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農業AIブレーン『e-kakashi』の開発・運営メンバーが新会社を設立。課題解決に向けた今後の仕掛けは

農業AIブレーン『e-kakashi』の開発・運営メンバーが新会社を設立。課題解決に向けた今後の仕掛けは

栽培ナビゲーションサービス『e-kakashi(イーカカシ)』がこのほど、ソフトバンク株式会社からグリーン株式会社へ事業譲渡された。同社での事業責任者を務めていた戸上崇(とがみ・たかし)さんが、開発・運営メンバーとともに立ち上げた会社だ。新会社としてサービスをアップデートし、展開していくことで、業界にどのようなインパクトがあるのだろうか。戸上さんへ、今後の仕掛けと展望を聞いた。

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「第二の緑の革命を起こす」。社名に込めた覚悟

『e-kakashi』はIoTセンサーを活用して屋内外の圃場から収集した環境データを、植物科学の知見を取り入れたAIで分析することで最適な栽培方法をスマートフォンアプリやPCを通して生産者へ提案するサービス。これまで大幅な機能拡充を実現しながら、栽培支援を通じて生産者の収益向上に貢献してきた。サービス開始以降、国内外で約1000台が導入されているほか、国内のさまざまな企業や産地で実証実験もなされており、収量増や作業の効率化といった成果がさまざまな産地で確認されている。詳細についてはぜひ、下記の別項をご覧いただきたい。

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「元々、ソフトバンクの社内事業提案制度を経て、2015年10月に子会社『PSソリューションズ株式会社』から『e-kakashi』をローンチしましたが、当時から独立を目指すことを考えていました。2019年にソフトバンクへ事業を移管しましたが、この度、晴れて独立をすることとなりました」。グリーン創業の経緯について、こう話すのは、ソフトバンクで『e-kakashi』事業の責任者を務めてきた、グリーンCEOの戸上さんだ。

グリーン株式会社を立ち上げ、今年7月から『e-kakashi』を提供する戸上さん

新会社の社名には、技術革新による一次産業の課題解決に貢献するという覚悟が込められている。「緑とイノベーションを掛け合わせたグリーンという社名ですが、これは第二の緑の革命(注1)を起こすことを本気で考えていることに由来しており、自然調和型の一次産業が営めるような対話型ツールを提供していくという思いで名づけています」(戸上さん)
(注1)1960年代から1970年代にかけて主に開発途上国で行われた、稲・小麦などの多収量品種開発などによる大規模な農業技術革新のこと

スピード感を持ってサービスを提供。次代を担う人材の教育にも

新会社を立ち上げて以降、『e-kakashi』の技術開発や農業課題解決に向けた取り組みが加速している。戸上さんは「新しいサービスを生み出し、提供していくスピード感を重要視しています。特に、食品メーカーさんや生産者の皆さんの声を踏まえた実装のトライ&エラーを高速で回しており、すぐにアプリケーションやアルゴリズムを改修して、現場で使えるものをどんどんたたきあげていくことを意識しています」と強調する。

戸上さん自身も栽培をしながら、ユーザー目線でサービスを考えることを意識しているという。「今までのスマート農業やIoT農業と呼ばれるもののように、データを蓄積し、分析・解析して精度を高めていくのでは遅い。導入いただいた生産者の方へ、1年目から対投資効果を得られるものを提供していくのがモットーですので、今後我々が提供していくソリューションのスピード感と、より生産者の方に寄り添ったサービス提供をぜひご期待いただけるとうれしいです」と力を込めた。

農業課題解決に向けた同社の取り組みは、『e-kakashi』の開発、販売だけではない。次代を担う子どもたちへの教育活動にも力を注いでいる。

例えば、福岡県の久山町では、ITを暮らしの中で生かす実学として子どもたちに伝える教育プロジェクトに参画。町内の小学校5年生が総合学習の授業において米作りを行う田んぼに『e-kakashi』を設置している。そこで抽出した環境データなどをアプリや電子掲示板で掲示することで、地域の農業をどう守っていくか考えるきっかけづくりと、地域の生産者らへの関心を寄せてもらうことを目指した情操教育を支援している。

「地方の子どもたちは都会に憧れを持つ場面も多いとは思いますが、里山や地域を守っていくことが現在の脱炭素社会においていかに重要な役割を果たしているかについても、気付いてもらえるような教育活動に力を入れています。次の世代に対して伝えていくこうした活動がめぐりめぐって、将来的に農業界を支える人材につながってくると本気で考えています」

米卸大手と資本提携。さらなる技術開発と普及拡大へ

現在の『e-kakashi』の機能の柱は、圃場から集約した環境データや植物の状態などから栽培の最適解をひもとき、生産者が即座に意思決定に活用できることにあるが、戸上さんは「今後、点のデータから、面をカバーできる技術開発に注力する」と語気を強める。

「元々『e-kakashi』は生産者の方が植物と会話をする手助けをするサービスとして成果をあげてきました。我々はこれを『自然の声を聴くテクノロジー』と呼んでいます。これからは、より大きなエリアをカバーできる技術開発を進めるとともに、いろいろなテクノロジーを取り入れ、より簡単に、より即時的に活用でき、収益増に貢献できるソリューションをしたためていくので、続報を楽しみにしていただきたい」

さらなる技術開発と普及拡大に向け、同社ではこのほど、米卸大手の株式会社ヤマタネと資本提携を行った。「ヤマタネさんとは、『e-kakashi』が事業化する前の段階から実証にご協力いただくなど、10年以上お付き合いいただいてきました。産地の皆さんとの厚い信頼関係をお持ちで、地域の課題解決をどうサポートできるかを常に本気で考えておられる。一緒に産地の課題解決を目指していこうと、この度資本提携を結ぶこととなりました」と戸上さん。

ヤマタネは、産地ネットワークを生かし『e-kakashi』を活用した取り組みの普及活動を行うとともに、グリーンがサービスの導入と技術面における支援を担い、さらなるサービスの普及によって持続的な農業と環境負荷低減を加速していく考えだ。今後、両社で具体的な協業の内容・条件などを定め、改めて業務提携契約を締結する予定だという。

加えて、戸上さんが中長期的な展望として見据えるのが海外進出だ。『e-kakashi』は世界約10カ国で導入実績があるが、将来的には温室効果ガスの削減や気候変動下における生産性維持向上、水資源の最適利用などといった世界共通の社会課題に対して、独自のソリューションで解決に寄与するつもりだ。「食べるものがあれば人は争わないと考えています。例えば、作物の最適な栽培方法が分かり、誰でも容易にその情報をすぐに栽培に利用できる形を発展途上国などで実行し、紛争の低減などにもつながれば。国内で培ってきたノウハウをもって、世界の課題解決にも貢献していきたい」

これまでも、独自のソリューションで生産現場を驚かせてきた『e-kakashi』。同社による次なる仕掛けを期待せずにはいられない。

栽培管理システムといえばe-kakashi

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