。だから「大事だからね~」と言って機会は提供するんですが、強制はしないです。やっぱり得意不得意があるから、学び続ける子にはサポートしていくし、苦手なら無理はさせない。
伏田:僕は農業をやる目的を聞きますね。僕はビジネスとして稼ぎたくて農業に入りましたが、ライフスタイルとして農業をやりたいという人なら、時間をかけて自分で農場を作っていく方が幸せなんじゃないかと思います。5~10年後の売り上げは期待できないですが、事業計画は不要ですよね。逆に利益を出したい人には、事業計画の大切さや、何を作ってどこへ売り、利益がどのくらい出るのかを考えなさいと伝えますね。
井上:萩原さんは新しく農業をやりたいという人とどう向き合っているんですか?
萩原:僕らの頃って、有機農業で雇ってくれるところがゼロだったんです。だから独立するしかなかった。でも今は、経営者のほかにも、プロのスタッフとしてやっていく道もある。実際うちのスタッフに、大型農機にも乗れるし、コミュニケーション能力が高くて、窓口業務もできる子がいる。正直、独立してもそれなりにやれる子だと思うんですが、スタッフの方が実現性が早いということでうちを選んでくれている。
これからの農業経営体は、チーム運営の大きな企業になっていくと思います。 農業者の中で、経営者に向いているのは2割くらいだと思っています。今後はそれなりの大きさの会社の経営者にならなくてはならないので、1割に満たなくなってくると思うんですよね。ただ、それでも独立したいという人がいれば、一緒に事業計画を考えます。うちの元スタッフで宮崎で就農した夫婦は、就農1年目で1000万円稼いで、5年目は5人チームで3500万円稼いだんですが、事前そうなるように計画を立てました。
有機農業のマーケットはどこまで広がる?
香取:有機農業ってこれから盛り上がると思いますか?
伏田:僕は今がピークだと思っています。
香取:お~!
伏田:今は有機野菜がはやっていて、大手スーパーも有機野菜コーナーを作ったり、メディアで報道されたりして、みんなが有機農業を知り始めている。この状況が多分ピークでしょう。その中で、流行が収束したとしても生き残ることができる経営体を作っていくというのが大切。マーケットが飽和している中でやっていかなくてはいけないということを常に意識していますね。
香取:伏田さんは先ほど稼ぎたくて農業を始めたとおっしゃっていましたが、マーケットがシュリンクしつつある有機以外にやりたい作物はあるんですか?
伏田:だから有機のイチゴをやってるんですよ! 有機栽培イチゴのマーケットは確実に広がってると思ってます。有機イチゴってスイッチングコストがすごく高いんですね。だから慣行イチゴをやっている農園が、有機イチゴに切り替える例は多分少ない。
今、僕や僕の周りでは有機の葉物を栽培していますが、有機葉物のマーケットは飽和しつつあるんです。でも有機葉物に参入する農家は増えつつあって、有機野菜という世界には青物野菜ばかり並んでいる。そこにイチゴがあったら売れると思うんですよね。だからイチゴ栽培に切り替えて有機葉物のマーケットから引退したいと思っています。
香取:農業自体を引退してしまうという考えはないんですか?
伏田:僕は55歳で引退すると公言しているので、あと10年くらいしか時間がないんです。最終的には株式を売却して終わろうかなと。
香取・井上:なるほどなるほど!
伏田:それに僕は海外で農業したいんですよ。インドネシアで農場を立ち上げて、ヨーロッパやアメリカに販売したい。高価値な野菜を作って、現地の人たちにも雇用や利益が循環するようなビジネスをしたいですね。
井上:すごく面白いですね! 僕も伏田さんに聞きたいんですが、お金が欲しいという観点で、一次産業の経営者としてスタートアップするというのは、費用対効果を見たときにどうなんだろうと思ったんですけれど、伏田さんの中ではイチゴ栽培に対する思いみたいなものがあるんですか? それとも、完全にビジネスとして切り分けて考えてるんですか?
伏田:僕は有機農業をやること自体に何かしらの誇りを持っているわけではありません。副次的に良いことをしているとは思いますが、あくまで目的は利益の追求であり、自分の中では有機農業が一番適していると思ったんですね。
香取:手っ取り早かったと?
伏田:最強のブランディングだと思いましたよ。もう驚愕(きょうがく)しました(笑)
一同:うんうん。
伏田:だって、有機JASのステッカーを貼った瞬間に商品を買ってもらえる。貼ってなかったら誰も買ってくれないですよ。
佐藤:有機農業が増えるかどうかって、マーケットが大きくなるかどうかは別として、有機農業でもうかる会社が増えたら有機農業も増えますよね。
一同:おっしゃるとおり!!
佐藤:慣行農業であれ有機農業であれ、農家が大変なところはもうかっていないから。もうかる品目を作ろうとするのも結構あるあるだけど、何処に売るのかも問題。僕は有機安納芋を作っていて香港には輸出してるんだけど、今年からやろうと思ってるのは焼き芋のアメリカへの輸出。ハイエンドのレストランがペーストやパウダーから商品開発が広がっていくと思う。芋に関して言うと、オーガニックって(海外輸出で)非常に強い武器になる。
何をするにしても、もうかる背景が作れれば有機農家の仲間は増えるんじゃないかなって思います。
座談会は後編へ続く
マーケットには限りがあり、ただ作って売るだけの時代は終わりを迎えつつあります。新たな価値や売り先を作り出していかなくてはならない有機農業はどうなっていくのでしょうか。
後編はコチラ
<編集協力>鮫島理央