コメ不足でわかった農業が抱えるリスク
2024年の農業の最大の話題は、何といっても夏のコメ不足と米価の高騰だろう。スーパーの棚が空になった映像が連日のようにテレビで流れ、コメを買えないことに当惑する消費者の声が伝えられた。
この問題は、コメに限らず日本の農業全体に潜む巨大なリスクをあぶり出した。1つは気候変動でかつてない不作が起きる恐れ。もう1つは農家数が今後急減することで、農産物が足りなくなる懸念だ。
農業サイドから見てここで重要なのは、米価が上がったことで多くのコメ農家がやっと利益を出せるようになった点だ。消費者は高米価を嘆くが、農家はこれまでずっと米価の低迷に困惑してきた。
もし稲作農家の減少に歯止めがかからず、生産量が落ち込めば、コメ不足と米価の上昇は今とは次元の違うものになる。杞憂(きゆう)かもしれない。だが最悪のシナリオも念頭に対策を考えるべきだろう。
戸数が1万戸を下回った酪農
コメ不足と比べると一般の話題にはならなかったが、酪農家の減少も農業界に影を落とした。中央酪農会議の集計で、全国の酪農家の戸数が2005年の調査開始以来初めて1万戸を割ったことが明らかになった。
飼料や燃料価格の上昇が経営を圧迫した。過去の設備投資による負債も重くのしかかる。この苦境は2025年以降も続く見通しだ。
自給飼料の拡大や消費の喚起など、やるべきことはたくさんある。だが対策が実を結ぶには一定の時間がかかり、その間に戸数がさらに減る懸念がある。実際、離農を考えている酪農家は少なくない。
牛乳や乳製品はカロリーとビタミン、ミネラルの貴重な供給源として食生活を支えている。しかも牛の排せつ物は堆肥(たいひ)の原料になる。その衰退は、日本の食料安全保障をさまざまな面で脅かす。
稲作とは違い、今のところ酪農の危機は消費の減少で牛乳が余るという形で顕在化している。だがいずれ、牛乳や乳製品の供給が不安定になるリスクも考え、それを防ぐための手立てを講じるべきだろう。
基本法改正の背景に山積するリスク
本来は2024年の農政における最大のトピックスにもかかわらず、国民の関心が薄いのが食料・農業・農村基本法の改正だ。先の通常国会で改正法が成立したことを受け、農林水産省は基本計画の策定作業を進めている。
法改正の目玉は、食料安全保障の確保を基本理念に据えたことにある。条文の中身にはここでは触れないが、それとは別に押さえておくべきことがある。制定から四半世紀ぶりに改正に至ったその背景だ。
日本の食料と農業を取り巻く環境は、基本法の制定時と比べて劇的に変わった。猛暑に象徴される気候変動で生産が不安定になるとともに、その要因の1つである農業は環境への調和が求められるようになった。
新型コロナの世界的な流行により、パンデミックで国内外のサプライチェーンが寸断される可能性が浮上した。併せて日本の国力の低下で、「必要なら輸入すればいい」という発想の危うさも浮き彫りになった。
特に忘れてはならないのが、ウクライナ戦争をはじめとした軍事紛争で、食料の供給が脅かされる恐れだ。