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滋賀の伝統野菜「日野菜」とは? 旬や栽培方法、おいしく食べるレシピを解説【日本伝統野菜推進協会監修】

さとう ともこ

ライター:

連載企画:解説!全国伝統野菜

滋賀の伝統野菜「日野菜」とは? 旬や栽培方法、おいしく食べるレシピを解説【日本伝統野菜推進協会監修】

カブは日本で古くから栽培されている野菜のひとつで、各地の気候や風土に合わせて多彩な品種が生まれてきました。その中でも滋賀県日野町で受け継がれる「日野菜(日野菜かぶ)」は、細長い形と根の上半分が紅紫色、下半分が白いという独特の姿が特徴です。2022年には「近江日野産日野菜」として地理的表示(GI)保護制度に登録されました。本記事では、一般社団法人日本伝統野菜推進協会の取材協力のもと、日野菜の特徴や歴史、栽培方法、食べ方とレシピをご紹介します。

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日野菜とはどんな野菜?

みずみずしい日野菜日野町産

画像提供:日野町農林課

日野菜は、滋賀県日野町を発祥とするカブで、「近江の伝統野菜」のひとつです。原種は「深山口(みやまぐち)日野菜原種組合」によって採種が続けられ、日野町産の日野菜はすべてこの種子から栽培されています。2022年には「近江日野産日野菜」として地理的表示(GI)保護制度に登録され、地域ブランドとしての価値も高まっています。

日野菜の特徴と歴史

形はすらりと細長く、太さはおおよそ100円玉~500円玉程度、長さは20センチ前後。根の上部は紅紫色、下部は白色にくっきりと分かれ、葉も濃い紅紫色に色づく美しい姿が特徴です。

日野菜の歴史は約550年前にさかのぼります。当時の領主・蒲生貞秀公が、日野町鎌掛(かいがけ)にある観音堂へ参詣した際、このカブを発見して持ち帰り、漬物にしたのが始まりと伝えられています。以来、日野菜は日野町を中心に栽培され、地元の食文化に深く根付いてきました。漬け方も多彩で、葉を刻んで短冊切りの根と一緒に酢に漬ける「桜漬け」、葉付きのまま下漬けして甘酢に漬け込む「えび漬け」、ぬかで漬けた「ひね漬け」などが知られています。

日野菜漬けshiga_10_1

日野菜漬け(滋賀県) ※出典:農林水産省ウェブサイト「うちの郷土料理

食味の特徴

肉質は緻密で、独特の苦みと辛みを含んだ風味が特徴です。一度食べたらくせになる味わいと評されています。

他品種との違い

日本には数多くのカブの品種があり、大きくはヨーロッパ系統とアジア系統に分けられます。関ヶ原付近を境に分布が異なり、東日本には小ぶりで表面がなめらかなヨーロッパ系統が多く、西日本には葉や茎に毛があり、大ぶりになりやすいアジア系統が多く見られます。

日野菜はアジア系統に属し、同じく二色の根を持ち勾玉(まがたま)のように曲がる「津田カブ」の祖先種であるとも伝えられています。

旬の時期

日野菜の旬は10月から12月末にかけてです。寒さにあたることで葉も紅紫色に色づき、甘みを増して味が深まり、独特の辛みと苦みが引き立ちます。この時期に作られる日野菜の漬物は、日野町の冬の味覚として全国に出荷されます。また、5月から6月にかけては春まきが収穫時期を迎えます。

主な栄養素とその効果

日野菜の根には消化酵素のアミラーゼが含まれており、ビタミン類も少量ながら含まれています。一方、葉は緑黄色野菜として栄養価が高く、βカロテンやビタミンC、カルシウム、カリウムなどが豊富です。根と葉を合わせて利用することで、栄養を余すことなく摂取できます。

アミラーゼ

でんぷんの分解を助ける酵素で、消化を促進し、胃腸への負担をやわらげる働きがあります。

βカロテン

体内でビタミンAに変換され、粘膜や皮膚の健康維持に役立ちます。抗酸化作用もあり、免疫力を高める働きが期待されています。

ビタミンC

コラーゲンの生成を助け、肌や血管を健やかに保ちます。また、抗酸化作用によって細胞の老化を防ぎ、風邪予防や疲労回復にも効果的です。

日野菜の選び方

みずみずしい日野菜葉つき

画像提供:日野町農林課

日野菜は根だけでなく葉もおいしく食べられる野菜です。葉は色が濃くシャキッとしているものが新鮮な証拠。根は太さが均一で、上部の紅紫色が鮮やかなものを選びましょう。黒ずみやひび割れがあるものは鮮度が落ちています。また、ひげ根が少なく表面がなめらかなものが良品とされています。

保存方法

葉と根は別々に保存します。葉をつけたままにしておくと根の水分が失われてしまうため、購入後はすぐに切り分け、それぞれをラップに包んで冷蔵庫の野菜室で保存しましょう。葉は1〜2日、根は4〜5日以内に食べ切るのがおすすめです。

葉は軽く塩ゆでして水気をしっかり絞れば、冷凍で約1カ月保存できます。煮物や炒め物、料理の彩りにすぐ使えて便利です。

日野菜の食べ方とレシピ5選

日野菜は漬物(甘酢漬けやぬか漬け)に多く用いられるほか、焼く、揚げるなどの加熱調理やサラダなどの生食にも向く万能野菜です。ここでは、日野菜のふるさと・日野町役場農林課で日野菜振興コーディネーターを務める松井賢一さんに教わったレシピをご紹介します。

日野菜の桜漬け

日野菜桜漬けhinona.sakura

画像提供:日野町農林課

日野菜といえば、鮮やかな紅色が桜の花を思わせる「桜漬け」。代々地域で受け継がれてきた伝統的な食べ方で、独特のほろ苦さと色鮮やかな漬け上がりが冬の食卓を彩ります。

材料(作りやすい分量)

  • 日野菜(根) 1kg
  • 日野菜(葉) 300g
  • あく抜き用塩 100g
  • みりん    大さじ3
  • 本漬け用塩  約50g
  • 酢      大さじ2〜3

作り方

  1. 日野菜は丁寧に水洗いし、水気を切る。根と葉を分け、根は2〜3cmの長さに切ってから1.5〜2mm厚さの短冊切りに、葉は細かく刻む
  2. 【あく抜き】根と葉をそれぞれ別の容器に入れ、塩をふって軽く混ぜる。根には塩をまぶし、葉は塩をふってよく揉む(青汁が出てくる)
  3. それぞれ熱湯を回しかけ、すぐに湯を捨てて冷水にとり、もみ洗いしてザルにあげる。収穫適期を過ぎた日野菜はあくが強いため、この工程を2回繰り返すと食べやすくなる

  4. 【本漬け】根はボウルに移し、酢とみりん・塩少々を加えて混ぜる。葉もボウルに移し、塩少々を加えて混ぜる
  5. 保存容器に根を敷き、上に葉を重ねて重しをのせる。一晩置いて水が上がったら重しを外して完成

日野菜のちらし寿司

日野菜のちらし寿司hinona.chirashi

画像提供:日野町農林課

刻んだ日野菜漬けを加えることで、彩りも風味も引き立つちらし寿司。伝統野菜ならではの香りと酸味が、普段の寿司飯を特別な一品に変えます。

材料(6人分)

  • 米 3カップ
  • 【A】合わせ酢(酢100ml、砂糖30g、塩5g)
  • 日野菜さくら漬(甘酢漬) 100g
  • かんぴょう 15g
  • にんじん 50g
  • 干ししいたけ 3枚
  • 【B】砂糖15g(大さじ1)、しょうゆ大さじ2
  • ちりめんじゃこ 30g
  • 三度豆 30g
  • 卵 2個
  • 砂糖 小さじ1
  • 塩 少々

作り方

  1. 米は寿司用に炊き、【A】の合わせ酢を混ぜて酢飯を作り、冷ましておく
  2. 日野菜漬は細かく刻む
  3. かんぴょう・干ししいたけは水で戻し5ミリ角に切り、にんじんはせん切りにする。これらを【B】で軽く煮含め(7分程度)、冷まして煮汁を切る
  4. 三度豆は塩ゆでし、ななめ切りにする
  5. 卵に、砂糖小さじ1、塩少々を加えて薄焼きにし、錦糸卵を作る
  6. 酢飯に、③を入れ酢飯を切るように混ぜる
  7. 器に⑥を盛り付け、②の日野菜漬、ちりめんじゃこ、⑤の錦糸卵、④の三度豆を彩りよく飾る

日野菜の天ぷら

日野菜の天ぷらhinona.tenpura

画像提供:日野町農林課

日野菜の葉と根を丸ごと使った天ぷらは、シンプルながら素材の味が引き立つ一品です。抹茶塩を添えれば、日野菜特有のほろ苦さと塩味が絶妙に調和します。

材料(5人分)

  • 日野菜 小さめ5本
  • 天ぷら粉 100g
  • 抹茶塩(抹茶・塩) 適量

作り方

  1. 日野菜はきれいに洗い、葉と根を切り分ける。ひげ根はピーラーで削り、根は細く縦に切る。日野菜にかるくてんぷら粉をふり、衣をはがれにくくする
  2. 天ぷら粉を冷水で溶いて衣を作り、日野菜をくぐらせる
  3. 170℃の油で葉と根を別々にからりと揚げる
  4. 器に盛り付け、抹茶塩を添える

日野菜のポタージュ

日野菜のポタージュ

画像提供:日野町農林課

日野菜の根をたっぷり使ったポタージュスープ。ほろ苦さと甘みをじゃがいもで和らげ、白みそや生クリームでコクを加えた優しい味わいです。洋風でありながら、どこか和の風情も感じられる一品です。

材料(4人分)

  • 日野菜(根) 400g
  • じゃがいも 150g
  • たまねぎ 100g
  • バター 20g
  • コンソメスープの素 1個
  • 白ワイン 30ml
  • 牛乳 200ml
  • 水 400ml
  • 白みそ 大さじ1
  • 生クリーム 40g
  • 塩・こしょう 少々

作り方

  1. 日野菜・じゃがいも・たまねぎは適当な大きさに切る
  2. 鍋にバターを熱し、たまねぎを炒めてしんなりしたら日野菜を加えて軽く炒める。さらにじゃがいも・水・コンソメを加え、20分ほど煮込む
  3. 白みそ・白ワインを加え、粗めに刻んだ生の日野菜を少量加えてからミキサーにかけ、裏ごしする
  4. 鍋に戻し、牛乳を加え、塩・こしょうで味を調え火にかけて沸騰する前に火を止める。仕上げに生クリームを加えて完成

日野菜漬チョコレート

日野菜漬けチョコレート

画像提供:日野町農林課

漬物の塩気とチョコレートの甘さが不思議と調和する、新感覚のスイーツ。伝統野菜の日野菜漬を使った、遊び心あふれるアレンジです。

材料(20本分)

  • 日野菜さくら漬(甘酢漬け/短冊または拍子木切り) 20本
  • 製菓用チョコレート  100g(市販の板チョコは固まりにくいため製菓用を使用)

作り方

  1. 日野菜漬はキッチンペーパーで水気をしっかり拭き取る
  2. チョコレートを湯せん(45℃程度)で溶かす
  3. 日野菜漬を②に浸し、全体をコーティングする
  4. クッキングペーパーを敷いたバットに並べ、冷蔵庫で冷やし固めて完成

日野菜の栽培方法

日野菜は比較的育てやすいカブの一種で、家庭菜園でも挑戦しやすい伝統野菜です。秋まきが中心で、日野菜ならではの細長い形に育てるには、土作りや間引きがポイントとなります。

畑の準備

種まきの2週間前までに畑に石灰を散布して土壌を中和し、1週間前までに完熟堆肥や油かすなどの元肥を入れて深く耕します。プランター栽培の場合は深さ30cm以上の大型プランターに市販の培養土を用いると手軽です。

種まき

秋まきの適期は8月下旬から9月中旬。畝幅60cm、高さ15〜20cmの畝を立て、条間20cmで2条のまき溝を作り、深さ約1cmにすじまきします。春まき(地域によって可能)は3〜4月にまき、5〜6月に収穫します。

管理・水やり

発芽後の間引きは数回に分けて行います。1回目は双葉の頃、2回目は本葉2〜3枚の頃、本葉5〜6枚になったら株間を10cm程度に整えます。間引きの際に追肥と土寄せを行うと、根がまっすぐ伸びやすくなります。水やりは土の表面が乾いたらたっぷり与えるのが基本です。

収穫

播種から40〜50日ほどで収穫できます。根の直径が2〜3cm、長さ20〜25cm程度になり、紅紫色と白色がはっきり分かれたら収穫の目安です。

日野菜を育てるときに注意したい病害虫と対策

アブラナ科の野菜である日野菜は、アブラムシやコナガ、キスジノミハムシなどの被害を受けやすい作物です。防虫ネットの利用や連作を避けることが基本的な予防策になります。

アブラムシ

新芽や葉裏に群がって汁を吸う害虫で、ウイルス病を媒介することもあります。シルバーマルチや敷きわらで寄りつきを防ぎ、見つけたら手で落とすか水で洗い流して早めに対処しましょう。

コナガ

アブラナ科の植物に卵を産み、幼虫が葉や新芽を食害します。春から秋にかけて発生しやすいため、網目の細かい防虫ネットや寒冷紗で成虫の侵入を防ぎます。

キスジノミハムシ

黒地に黄色いしま模様がある体長3mmほどの甲虫です。成虫は葉に小さな穴を開け、幼虫は土中で根を食害します。防虫ネットやシルバーマルチで成虫を寄せ付けないことや、雑草の除去と輪作による土壌管理が効果的です。

近江・日野町が誇る、550年の伝統を食卓へ

鮮やかな紅紫色と白のコントラストが美しい日野菜は、室町時代に日野町を治めていた蒲生貞秀公が発見したと伝えられ、550年以上にわたり栽培が続けられてきた在来種です。その後、伊勢・会津を治めた蒲生氏の国替えや近江商人によって各地へ伝えられ、地域の食文化として広まりました。

なかでも日野菜の漬物は特に有名で、葉と根を一緒に食べることで独特の塩味とほろ苦さが調和し、風味豊かな味わいが楽しめます。葉には根以上に栄養が含まれており、健康面でも価値の高い食材です。

日野菜漬け(えび漬け)

葉付きのまま甘酢に漬け込む日野菜の「えび漬け」

日野町で栽培される日野菜がひときわおいしいのには理由があります。第一に、原種が守られ続けてきたこと。品種改良されていない在来種ならではの力強い風味と独特の苦み、辛みが保たれています。第二に、代々受け継がれてきた栽培技術。土作りから収穫まで、長年の経験に基づく丁寧な管理が行われています。第三に、鈴鹿山系から流れる清らかな水と、昼夜の寒暖差がある盆地特有の気候。これらの地理的条件が日野菜の色づきを良くし、味を深めているのです。

滋賀県日野町の風土と歴史、そして郷土を愛する人々の手によって育まれてきた「近江の伝統野菜」である日野菜。冬の味覚として親しまれるこの野菜を食卓に取り入れることで、伝統の味わいとともに地域に息づく物語を感じることができるでしょう。

取材協力:日本伝統野菜推進協会

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