海外でのコミュニケーションに苦戦した経験が、自社の強みを打ち出すカギに【山形/有限会社玉谷製麺所】
70年以上前から山形県西川町にのれんを構え、うどんやそばや麦切りなどの乾麺・生麺の製造販売を行っている有限会社玉谷製麺所。
専務取締役の玉谷貴子さんが、東日本大震災の影響で農林水産物の風評被害にさらされていた東北のために何かできないかと取り組んだのが、デザインによるイメージアップと海外輸出でした。「イメージを変えるために何ができるかと考え、デザインの勉強に足を踏み入れました。2012年には製麺業界で初めてグッドデザイン賞を獲得し、満を持して海外の展示会に自社のパスタをもっていったのですが、そこでは思ったような商談につながりませんでした」
うまくいかなかった原因が、現地バイヤーとのコミュニケーションの苦戦でした。「通訳を通して商品の説明はできていたものの、『この商品はどう使うのか』や『商品の歴史やエピソード』などの魅力を伝える用意が不十分だったと痛感しました」と玉谷さん。そこで、ジェトロ(日本貿易振興機構)のハンズオン支援を通して商品の強みを洗い出し、その打ち出し方を学びました。これにより、商品の歴史や背景などを説明できるようになったほか、世界でオンリーワンの商品の魅力をバイヤーに伝えられるようになり、実りある商談に結び付いているといいます。
「海外で受け入れられるには、ブランドストーリーが大切で、原材料まで自ら責任をもって説明できることが大事。また、私自身いろんな人とのつながりでさまざまな展示会に出店できたり、支援が受けられたりなど物事を前に進めることができたため、人との縁も大切にすべきだと考えています」
2023年には、通常は半年から一年ほどかかるという食品安全に関する国際認証「JFS-B規格」をわずか4カ月で取得。もともと、衛生管理に注力していた経験に加え、専門家の知見を仰ぎながら資料作成などを進めたことが実を結びました。今後、国際認証が必須となるブラジルや東南アジア諸国へも販路を広げていく構えです。
利益率の改善のため、思い切って輸出方法と輸出国を見直し【長野/合同会社岡木農園】
国内有数のブドウ産地である長野県須坂市で、大正時代から続く合同会社岡木農園。現在はブドウのみを栽培しており、銀座のデパートやホテルなどに出荷しているほか、販路拡大の一手として海外輸出にも挑戦しています。
「2015年から、日本の物流業者を使って、直接海外の顧客と取引する直接輸出の形で、タイやベトナム、台湾のネットショッピングでの販売を始めました」と話すのは、岡木農園の岡木宏之さん。そこで課題に上がったのが、労力に対して利益が少なかったことだったといいます。
「価格だけで見ると、日本の1・5倍ほどの金額で販売できてはいましたが、海外への運賃や物流業者への手数料が高額だったため、利益がほとんど残らないような状態でした。当時の出荷量だと、現地の物流会社を挟んで取引する間接輸出の方が経済的にも労力的にも合理的だと考え、直接輸出から切り替えてタイやベトナム、台湾、シンガポールへの輸出を開始。しかし、利用していた物流網では取り扱いの雑さなどから、輸送の過程でブドウに損傷がでることが多く、代替品を送る必要が出てくるなどのネックがありました」
そこで、輸送の際の取り扱いが比較的丁寧で、損傷が起きることの少なかったシンガポールへの輸出に注力したといいます。ほかの輸出国に比べて高い価格で販売できるようになり、損傷によるロスが解消されたことで収益性が改善し、その分、梱包(こんぽう)資材の質を上げるなど、より輸送のクオリティにも投資ができるように。より高品質のブドウを、損傷なく安定的に届けられるようになったといいます。
「輸出は高く売れる、販路が増えるというメリットがあるだけではなく、『輸出するための厳しい規制や農薬基準をクリアしている品質の高い商品』というブランディングにもつながっています」と岡木さん。「日本の水や空気、太陽によって作られた農産物の魅力を感じ取ってもらえるように、今後も輸出を進めていきたい」と話してくれました。
近隣農家を巻き込み、自社生産も最大化【山梨/アグベル株式会社】
2017年に実家のブドウ農家の3代目を承継した、アグベル株式会社の丸山桂佑さん。就農からわずか4年で生産規模を10倍ほどに押し上げ、2019年からはホンコンや台湾、タイやシンガポールへの輸出にも手を伸ばしています。特徴的なのが、自社で選果場を運営し、近隣の農家から買い取ったシャインマスカットなどを直接各国へ出荷している点。同社にとっては市場を通さないことで中間コストを削減し、最短のリードタイムで消費者に届けられており、近隣農家にとっても全量買い取りであるためロスがなく、梱包や選果の手間がないため栽培に集中できるメリットがあります。
輸出を進める中で起こったことの一つが、現地で流通していた商品とのバッティングでした。「もともと、海外で販売されているブドウの品質に対して、価格が見合っていないと感じたのが、海外輸出を始めたきっかけでしたので、市場流通品との競合はなるべくしてなったことではありました。とはいえ、近隣農家からの仕入れに頼った方法だけでは差別化が難しく、高品質なブドウを大きなロットで出荷できるようにしなくては、やがて価格競争の末に薄利多売なビジネスモデルになってしまいます」と丸山さん。
そのために講じた手段が、川上である『生産』の最大化。「グローバルスタンダードな防除体制を敷き、生産規模を拡大して品質の安定したぶどうを作ろう」と、自社生産に注力して海外輸出を進めていくきっかけになったと話します。
象徴的な取り組みが、組織と圃場の拡大とさらなる販路開拓。山梨県のほか、茨城にも3ヘクタールの農地を構えて生産規模を拡大したことに加え、2023年には社員数も、立ち上げ当初の3名から11名にまで増やしました。このほか、現地の小売店などを自ら行脚し、消費者の声やニーズを参考にしながら、マーケットインの商流構築を意識したといいます。
こうした取り組みのかいもあり、2022年の総輸出量はブドウとモモで約9万キロとなり、自社選果場に出荷している農家の収益率も約30%改善されたといいます。
より適正な価格で、高品質な作物を安定的に届けることができるよう、10年後には自社生産100ヘクタールを目指してさらなる規模拡大に取り組んでいくとしています。
これから輸出を始める方へのメッセージ
最後に、海外輸出を目指している事業者の方へ向けた、3人のアドバイスを紹介して、本稿を締めくくります。
玉谷さんは「自社の商品ならではの強みを伝えられるようにすることが大切。特に、現地のバイヤーに納得してもらえるよう、自社のバックグラウンドや歴史、文化をしっかり説明できるようにすることが何より重要です」と話します。
岡木さんは「初めての輸出は、協力会社や輸出業者などの専門家と一緒に進めて行くことをお勧めしたいです。例えば、自分ですべてやろうとすると、輸出検疫が通らなかったり、法律がらみの無用なトラブルが発生する可能性も考えられます」と、自身の経験を踏まえて話してくれました。
丸山さんは「私の場合は実際に海外輸出に取り組んでみたことで、より解像度が上がりました。特に、輸出先や出荷量によっては物流会社や商社と組んで他の物流網を活用した方が、コストパフォーマンスが発揮できる場合があることは、やってみないとみつかりませんでした」と、行動を起こすことの重要性を説いていました。
農林水産省では、こうした事業者の海外輸出をサポートしようと、「農林水産物・食品輸出プロジェクト(GFP)」を実施しています。会員登録することで、海外の規制や市場情報などが学べるセミナーに参加して知見を広げることができるほか、専門家が無料で輸出の可能性をアドバイスしてくれるなど、さまざまなサービスを活用することができます。
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また、輸出を目指す事業者と、さまざまな知識・経験を持った外部人材とのマッチングを図るべく「おいしい日本、届け隊 官民共創プロジェクト」を展開。多様な人材系企業が輸出案件に力を入れており、外部人材の活用をはじめとしたさまざまなサポートで、日本の食の海外進出を応援しています。外部人材の活用に関する詳細は、下記のポータルサイトをぜひチェックしてみてください。