賀茂ナスとはどんな野菜?

賀茂ナス(賀茂茄子/かもなす)は、京都市北区の上賀茂地区を代表する伝統野菜です。直径は約15cm、重さは約300gにもなる大型の丸ナスで、ガクの下が真っ白く、皮には黒光りするようなツヤがあり、三角形のへたが特徴です。
栽培の歴史は古く、貞享元年(1684)の文献にはすでに大型丸ナスの記録があり、当時は左京区吉田田中地区で育てられていたと伝えられています。その後、賀茂川と高野川に挟まれた肥沃(ひよく)な扇状地である上賀茂地域に根づき、明治時代には「賀茂ナス」として地域の特産品となりました。現在のように上賀茂・西賀茂を中心に栽培が定着したのは、約100年前のことです。
昭和後期には他の地域にも生産が広がりましたが、上賀茂では固定種の自家採種や伝統的な技術の継承に努め、品質と特性を守り続けてきました。かつての「振り売り」(※)もイベントなどで再現されるほか、上賀茂神社との結びつきも深く、5月15日の葵祭では「なす奉納式」が行われ、正月には神饌(しんせん)として供えられるなど、地域の暮らしや信仰に溶け込んでいます。
現在、賀茂ナスは京都府の「京の伝統野菜」および「京のブランド産品」として全国に広まり、「京賀茂なす」は、地理的表示(GI)にも登録されています。
※振り売り:かつて農家が天秤棒に野菜を担いで町を歩き、顧客を一軒ずつ回って売った行商のこと。
食味の特徴

賀茂ナスは、皮が薄く柔らかい一方、果肉は緻密でしっかりとしており、加熱しても形が崩れにくいのが特徴です。火を通すと、とろりと滑らかな食感になり、濃厚な味わいを楽しめます。さらに、大型で肉厚なため、煮汁やみそ、油を吸収し、田楽や揚げだしなど京料理には欠かせない食材です。
丸ナスや米ナスとの違い
賀茂ナスは丸ナスの一種で、一般的なナスに比べて大型で皮が柔らかいのが特長です。丸ナスの持つ緻密な果肉に加え、風格のある姿と濃厚な味わいから「ナスの女王」とも呼ばれています。
一方、米ナスはアメリカ原産の「ブラックビューティー」を日本向けに改良した品種です。球形に近いので丸ナスの仲間に分類されますが、在来の丸ナスとは系統が異なります。ヘタが青いのが特徴です。
旬の時期
賀茂ナスの出回り時期は、6月から10月にかけてです。初夏に露地栽培の収穫が始まり、盛夏にかけて食味が充実し、秋口まで長く楽しめます。祇園祭のころ(7月1日〜31日)に最盛期を迎え、京都の夏を代表する食材として食卓を彩ります。
主な栄養とその効果
成分の大半は水分ですが、ずっしりと肉厚で食べ応えがあり、ナス特有のポリフェノール「ナスニン」をはじめ、カリウムや食物繊維も含まれています。
ナスニン
ナスの濃い紫色の皮に含まれる色素成分で、ポリフェノールの一種です。抗酸化作用を持ち、活性酸素の働きを抑えることで細胞の老化防止や生活習慣病の予防に役立つとされています。
カリウム
体内の余分なナトリウムを排出し、高血圧予防やむくみ対策に効果的とされています。発汗が多く水分やミネラルのバランスが崩れやすい夏場に、特に意識して摂りたい成分です。
食物繊維
腸内環境を整え、便通を促す働きがあります。また、食後の血糖値の急な上昇を抑える効果も期待され、日々の健康維持に役立ちます。
賀茂ナスの育て方

「賀茂ナス」を大きく育てるには、肥沃な土壌と十分な日当たりが欠かせません。また、通常のナスよりも広い株間やしっかりした支柱が必要です。技術や気候風土も影響しますが、適切に管理すれば家庭菜園やプランターでも立派な実をつけます。育苗は期間が長く難しいので、市販の苗を植え付けるのが一般的です。肥料を好む作物なので肥料切れを起こさないようにしましょう。
準備・土作り
植え付けの2週間前を目安に、1㎡あたり100g程度の苦土石灰(またはカキ殻石灰)をまいてよく耕します。1週間前には元肥として完熟堆肥(たいひ)4~5kgを施し、幅60~70cm・高さ20cmほどの畝を作ります。賀茂ナスは大株に育つため、株間は60~70cmと広めにとりましょう。
プランター栽培なら、深さ30cm以上・容量40リットル以上の大型容器を用意し、市販の培養土を使うと手軽です。
植え付け
生育温度は20~28℃のため、5月中旬ごろが植え付けの適期です。苗は本葉6~7枚、茎が太くがっしりしたものを選びましょう。苗は株間60~70cmで浅めに植え、株元にたっぷり水を与え、仮支柱を立てておきます。マルチは植え付け1週間前までにしておくと、保湿・保温の効果が高くなります。
管理・水やり
主枝と2~3本の側枝を残す「3本仕立て」で育てると実つきが安定します。果実が大きく重くなるため、早めに支柱を立て、枝をしっかり固定しましょう。ナスは乾燥を嫌うため、土の表面が乾いたらたっぷり水やりをします。特に開花・結実期は水切れさせないよう注意してください。追肥は2~3週間おきに化成肥料や鶏ふんを与えると生育がよくなります。
収穫
果実が直径12~15cm、重さ300g前後になったころが収穫の目安です。ヘタの下が白く、皮にツヤがあるうちに切り取りましょう。収穫が遅れると果肉が硬くなるため、適期を逃さずに収穫するのがポイントです。
賀茂ナスを育てるときに注意したい病害虫と対策
賀茂ナスは丈夫な野菜ですが、株が大きく葉も茂るため、風通しが悪くなると病害虫が発生しやすくなります。ここでは代表的なものとその対策を紹介します。
うどんこ病
乾燥気味で昼夜の温度差が大きいと発生しやすく、葉に白い粉状の病斑が広がります。株間を広めにとって風通しを確保し、発生初期に病葉(わくらば)を取り除くことで重症化を防げます。
ナスニジュウヤホシテントウ
葉を食害するオレンジ色のテントウムシで、テントウムシダマシとも呼ばれます。初夏から発生しやすく、苗が若いうちは特に注意が必要です。防虫ネットで寄りつきを防ぎ、見つけたら早めに捕獲して駆除すると効果的です。
アブラムシ類
春から初夏にかけて新芽や葉裏に群がり、汁を吸う害虫です。ウイルス病を媒介することもあります。シルバーマルチや敷きわらで寄りつきを防ぎ、見つけたら手で落とすか水で洗い流すとよいでしょう。石鹸水スプレーも手軽な方法ですが、薬害を防ぐため朝夕の涼しい時間帯に施用すると安心です。
あわせて、マリーゴールドやニラ、ナスタチウムなどのコンパニオンプランツを周囲に植えると、害虫忌避に役立ちます。
賀茂ナスの選び方

賀茂ナスは見た目にも美しい黒紫色の丸ナスで、一つひとつに手作り感があり、高級野菜として珍重されています。購入するときは次のポイントを押さえましょう。
皮のツヤ
黒紫色が濃く、表面に光沢があるものが新鮮です。しなびていたり色がくすんだりしているものは避けましょう。
ヘタの状態
濃い紫色のへたがピンと張り、切り口がみずみずしいものを選びます。ヘタの下が白く残っているのも賀茂ナスならではの鮮度のサインです。ごくまれに緑色のヘタを持つ実もありますが、これは遺伝的な差異や栽培環境の影響によるもので、品質や味には問題ありません。
重み
手に取ったときにずっしり重みがあるものは、果肉が詰まっていて食べ応えがあります。
形
丸みが均一で、傷やへこみが少ないものが調理しやすく、見栄えも良いです。
賀茂ナスの保存方法
賀茂ナスは水分が多く、収穫後は鮮度が落ちやすい野菜です。特に夏場は室温が高いため、風通しの良い場所でも劣化が早く進みます。やむをえず常温に置く場合は新聞紙に包んで日陰で保管し、その日のうちか翌日までに使い切りましょう。購入後はできるだけ早く調理するのが理想です。
冷蔵保存
新聞紙やキッチンペーパーで1個ずつ包み、ポリ袋に入れて冷蔵庫の野菜室で保存します。保存の目安は5日程度です。
冷凍保存
使いやすい大きさに切ってアク抜きし、水気をしっかり拭き取ってから保存袋に入れて冷凍します。調理の際は凍ったまま加熱すると食感が保たれます。
調理して保存
田楽や揚げびたしなどに調理してから保存容器に入れ、冷蔵庫で保存します。保存の目安は2〜3日で、作り置きおかずとしても便利です。
賀茂ナスの食べ方とレシピ5選

賀茂ナスは肉厚で煮崩れしにくく、加熱すると、とろけるように柔らかくなるのが特長です。皮は薄くて口当たりがよく、油との相性も抜群で、揚げたり炒めたりするとうまみを含んで濃厚な味わいになります。また、果肉が緻密で味が染み込みやすいため、煮物やあんかけ料理でも存在感を発揮します。
調理前にはアクを抜くために水にさらし、しっかり水気を拭き取るのがポイントです。大きくカットしても型崩れしにくく、田楽や揚げ出し、グラタンなど、京料理から洋風アレンジまで幅広く楽しめます。ここでは賀茂ナスの魅力を存分に味わえる5つのレシピをご紹介します。
賀茂ナスの田楽

賀茂ナスといえばやっぱり田楽。皮が柔らかく、煮崩れしにくい賀茂ナスだからこそ、焼いてもとろけるような口当たりに仕上がります。ここでは、まろやかで上品な甘さの「白みそ」とコクと深みのある「赤みそ」の2種のたれを紹介します。好みに合わせてお楽しみください。
材料(2人分)
- 賀茂ナス 1個(約300g)
- サラダ油 適量
- 白ごま 少々
【白みそだれ】
- 白みそ 大さじ2
- みりん 大さじ1
- 砂糖 小さじ2
- 酒 小さじ1
【赤みそだれ】
- 赤みそ 大さじ1と1/2
- みりん 大さじ1
- 砂糖 小さじ2
- 酒 小さじ1
- だし汁 小さじ1(または水でも可)
作り方
- 賀茂ナスはヘタを切り落とし、厚さ2~3cmの輪切りにする
- フライパンにサラダ油を入れて熱し、ナスの両面をこんがり焼いたら、ふたをして弱火で中まで火を通す
- 【白みそだれ】または【赤みそだれ】の材料をそれぞれ小鍋に入れ、弱火で練ってみそだれを作る
- 焼いた賀茂ナスにみそだれを塗り、トースターまたは魚焼きグリルで2~3分焼く
- 仕上げに白ごまをふる
賀茂ナスの揚げ出し

外は香ばしく、中はとろり。だしのうまみをたっぷり吸い込んだ揚げ出しは、賀茂ナスの緻密な果肉があってこそ味わえる夏の定番。皮が柔らかく煮崩れしにくい賀茂ナスなら、揚げても型崩れせず、食感はとろけるような滑らかさになります。
材料(2人分)
- 賀茂ナス 1/2個
- 片栗粉 適量
- 揚げ油 適量
- おろしショウガ 適量
- 万能ねぎ 少々
【A】
- だし汁 200ml
- しょうゆ 大さじ1
- みりん 大さじ1
作り方
- 賀茂ナスはヘタを切り落とし、厚さ2~3cmの輪切りにする
- 水にさらしてアクを抜き、しっかり水気をふき取ってから片栗粉をまぶす
- フライパンまたは鍋に揚げ油を熱し、賀茂ナスを両面きつね色になるまで揚げる
- 鍋に【A】を入れて温め、器に盛ったナスにかける
- おろしショウガと万能ねぎを添える
賀茂ナスのエビと枝豆あんかけ

とろける賀茂ナスに、ぷりっとしたエビとほくほくの枝豆を合わせた、夏にぴったりの一品。エビの旨みに加えて枝豆の自然な甘みが加わり、見た目にも鮮やか。冷やしてもおいしく、食卓に涼やかな彩りを添えます。
材料(2人分)
- 賀茂ナス 1/2個
- むきエビ(大きい場合は半分に切る)6尾
- 枝豆(塩ゆで) 大さじ1〜2
- ショウガ(みじん切り) 小さじ1
- サラダ油 適量
- 青ねぎやおろしショウガ(好みで) 少々
【A】
- だし汁 200ml
- 薄口しょうゆ 大さじ1
- みりん 大さじ1
【水溶き片栗粉】
- 片栗粉 小さじ1
- 水 小さじ2
作り方
- 賀茂ナスはヘタを落とし、厚さ2〜3cmの輪切りにする。水にさらしてアクを抜き、水気をしっかり拭く
- フライパンにサラダ油を入れて熱し、ナスの両面を焼いて中まで火を通す
- 別の鍋にサラダ油を少量熱し、ショウガを炒めて香りを出し、むきエビを加えて炒める
- エビの色が変わったら【A】を加えて軽く煮立たせ、枝豆も加える
- 【水溶き片栗粉】でとろみをつけ、賀茂ナスにたっぷりとかける
- 仕上げに好みで青ねぎ(小口切り)やおろしショウガを添える
賀茂ナスのステーキ

「ナスの女王」と称される賀茂ナスを主役にした夏のごちそう。香ばしく焼いたナスに、柚子胡椒の香るバター醤油ソースをとろりとかけていただきます。
材料(2人分)
- 賀茂ナス 1/2個
- オリーブオイル 適量
- バター 10g
【A】
- しょうゆ 小さじ2
- みりん 小さじ1
- 柚子胡椒(好みで) 少々
作り方
- 賀茂ナスはヘタを落とし、厚さ2~3cm程度の輪切りにし、断面に格子状の切り込みを浅く入れる
- フライパンにオリーブオイルを入れて熱し、ナスを中火でじっくり焼く。両面に焼き色がついたらふたをして弱火にし、柔らかくなるまで火を通す
- 火が通ったらバターを加え、【A】を回しかけてさっと煮絡める
- 皿に賀茂ナスを盛り、好みでかいわれ大根やタマネギスライス(いずれも分量外)を添える
賀茂ナスとひき肉のトマト重ね焼き

肉厚な賀茂ナスに、トマト風味のひき肉ソースをたっぷり重ね、チーズをのせて香ばしく焼き上げたボリューム満点の一皿。ナスのとろけるような食感と、甘酸っぱいトマトのソースがよく絡みます。
材料(2人分)
- 賀茂ナス 1個(約300g)
- 豚ひき肉 150g
- タマネギ(みじん切り) 1/4個
- カットトマト缶 150g
- ニンニク(みじん切り) 1/2片分
- ピザ用チーズ 適量
- オリーブオイル 少々
- 塩こしょう 少々
作り方
- 賀茂ナスはヘタを切り落とし、厚さ5mm程度の輪切りにする
- フライパンにオリーブオイルを入れて熱し、ナスの両面を焼いて火を通す
- 別のフライパンにオリーブオイルとニンニクを入れて弱火で香りを出し、タマネギを炒める
- タマネギがしんなりしたら豚ひき肉を加えて炒め、色が変わったらカットトマトを加えて5〜6分煮詰める。塩・こしょうで味を調える
- 耐熱皿にナスとトマトそぼろを交互に重ね、ピザ用チーズをのせる
- トースターまたはグリルでチーズに焼き色がつくまで焼く
- 仕上げに刻んだパセリ(分量外)をふりかけてもよい
伝統と文化に育まれた京野菜の逸品
賀茂ナスは、各地に多様な地方品種が残るナスの中でも、ひときわ高級なブランドとして位置づけられる伝統野菜です。つややかな姿と豊かな食味に加え、上賀茂神社への奉納や葵祭との関わりなど、京都の文化や信仰とも深く結びついてきました。
その価値を支えているのは、生産者が代々続けてきた自家採種と伝統的な栽培技術、そして振り売りに象徴される地域の販売文化です。手間を惜しまず守られてきたからこそ、今も「ナスの女王」と称される賀茂ナスを味わえます。京都の夏を彩る一品として、これからも地域の誇りとともに受け継がれていくでしょう。特別な一皿を囲むひとときに、まさに賀茂ナスならではのぜいたくを感じられます。
取材協力:日本伝統野菜推進協会

























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