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海外研修で掴んだ課題解決の糸口 ナフィールド奨学生が世界で見たものとは

海外研修で掴んだ課題解決の糸口 ナフィールド奨学生が世界で見たものとは

旅を通じて世界各地の農業生産現場から先進的な技術や文化を学ぶ「ナフィールド国際農業奨学金制度」。その修了式・任命式が2月7日(金)東京都内で開催されました。修了したスカラー(奨学生)による成果、そして厳しい審査を経て選抜された来期スカラー(奨学生)による旅の目的を紹介します。

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日本の農業課題に求められる国際的視野

ナフィールドインターナショナルは、農業分野のリーダーを育成するための奨学プログラムで、世界14カ国が参加しています。スカラーに選抜された農業者は、研究や視察を通じて、農業の持続可能性や課題解決に取り組みます。
この国際的な制度に日本も参加をしようと、一般社団法人ナフィールドジャパンを設立したのは前田農産食品(北海道中川郡本別町)社長の前田茂雄(まえだ・しげお)さん。
「研修を通じて築いた世界の農業者ネットワークは、農業経営を考えるうえでの財産となります。スカラーそれぞれが思う課題や目標に対して、国際的視点から日本の農業を覗いて学びやヒントを得て欲しい」と、スカラーへの期待感を話しました。

ナフィールドジャパン代表理事の前田茂雄さん

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研究と視察から得られた学び

北海道のワイン農家の80%が労働力不足に悩む

修了式では、スカラーが自らの研究成果と経験を報告。日本の農業発展に向けた取り組みの重要性が語られました。
一人目の報告は、第4期スカラーの上野力也(うえの・りきや)さん。現在もドイツ・モーゼル地域でブドウ栽培を学んでいる上野さんは、研修で得た知見から、今回の研究テーマである北海道のブドウ産業の成長を改めて実感したといいます。

上野さんが北海道のワイン農家を対象に行ったアンケートでは、約80%が労働力不足を課題として認識していることが明らかになりました。特に、12月下旬の積雪前に剪定作業を完了させる必要があるものの、機械化には多額の資金が必要であり、導入のハードルが高く、作業委託へのニーズが高いことが判明しました。

剪定後の枝を雪の日に棚から引き抜く様子

Naïo Technologiesによる『Ted』自律型ブドウ畑ロボットの実演

上野さんはドイツの視察を通じ、機械化によって労働時間を最大90%削減しつつ、気候変動の影響を受けながらもブドウの品質向上を実現した事例などに触れ、北海道のワイン産業は、①機械化の導入②農作業の請負(コントラクター)制度の活用③熟練労働者の確保と育成④気候変動に対応したブドウ栽培技術の教育を重視した適応戦略を採用する必要があると指摘しました。

畜産業における輸出戦略とビジネスモデル

2人目の報告は第3期スカラーの岡崎晋也(おかざき・しんや)さん。実家が経営する株式会社ゆうぼくで、畜産事業だけでなく、販売事業と飲食事業も展開しています。所在地である愛媛県西予市が西日本豪雨に見舞われ、気候変動を受けても持続可能な農業の実現を目指してスカラーに応募したといいます。また、昨今の飼料高騰により、国産飼料を活用し、輸入依存からの脱却も見据えて研修に臨みました。

証書を手にする岡崎さん

「間違いなく人生を変えてくれたプログラム」と話す岡崎さんは、研修で国内16カ所、海外100カ所の農場を視察しました。100%国内産の飼料を活用する経営者や、耕作放棄地を活用し放牧で肉用牛を育てるスタイルに触れ、岡崎さん自身も耕作放棄地を活用した牧草生産事業や、飼料としてデントコーンを導入しました。これらの取り組みにより、1,500万円のコスト削減を達成し、450トンのCO₂排出削減にも成功したといいます。
また、和牛の最大の生産・輸出国であるオーストラリアの大規模畜産経営や輸出戦略にも触れ、BMS(肉質等級)の最適化やデータ管理、マーケットインを重視した経営戦略も学びました。「この学びを日本の畜産業にも生かし、持続可能な畜産のあり方を模索していきたい」と、話しました。

トウモロコシの栽培実験をする岡崎さん

国際的視野で経営目指して

続いて、今回の選考で選ばれた2名のスカラーから課題や研修への意気込みが語られました。

地域資源を活用した新しい梅産業の展開

和歌山県日高郡みなべ町で梅干し屋を営む株式会社うめひかり(梅ボーイズ)の山本将志郎(やまもと・しょうしろう)さんは、地元の梅産業の課題を知り、業界改革を決意。地元の耕作放棄地を借り受けて農地を10haまで拡大し、10名の移住者とともに持続可能な農業モデルを構築しています。
また、同社は年商4億円、経常利益1億円を達成し、3年以内に年商20億円、経常利益5億円を目指しています。農業の新たな形を創造し、持続可能な地域産業として発展させるべく、本研修に臨みます。

震災で消えたキウイ産業の復活を目指す

福島県双葉郡大熊町でキウイ栽培と加工販売を行う株式会社ReFruitsの原口拓也(はらぐち・たくや)さんは、大学でシステム工学を専攻していましたが、畑違いの一次産業に飛び込むことを決意。「農業界のジョン万次郎になりたい」——そう宣言し、全国各地で農業研修を受ける中で出会ったのが、東日本大震災により、かつての特産品だった梨とキウイの生産が消滅した福島県大熊町でした。
原口さんは、農地再生プロジェクトを立ち上げ、効率的なキウイの栽培計画を策定しています。
原口さんは、「震災を乗り越えた復興という文脈に頼るのではなく、事業として強い農業を作ることが重要」と話します。福島発の新たな果樹産業モデルを確立し、全国へ、そして世界へと広げていく覚悟を持って、2年間の旅に出ます。

梅ボーイズの山本さん(写真左)、ReFruitsの原口さん(写真右)

農業の未来を切り拓く後押しを

インベスター(資金提供者)である農林中央金庫とマイナビ農業からの祝辞に続き、理事である浅井農園(三重県津市)代表取締役の浅井雄一郎(あさい・ゆういちろう)さんがメッセージを贈りました。
「スカラーの皆さんの素晴らしい発表を聞き、胸が熱くなりました。上野さん、岡崎さんからは、研修を通じて視座が高まり、得た学びを自身のビジネスに還元する実例を伺うことができました。また、山本さん、原口さんには、主体性と積極性を持ち、紳士的な姿勢を大切にしながら旅に出てほしいと願っています。世界の農業に触れることで、自らの立ち位置が見えてきます。リスペクトと感謝を持って、ぜひ世界の農業者たちのエネルギーを肌で感じ、視野を広げてほしいと期待しています」
また、ナフィールドジャパンの拡大を通じて、農業を補助金に依存しない持続可能な産業へと変革することを目指すとし、今後のさらなる成長への決意を表明しました。

ナフィールドジャパン理事の浅井雄一郎さん

世界中の先人たちが、国境を越えて次世代の農業リーダー育成のために支援をする本制度。選ばれた若いスカラー達も、自身の経営だけでなく「次世代へ農業をつなぐこと」「地域農業を発展させること」を意識されていた点が印象的でした。

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