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悲願のブドウ輸出がスタート 農家を勇気づけたスタートアップの一言

吉田 忠則

ライター:

連載企画:農業経営のヒント

悲願のブドウ輸出がスタート 農家を勇気づけたスタートアップの一言

人口が減り続ける日本で、特定の作物に生産が集中すると、ある難題に直面する。値段の下落だ。それを回避する手立てとして、期待が高まるのが輸出。ブドウを生産する境果樹園(長野県須坂市)は農産物輸出を手がけるスタートアップと組むことで、販路を海外に広げることが可能になった。

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巨峰の暴落で挑戦した最初の輸出

境果樹園は面積が1.7ヘクタール。シャインマスカットやナガノパープル、バイオレットキングなどさまざまな品種を育てている。売り先は百貨店やスーパー、食品の宅配会社、生協など。農協には出荷していない。

「国内の価格を保つために、輸出したいとずっと思ってきた」。農場を運営する境直之(さかい・なおゆき)さんはそう話す。国内でブドウが余り、値崩れするのを防ぐためだ。2024年秋、輸出が現実のものになった。

境さんの輸出の取り組みには「前史」がある。今から20年以上前、当時の主力品種だった巨峰が生産過剰になり、価格が暴落した。境さんは「生活できなくなるレベルまで相場が下がった」と振り返る。

そこで挑戦したのが輸出。青果物の輸出を手がけていたある企業の仲立ちで、シンガポールや香港に巨峰を輸出しようと試みた。出荷までこぎ着けることはできた。だが結論から言えば、取り組みは長続きしなかった。

境果樹園の様子

最大の要因は、実務の大半を自らやらざるをえなかったことにある。輸出の仲立ちをした企業がやってくれたのは、現地の輸入企業の紹介まで。輸入企業との細かいやりとりは、境さんにほぼ「丸投げ」の状態だった。
シンガポールの輸入企業から、輸出の手はずについて電話がかかってきた。言葉は英語。身ぶりを交えることすらできないもどかしいやりとりだった。日本の港のどこに送るかなど、指示に従って何とか輸出した。

より深刻なことがその先に待っていた。せっかく輸出したのに、販売代金が入金されないのだ。やっと入金を確認できたのが半年後。これを独力で続けるのは難しいと考え、輸出はいったん沙汰止みになった。

農薬基準が厳しい台湾から再チャレンジ

転機は2024年2月に訪れた。リンゴなどの輸出で急成長しているスタートアップ、日本農業(東京都品川区)のことを知ったのだ。

日本農業は外資系のコンサルタント会社に勤めていた内藤祥平(ないとう・しょうへい)さんが2016年に設立した。リンゴを中心にサツマイモやブドウなどを農家から仕入れ、香港や台湾、タイなどに輸出している。

興味を持った境さんは、「輸出を考えています」という趣旨のメールを日本農業に送った。すると担当者から電話がかかってきて、「そちらをお訪ねします」と告げた。翌日、境果樹園の事務所で2人は向き合った。

まず境さんが知りたかったのは、言葉の問題だった。「外国語を話せるだろうから、輸出はできるよね」。境さんがたずねると、担当者は「できます」と即答。続けて「自分たちは流通を改革したいと思っています」と話した。

日本農業の代表取締役CEOの内藤祥平さん

話に弾みがついたところで、境さんは「仲間を集める」と提案した。輸出をしようと思うと、ある程度まとまった量を確保する必要があると考えたからだ。十数人のブドウ農家が賛同し、輸出に参加することになった。

課題はどうブドウを運ぶかだった。「できるだけ農家の手間を減らした方がいい」。境さんの提案で、日本農業の担当者が各農家を回って集荷することにした。ブドウを入れる段ボール箱なども、日本農業が用意した。

最初の輸出先に選んだのは台湾。これも境さんの提案だった。台湾は残留農薬に関する基準がとりわけ厳格なことで知られている。境さんは「簡単には手を出しにくい厳しいところから挑戦したかった」と振り返る。

輸出が実現したのは10月。5キログラムのブドウが入る段ボール箱56個を1回の単位とし、5回に分けて台湾に輸出した。品種はシャインマスカット。境さんは「最初の一歩を踏み出せた。すごいことだ」と話す。

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輸出したシャインマスカット

土づくりにかける資金を確保するため

境さんの営農のポリシーにも触れておこう。前回この連載で紹介したように、境さんは「誰にも負けない」と言うほど土づくりに力を入れている。毎年秋に収穫が終わると、資材をたっぷりと果樹園に投入する。

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