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備蓄米放出へ入札の真っ最中 米国がちらつかせ始めた「ディール」

吉田 忠則

ライター:

連載企画:農業経営のヒント

備蓄米放出へ入札の真っ最中 米国がちらつかせ始めた「ディール」

政府備蓄米の放出に向け、農林水産省が入札を実施した。流通の「目詰まり」を解消するのが目的。まさにその最中に、米国が日本の稲作を揺るがしかねない動きを見せ始めた。米価とコメ政策の行方に不透明感が漂っている。

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「流通に支障」で備蓄米を放出

備蓄米の放出は2023年の猛暑による不作が遠因だ。24年春ごろから米価が上がり始め、夏には一部のスーパーでコメの棚が空になった。秋に新米が出回れば価格の上昇は収まるとの予想が外れ、農水省は放出を決断した。

これまでは「10年に1度の不作」や「通常程度の不作が2年続いたとき」に対応するのを目的に、備蓄制度を運用していた。農水省は1月末に指針を改め、円滑な流通に支障が生じたときも放出できるようにした。

今回は計15万トンが対象。10日に始まった入札は本稿を書いている時点でまだ終了してないが、予定していた数量は落札されるだろう。外食チェーンなどの間でコメを必要量確保できないことへの懸念が強いからだ。

農水省は備蓄米の放出を決めた

農家から作況指数に疑問の声

入札に参加したのは、全国農業協同組合連合会(JA全農)など大手の集荷業者。3月下旬以降にスーパーに並び始めると見られている。

ではその結果、米価は大きく下がるだろうか。関係者の予想を総合すると、現時点では否定的な見方が大半だ。少なくとも、米価が上がり始めた2024年春よりも前の水準に戻ると見ている人はまずいない。

今の水準と比べると、若干安くなる可能性はもちろんある。だがそれも限定的で、いずれ需給がタイトになるとの予想が少なくない。

特に生産者の多くが指摘するのは、2024年の収量は言われているほど多くなかったという点だ。農水省が発表した作況指数はほぼ平年並みの「101」。だが生産者からは「データは正確だろうか」との声があがる。

もし生産者の実感が正しいなら、政府備蓄米の放出量が十分ではない可能性が出てくる。農水省は追加で6万トンの放出を予定しているが、それでも品薄感が解消されない事態も想定に入れておくべきだろう。

JA全農が入札に参加した

農家の減少と異常気象で下がりにくい米価

なぜ多くの農家は、101という作況指数に首をかしげるのか。理由は2024年も前年に続いて、台風による倒伏など収量が減る要因がさまざまにあったからだ。とりわけ被害が深刻だったのは、カメムシの大量発生だ。

作況指数がどこまで正しいのかを現時点で確かめるすべはないが、コメの端境期である夏ごろにはある程度見えてくるだろう。そのときコメが足りないことがはっきりすれば、生産者の実感の信ぴょう性が増す。

しかも今回と同様の混乱はこれから度々起きる可能性がある。高齢農家の引退が急速に進んでおり、耕作が放棄されてコメの生産基盤が揺らぐ恐れが高まっているからだ。異常気象も生産をいっそう不安定にする。

こうした状況は米価の上昇で家計を圧迫する一方、農家にとっては利益を確保しやすい環境をつくる。米価が安すぎて稲作農家が減ってきたことを考えれば、ある程度の水準の米価を社会が受け入れる必要もある。

ところが事態を一段と不透明にする新たな要素がここで加わる。政権に返り咲いたトランプ大統領が率いる米国の動向だ。

コメの生産が不安定になっている

コメの高関税を米国が批判

日本はコメに700%の関税を課している――。米ホワイトハウスのキャロライン・レビット大統領報道官は11日の記者会見で、貿易相手国が米国に高率の関税をかけている例の1つとして日本のコメを批判した。

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