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有機から慣行にシフトした就農者、加工も始めたのは「競合しないから」

吉田 忠則

ライター:

連載企画:農業経営のヒント

有機から慣行にシフトした就農者、加工も始めたのは「競合しないから」

新規就農者は栽培を始めるときに有機か慣行かを選んだ後、そのまま変えずに営農を続けるケースが少なくない。そうした中で有機から入って慣行も手がけ始め、さらに加工にまで歩を進めた農家がいる。東京都瑞穂町で10年余り前に就農した井上祐輔(いのうえ・ゆうすけ)さんに取材した。

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すべて有機から8割慣行へ

井上さんは現在38歳。1.2ヘクタールの畑でサツマイモやネギ、ニンジン、小松菜などを育てている。サツマイモは一部を干し芋に加工する。売り先はスーパーを中心に地元の直売所、マルシェ、飲食店などだ。

もともと自動車整備の会社で働いていたが、農業への興味が強まり、都内の農家のもとで研修して2012年に就農した。選んだ栽培方法は農薬や化学肥料を使わない有機農法。研修時代に接した消費者から「無農薬なら買いたい」と言われたことがきっかけだ。

就農当初、栽培品目は約50と、新規就農の有機農家でよくある少量多品目栽培で営農を軌道に乗せた。その路線に新型コロナの流行がブレーキをかけた。当時の主な売り先だった飲食店が営業を縮小したり、休業したりしたからだ。

井上祐輔さん

井上祐輔さん

ここで井上さんは経営のカジを大きく切った。2021年から新たにスーパーに売り始めたのだ。併せて効率化も追求した。飲食店と違い、スーパーは個々の品目を買ってくれる量が多いので、品目数を10以下に絞り込んだ。虫食いの穴が空いた野菜は敬遠されるので、農薬も使うようにした。

みるみるうちにスーパー向けの販売が増え、畑の約8割を慣行栽培が占めるようになった。売り上げはコロナ前と比べて約2割増えた。コロナによる営農スタイルの見直しは、功を奏したと言っていいだろう。

狙いは他の農家との競合回避

コロナを機に変えた点は他にもある。いまメインの作物になっているサツマイモの栽培と干し芋の加工をスタートさせたのだ。東京都の補助金を活用し、蒸して軟らかくしたサツマイモを乾燥させるための設備を2021年に導入した。

消費者から「無農薬なら買う」と言われて有機栽培にしたことが示すように、売れるかどうかを優先して考えて打つべき手を決めるのが井上さんの特徴だ。加工を手がけることを決めたのも同じ発想からだ。

「マルシェなどに参加してみて感じたのは、野菜は何をどう作っても他の人と大抵かぶる。かぶらないものを作っても、量がそれほど売れない」。井上さんはそう話す。珍しい野菜を作ってうまくいっている農家もいるが、井上さんには「他に先駆けてやったごく一人握りの人」と映る。

干し芋を作る設備

干し芋を作る設備

そこで着目したのが加工だ。

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