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ぶどう栽培で土づくりにこだわった30年 電話営業でつかんだ独自の販路

吉田 忠則

ライター:

連載企画:農業経営のヒント

ぶどう栽培で土づくりにこだわった30年 電話営業でつかんだ独自の販路

土づくりに力を入れている――。栽培のこだわりについて聞かれたとき、多くの生産者が口にする言葉だろう。それをとことん追求した結果、独自の販路の開拓へと経営のかじを切ったケースがある。長野県須坂市のぶどう農家、境直之(さかい・なおゆき)さんを取材した。

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誰にも負けない土づくり

境さんが運営する株式会社境果樹園は、昼夜の寒暖差が大きく、果物の栽培に適した長野盆地にある。面積は1.7ヘクタール。シャインマスカットやナガノパープル、バイオレットキングなどさまざまな品種を育てている。

会社の代表の立場は少し前に息子の賢光(けんこう)さんにバトンタッチしたが、境さん自身、引き続き取締役として栽培と販売の両面で農園の運営に携わっている。本稿は境さんの取り組みを中心に紹介したい。

さまざまなぶどう

境さんは現在62歳。26歳で父親のもとで就農し、3年後に当時60歳だった父親に代わり、農園を切り盛りするようになった。ちょうどそのころ、境果樹園のその後の営農のあり方を決定づけるようなことが起きた。

作業中、農園にシートを敷いて、まだ幼かった賢光さんを遊ばせておいた。すると目を離した隙に土や葉っぱを口に入れていたのだ。

他の農家と同様、就農当初は農薬や化学肥料を普通に使っていた。土を口に入れたことで、賢光さんが体調を崩したわけではない。だがその姿を見て、境さんは「農薬や化学肥料をできるだけ使いたくない」と思うようになった。

もともと環境調和型の農業には関心があったが、これをきっかけに栽培方法を抜本的に切り替えることを決めた。「土づくりに関しては誰にも負けない」。そう言い切る栽培方法を確立していった。

土の生態系を重視して除草剤を不使用

境さんが土づくりでこだわっている点の1つに、除草剤を使わないことがある。理由は「(草を取り除くと)根っこがなくなってしまうから」。その結果、土中の生物の多様性が損なわれてしまうと考えるのだ。

植物の根の周りにいる微生物は根から出る物質を栄養にすると同時に、根にミネラルを供給する共生関係にある。除草剤を使うとこの関係が失われ、作物の生育にもプラスに働く土の構造が崩れてしまう可能性がある。

作物や草の根、土中の微生物の全体を1つの生態系ととらえ、そのバランスを保つことを重視する栽培方法が最近注目を集めている。境さんは約30年前に専門書に当たることでこうした考えを学び、実践していった。

境直之

土づくりにとって大切な堆肥(たいひ)は、米ぬかやおから、豆皮などを原料にしたものを使っている。木の皮など粉砕し、発酵させてつくった資材も地力を高めるためにまく。海藻由来の資材も投入している。

一方、家畜の排せつ物が原料の動物性の堆肥は使っていない。「牛や鶏などの家畜がどんなものを食べて育ったのかわからないから」だ。

どうやって製造したのかを確かめる姿勢は、購入の資材で貫いている。肥料メーカーを訪ね、製造現場を見せてもらったり、考え方を聞かせてもらったりするよう努めているのだ。そのうえで購入を決める。

境果樹園は現在、農薬や化学肥料の使用量を地域標準の半分以下に減らす特別栽培の認証を取得している。そしてさまざまな資材を試しながら栽培方法を確立しながら、並行して取り組んだ課題がある。販路の開拓だ。

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