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黄信号がともる2050年の食料と農業 支えは経営力とAIと国民のシンパシー

吉田 忠則

ライター:

連載企画:農業経営のヒント

黄信号がともる2050年の食料と農業 支えは経営力とAIと国民のシンパシー

2050年の農業はどうなっているのか――。マイナビ農業の編集部からそんなお題をいただいた。確実に言えるのは、農家も農地も今より減っているということだ。その結果、国民への食料の供給が不安定になるのを避けるにはどうしたらいいか。そんな観点から未来のことを考えてみたい。

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低下し続ける日本の経済力

まず国際通貨基金(IMF)による国内総生産(GDP)の見通しを取り上げたい。比較対照は中国。2025年の中国の名目ベースのGDPは、日本の4.4倍になると予測する。さらに2029年にはその差は4.8倍に広がる。

中国は今、不動産市況の低迷をはじめ、景気が悪化しており、IMFの予想通りに成長し続けるとは限らない。ただ抑えておくべきなのは、日本の経済力がほとんど高まらないと予想されているという点だ。

日本の食料自給率は約4割で、食料の多くを輸入に依存している。では海外から好きなだけ食料を買い付ける経済力を今後も保つことができるのか。この点の懸念を抜きにして、食料と農業の将来を語ることはできない。

コメと果樹で耕作放棄の懸念

次に農林水産省が公表した国内農業のデータを見てみよう。

食料・農業・農村政策審議会(農相の諮問機関)が現在、中期的な農政の方向を示す基本計画の策定を進めている。その企画部会の11月の会合で、農水省は農地や農業経営体、収量の向上に関する見通しを示した。

予想年次は2030年。今の流れでいけば、経営体の数は2020年の108万から54万に半減する。それに伴い、もし規模拡大が進まなければ約3割の農地が利用されなくなる恐れがある。ようは耕作放棄だ。

農業は国民の人口構成の変化に先立って高齢化が進んでいる。特に深刻なのが、農業が副収入の農家や、年に60日以上農作業をする65歳未満の世帯員がいない農家。かつての第2種兼業農家のイメージに近い。

コメと果樹でとりわけそうした農家の割合が高い。コメと果樹で農家の減少に伴う農地の荒廃リスクが高まっていることを示す。

画像1)農水省

農水省は農地と農家の減少を予測する

カギは人事と収益管理のノウハウ

ではその先、2050年に向けて農業構造はどう変わっていくのだろうか。残念ながら、農家や農地の減少を緩やかなものにすることはできても、流れが反転して両者がともに増える未来を展望するのは難しい。

重要なのは、何を優先課題にするかだろう。日本の人口が減り続ける中で、農業の担い手もおのずと減り続ける。だがそれと同じペースで生産インフラである農地も減ってしまえば、日本の食料生産に黄信号がともる。

どうすればそれを防げるのか。答えはシンプル。少ない人数で広い農地を管理する経営と、それを支える技術が要るということだ。

これはコメのように広い農地を必要とする作物だけでなく、果樹や園芸作物にも当てはまる。適正規模に違いがあるだけだ。

経営に関しては、マネジメントを学ぶ仕組みがこれまで以上に大切になる。特に重要なのが収益と人事の管理。それがないと、いくら規模が大きくても経営の足元は危うい。今の大規模経営にもそれは当てはまる。

画像2)耕作放棄

耕作放棄を防ぐのが最大の課題

必要なのは他産業並みのAI活用

技術について言えば、スマート農業の活用が必須になる。

現場を取材していると、スマート農業に対して懐疑的な見方が確かにある。実際、鳴り物入りで登場した技術で、その後泣かず飛ばすになったものも少なくない。熟練農家の技術を超えるのも簡単なことではない。

だが農地を守るという目的を考えれば、いずれそんなことは言っていられなくなる。農機メーカーやスタートアップ、農業関係者などが連携して実用的な技術を開発し、現場に取り入れていく以外の選択肢はない。

他産業で急激に進む人工知能(AI)などの活用が、農業で可能でないはずがない。これは「土に根ざす産業」という農業の本質と矛盾するものではない。足りないのは現場に即した技術と、それを受け入れる現場の態勢だ。

課題は自然の流れに任せていて、それが実現するかどうかだ。現状を見れば楽観は難しい。政策の後押しの重要性がますます高まるだろう。

画像3)ロボット農機

さまざまなロボット農機

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