安納芋とはどんな野菜?

安納芋は、鹿児島県・種子島で栽培されるサツマイモの一品種で、県内で古くから栽培され郷土の食文化を支えてきた「かごしまの伝統野菜」に登録されています。その歴史は、戦後、復員兵がインドネシアのスマトラ島から持ち帰った芋苗が、種子島の安納地区で育てられたのが始まりと伝えられています。
形は紡錘形(ぼうすいけい)またはやや下ぶくれの紡錘形で、表皮は赤褐色から薄いオレンジ色、果肉は淡い黄色をしています。加熱すると果肉が艶やかな黄金色に変わり、蜜がにじむほどの強い甘みと、ねっとりとした食感がでるのが特徴。まるでスイーツのような味わいが人気を博し、平成以降の「第4次焼き芋ブーム」を牽引してきました。
その品質を守るために種子島内で良食味系統が選抜され、1998年には、一般的に安納芋と呼ばれ、表皮が赤褐色の「安納紅(あんのうくれない)」と、突然変異でできた表皮が淡黄色の「安納こがね」が品種登録されています。また、種子島産の「種子島安納いも」は、地域ブランドとしてGI(地理的表示)保護制度にも登録されています。
食味の特徴
加熱によりデンプンが糖へと変化し、蜜があふれるような濃厚な甘みが生まれます。繊維質が少なく、しっとりとクリーミーな口当たりは、まるでスイートポテトのようだと評されるほど。焼き芋やスイーツにぴったりの品種です。
他品種との違い
いわゆる「ホクホク系」のサツマイモ(紅あずま・鳴門金時など)に対して、安納芋は水分量が多く、糖度の高さが際立つ「しっとり系(粘質系)」に分類されます。糖度は群を抜いて高く、焼き芋にすると蜜があふれるように甘く仕上がります。 一方でホクホク系のサツマイモは水分が少なく、加熱によってほっくりとした食感になり、上品な甘さが特徴です。焼き芋のほか、大学芋や天ぷら、煮物など幅広い料理に活用されています。
旬の時期
安納芋の収穫期は9月から12月にかけてです。ただし、掘りたてはまだ甘みがのりきらず、収穫後に約1カ月半ほど貯蔵(熟成)させることで、デンプンが糖に変わり、濃厚な甘さが引き出されます。 このため、市場に多く出回るのは晩秋から冬にかけてで、特に12月〜1月に出荷される安納芋は甘みがもっとも強く、焼き芋やスイーツに最適です。
主な栄養素とその効果
安納芋は、ビタミンC・Eをはじめ、βカロテン、食物繊維、カリウム、カルシウムなどのミネラルを豊富に含む栄養価の高い野菜です。特に果肉の黄色はβカロテンによるもので、抗酸化作用を持ち、健康維持に役立ちます。 また、サツマイモに含まれるビタミンCは加熱しても壊れにくく、風邪予防や美肌づくりに効果的。食物繊維は腸内環境を整え、カリウムは余分な塩分を体外に排出してむくみを防ぐなど、毎日の食事に取り入れやすい栄養素が多く含まれています。
ビタミンC
コラーゲンの生成を助け、肌や血管を健やかに保ちます。また、抗酸化作用によって細胞の老化を防ぐほか、風邪予防や疲労回復にも効果的です。
ビタミンE
強い抗酸化作用を持ち、細胞の酸化を防いで血管や肌の健康を保ちます。血行を促進して冷えや肩こりの改善にも役立ちます。また、加熱しても損なわれにくいので油を使った調理との相性が良く、炒め物や揚げ物にすることで効率よく摂取できます。
βカロテン
体内でビタミンAに変わり、皮膚や粘膜の健康を保つ働きがあります。抗酸化作用により、細胞の老化や生活習慣病の予防にも効果が期待されます。油と一緒に摂取すると吸収率が高まります。
安納芋の選び方

皮に張りがあり、色づきが均一で傷やシミのないものを選びましょう。ひげ根が多いものや細長いものは繊維質が多く、やや硬めの食感になりがちです。なめらかでしっとりとした口当たりを楽しみたい場合は、ひげ根が少なく、ふっくらとした形のものがおすすめです。
表面に黒いタール状の斑点が見られることがありますが、これはサツマイモに含まれる成分「ヤラピン」が空気に触れて変色したもので、品質には問題ありません。
安納芋の保存方法
サツマイモ類は寒さと乾燥に弱いため、冷蔵庫での保存は避けましょう。新聞紙に包んで風通しの良い冷暗所に置くと、2〜3週間ほど日持ちします。使いかけのものはラップで包み、冷蔵庫で保存して早めに使い切ります。
冷凍する場合は、食べやすい大きさに切って少量ずつラップで包み、冷凍用保存袋に入れて保存します。凍ったまま煮物や揚げ物などの加熱調理に利用できます。
焼き芋は、しっかりと冷ましてから1本ずつ、または食べやすい大きさに切ってラップで包み、冷凍用保存袋に入れます。冷蔵なら4〜5日、冷凍なら約1カ月保存可能です。食べるときは自然解凍してスイーツのように味わうか、電子レンジやオーブンで温め直すと焼きたてのように楽しめます。
安納芋の食べ方とレシピ5選

安納芋は、焼くだけで蜜があふれるサツマイモです。焼き芋として味わうのはもちろん、スイーツや惣菜など幅広い料理に活用できます。ここでは、安納芋の甘さと食感を最大限に引き出す焼き方と、家庭で楽しめるおすすめレシピ5選を紹介します。 焼き芋をアレンジしたスイーツやサラダ、主菜、スープまで、毎日の食卓を彩るバリエーションをお試しください。
焼き芋の作り方

安納芋の甘みを最大限に引き出すコツは、低温でじっくり火を通すことです。 サツマイモに含まれるデンプンは、加熱の過程で酵素(アミラーゼ)の働きによって糖に変わりますが、この酵素は高温に弱いため、急激な加熱を避けてゆっくり焼くのがポイント。 ここでは、家庭で手軽にできる2通りの焼き方を紹介します。記載の焼き時間は、Mサイズ(約200g)程度の安納芋を目安とした場合です。
オーブントースターで焼く
低温でじっくり焼くことで安納芋のデンプン質が糖化して、蜜のような甘みが生まれます。 所要時間:約60分+蒸らし10分。
- オーブントースターを220〜250℃に温めておく
- 安納芋をよく水洗いし、水分を残したまま湿らせた新聞紙またはキッチンペーパーで包む
- さらにアルミホイルで包み、トースターの庫内に入れる
- 60分ほど焼く(芋の大きさにより加減)
- 竹串がすっと刺さるようになったら、電源を切り、そのまま庫内で5〜10分蒸らす
魚焼きグリルで焼く
直火で焼くため、トースターより短時間で香ばしく仕上がります。
所要時間:約20〜30分。
- 安納芋をよく洗い、アルミホイルでしっかり包む
- グリルの網に並べ、弱火で加熱する
- 10分ほど経ったら上下を返し、全体を均一に焼く
- 竹串がすっと通るようになったら火を止め、そのまま5分ほど蒸らす
焼き芋から作る安納芋のトリュフ

安納芋の焼き芋をペーストにして丸め、ココアやきな粉をまぶしたひと口スイーツ。ねっとり甘い安納芋の風味が生チョコのように口どけよく広がります。
材料(約12個分)
- 焼き安納芋(皮付き) 中1本(正味200g目安)
- バター 20g
- 生クリーム 大さじ2
- 砂糖 小さじ2(好みで調整)
- バニラエッセンス 少々(好みで)
- ココアパウダー・きな粉・粉糖など 適量
作り方
- 焼き安納芋の中身を熱いうちに取り出して潰す
- バター、生クリーム、砂糖、バニラエッセンスを加えてなめらかになるまで混ぜる
- 粗熱を取り、冷蔵庫で30分ほど冷やして扱いやすい硬さにする
- スプーンで生地をすくい、手で丸めてひと口大のボール状に整える
- ココアパウダー・きな粉・粉糖などをまぶして仕上げる(好みで溶かしチョコをかけても)
焼き芋から作る安納芋とベーコンのサラダ

安納芋のねっとりとした甘さに、ベーコンの塩気と燻香を合わせたデリ風サラダ。マヨネーズは控えめに粒マスタードで後味さっぱり。
材料(2人分)
- 焼き安納芋(正味) 250g
- ベーコン(短冊切り) 80g
- 紫タマネギ(薄切り・水にさらす) 1/8個
- きゅうり(薄切り・軽く塩もみする)1/2本
- オリーブオイル 小さじ1
【A】
- マヨネーズ 大さじ1〜1と1/2
- 粒マスタード 小さじ1
- 酢(またはレモン) 小さじ1
作り方
- 焼き安納芋は温かいうちに皮を外し、食感が残る程度に粗くつぶす
- フライパンにオリーブオイルを入れて熱し、ベーコンをこんがり炒める。ペーパーで余分な油を取る
- ボウルに安納芋、ベーコン、水気を切った紫タマネギ、きゅうりを入れ、【A】で和える
- 味を見て塩・黒こしょうで調え、好みで粗びき黒こしょう(分量外)を追加する
安納芋とタマネギのポタージュ

安納芋の自然な甘みを生かした、やさしい味わいのポタージュ。タマネギと牛乳を合わせてなめらかに仕上げます。焼き芋で作るとより甘く濃厚な味わいが楽しめます。
材料(2人分)
- 安納芋(正味) 200g
- タマネギ 1/2個
- バター 10g
- 水 200ml
- 牛乳 150ml
- コンソメ 小さじ1
- 塩・こしょう 少々
作り方
- 安納芋は皮をむいて薄切りにし、水にさらす。タマネギは薄切りにする
- 鍋にバターを溶かし、タマネギが透き通るまで炒める。安納芋を加えてさっと炒める
- 水とコンソメを加えて弱火で10〜12分、安納芋が柔らかくなるまで煮る
- 粗熱をとり、ミキサーでなめらかにする
- 鍋に戻して牛乳を加え、温め直し、塩・こしょうで味を調える
安納芋と黒豚の甘辛炒め

ねっとり甘い安納芋に、コクのある豚肉を合わせた主菜。甘辛だれでごはんが進む一品です。
材料(2人分)
- 安納芋 小1~2本(250g目安)
- 黒豚こま切れ肉 200g
- サラダ油 小さじ2
- 片栗粉 小さじ2
- 白いりごま 少々
【A】
- しょうゆ 大さじ1と1/2
- みりん 大さじ1と1/2
- 砂糖 小さじ2
- 酒 大さじ1
作り方
- 安納芋は皮ごと棒状に切り、水にさらして水気を拭く。耐熱容器に入れてふんわりラップし、電子レンジ(600W)で3~4分加熱して下ゆでしておく
- 豚肉に片栗粉をまぶす。フライパンにサラダ油を入れて熱し、豚肉の色が変わるまで炒める
- 安納芋を加えて焼き色をつけ、【A】を回しかけて煮絡める
- 照りが出たら火を止め、白ごまをふる
安納芋と鶏肉のきび酢煮

きび酢で甘酸っぱく軽い口当たり。甘くなりがちなサツマイモがご飯のおかずになる、さっぱり系の煮物です。
材料(2人分)
- 安納芋 小1~2本(250g目安)
- 鶏もも肉 200g
- ショウガ(薄切り) 5枚
- 水 200ml
【A】
- きび酢(または酢) 大さじ2
- しょうゆ 大さじ1
- みりん 大さじ1
- 砂糖 小さじ1
作り方
- 安納芋は皮ごと一口大の乱切りにし、水にさらして水気を切る。鶏もも肉は一口大に切る
- 鍋に水、ショウガ、鶏肉を入れて中火にかけ、煮立ったらアクを取る
- 安納芋と【A】を加え、落としぶたをして弱めの中火で12~15分、芋が柔らかくなるまで煮る
- ふたを外して火を強め、煮汁を少し煮詰めて照りを出す
安納芋の栽培方法

サツマイモの苗
安納芋をはじめとするサツマイモは、比較的手間がかからず、収穫の喜びが大きいことから家庭菜園でも人気の野菜です。種芋ではなく、園芸店やホームセンターで販売されている苗(挿し穂)を植えて育てます。深型のプランターでも栽培できるため、ベランダ菜園にもおすすめです。
畑の準備
サツマイモは水はけが良く、やや痩せた土地でよく育ちます。乾燥には強い一方、過湿には弱いため、畑は深く耕して通気性を高めましょう。苗を植える1週間前までに、幅45cm、高さ30cmほどの高畝を立てておくと効果的です。高畝にすることで水はけが良くなり、根の発育が促されます。プランターで育てる場合は、市販の野菜用培養土を使うと手軽です。
苗の植え付け
苗の植え付け時期は5月頃です。長さ30cm前後で節が詰まり、茎が太めの苗を選びましょう。購入から植え付けまで期間があく場合は、束ねたまま仮植えするか、浅く水を張ったバケツに浸け、日陰で保存します。 植え方にはいくつかありますが、家庭菜園では「水平植え」が一般的です。畝と並行に30〜50cm間隔で苗を並べ、切り口から3〜4節を指で軽く押し込み、葉を地上に出すようにして植えつけます。植え付け後はたっぷりと水を与えましょう。
管理
基本的に追肥は不要で、水やりも雨水で十分です。ただし、プランターを屋根のある場所に置いている場合は、土の表面が乾いたら水を与えましょう。雑草はこまめに取り除き、葉が茂ってきたら「つる返し(伸びたつるを持ち上げて裏返す)」を行うと、イモの肥大が促されます。
収穫
10〜11月が収穫時期です。根元の土を軽く手で掘り、イモの大きさを確かめましょう。十分に太っていれば収穫のサインです。作業しやすいようにつるを切り取り、スコップなどで株の周囲を掘り起こし、イモを傷つけないよう丁寧に手で引き抜きます。掘り上げたイモは日陰で乾かし、新聞紙に包んで風通しの良い場所で1〜2週間ほど貯蔵すると、甘みがさらに増します。
安納芋を育てるときに注意したい病害虫と対策
安納芋を含むサツマイモは比較的丈夫な作物ですが、栽培環境によっては病害虫が発生することがあります。特に注意したいのは、カビが原因の「立枯病」や「黒斑病」、そして根を食害する「コガネムシ類」です。早めの発見と対処が、健康な株を保つポイントです。
サツマイモ立枯病
立枯病(たちがれびょう)は、土壌中のカビ(フザリウム菌)が原因で発生します。苗の根元が黒ずんで腐り、葉がしおれて枯れるのが特徴です。高温多湿の環境で発生しやすく、連作によってリスクが高まります。同じ場所で連続して育てないようにし、3〜4年は間隔を空けましょう。また、土壌の排水性を保ち、植え付け前に堆肥をよく混ぜて通気性を高めておきます。発病株は早めに抜き取り、他の株への感染を防ぎましょう。
黒斑病
黒斑病(こくはんびょう)は、葉や茎に黒褐色の斑点ができる病気です。進行すると茎が折れたり、収穫後のイモに黒い斑点が現れたりします。高湿度・高温の条件で広がりやすいので、密植を避け、風通しを良くすることが重要です。マルチ栽培をする場合は、過湿にならないよう管理します。被害のある葉やつるは早めに取り除き、畑に残さないようにしましょう。
コガネムシ類
コガネムシ類の幼虫は、土の中でイモや根をかじって被害を与えます。特に夏場から秋にかけて多く見られ、食害を受けるとイモの表面が凸凹になり、品質が下がってしまいます。対策として、植え付け前に土をよく耕し、前作の根や草を取り除いておくと発生を抑えられます。土作りの際に幼虫を見つけて捕殺し、プランターの場合は用土を入れ替えて清潔な状態を保ちましょう。マリーゴールドを周囲に植えると、忌避効果が期待できます。
種子島から全国へ、南国の風土が育むブランド芋
鹿児島県・種子島でのサツマイモ栽培は、琉球から伝わったとされ、300年以上の歴史を持ちます。戦後に安納芋の栽培が始まった島北部の安納地区は、太古の昔に海底だったといわれるミネラル豊富な土壌と、平坦な地形を渡る太平洋の潮風に恵まれた土地です。さらに、亜熱帯と温帯の境に位置し、年間平均気温は約19℃。冬でも温暖な気候が続く、サツマイモの栽培の理想郷です。

「安納芋」は2013年までは種子島でのみ栽培が認められていましたが、現在は全国での生産が可能になりました。それでも「安納芋といえばやはり種子島」と語る人が多いのは、島の風土と、長い年月にわたって培われてきた栽培の歴史が今も息づいているからでしょう。
近年の石川県立大学によるDNA鑑定で、種子島の「安納芋」は石川県で一度途絶えた幻のサツマイモ「兼六」と遺伝的に同一品種であることが明らかになりました。同じルーツを持ちながらも、育つ土地や気候によって食味が異なるのは、まさに伝統野菜の奥深さを物語っています。その違いを味わってみるのも、興味深い食体験です。
取材協力:日本伝統野菜推進協会



















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