ショベルカーの中古価格
南側が開けた日当たりのよさと、そこに建っていた小さな古民家が気に入って、この土地に引っ越してきたのは今から14年前だ。
昭和21(1946)年築のこの少し傾いた古民家は、それほどボロい家ではなかったが、かといってそのまま住むことはできなかった。なぜなら水道がなかったからである。だから、トイレも風呂もキッチンもなかった。

手に入れた古民家には水回りがなかった。排水のための浄化槽の工事をする設備業者のショベルカー
古い井戸はあったが、深さが8メートルほどしかない浅井戸で、生活に使える水質ではなかった。かつてのくみ取り式トイレは埋められており、台所や風呂があったと思われる土間は床板が張られていた。そうした水回りのない家に、前の持ち主がどう暮らしていたかというと、すぐ隣のハウスメーカーが建てた現代住宅に暮らす地主が、離れとして使っていたようなのだ。
ただ、そのままでは住めない家というのは、私の望むところだった。なぜならDIYで自分の好きなようにリノベーションしたいと思っていたからだ。それに、こうした物理的な問題のある家というのは、相場より安く手に入る。予算があまりなかったので、そのことは何よりも都合がよかった。
物件を手に入れると、早速、水道を引く手続きを進め、トイレと浴室のための増築にとりかかった。じつは、これは私にとって初めてのDIYだったのだが、いきなり大変な作業にぶつかった。基礎の施工だ。コンクリートのベタ基礎を打つ(土台を作る)ために、10平方メートルほどの範囲を30~40センチの深さで掘らなくてはいけなかった。シャベル1本でそれをやるのがどれだけ大変かは、始めてすぐにわかった。まして土は、よく耕された畑のように柔らかいわけではない。石混じりの硬く締まった地面だ。私はすぐにへこたれた。
その姿を見て、材木を運んできてくれた製材所の親方が同情してくれたのだろう。ショベルカーを持ってきて、汗もかかずにあっという間に基礎を打つために必要な整地をしてくれた。
ちなみにショベルカーの建設機械業界での統一名称は「油圧ショベル」という。広く使われている「ユンボ」は、もとはフランスの建設機械メーカーの商標で、現在レンタルのニッケンが商標権を持っている。また「パワーショベル」はコマツのかつての商品名だが、今では通称として使うことができる。ほかには英語由来の「バックホー」という呼び方もあるが、ここではショベルカーとする。

トイレ・浴室小屋の基礎工事を手伝ってくれた製材所のショベルカー。硬い地面をいとも簡単に掘ってくれた
しんどい作業はこれだけでは終わらない。給水と排水の配管にも難儀した。配管を埋めるために、敷地内をおよそ20メートルにわたって深さ30~50センチで掘らなくてはいけなかった。その後も畑の開墾や庭の土盛りと整地、100キロを超えるような大きな石や丸太の移動など、体力まかせでどうにかこうにかこなしてきたが、移住して3年目の夏、ついにずっと欲しかったショベルカーを手に入れた。
それまでの仕事を思えば、本当はもっと早く欲しかった。でも、なかなか手が出なかった。安い買い物ではなかったからだ。大きさや年式、程度にもよるが、中古でも安心して使えるものを買おうと思ったら100万円近くはする。年式が古いポンコツでも50万円はくだらない。ネットオークションもチェックしていたのだが、ポチッとしたくなるようなものには、なかなか出会えなかった。そんなとき、普段車でよく通る道端で、掘り出し物を見つけたのだ。
安価な中古に多少のリスクはつきもの
そこはちょっとした空き地になっていて、いつもトラクターや管理機、草刈り機などの農業機械が5~6台ほど野ざらしで置かれている。それらはどうも売り物らしいのだが、店という感じではなく値札もついていない。ただ、空き地の隅に「農機・建機買取り・修理 御用の方は090-xxxx-xxxxまで」という手書きの看板が立っているだけだ。

売り物として道端に置かれたショベルカー。連絡先が書かれているがちょっと怪しい。どういう人が買うのかと不思議に思っていたが、私のような人だった
あるとき、そこに1台の黄色いショベルカーが置かれていた。それが気になって看板の連絡先に電話をすると、何回か呼び出し音が鳴ったあとに年配の男性が出た。
「道端にあるショベルカー、あれ売り物ですよね。ちょっと興味があるんですけど」
「はいはい、あれね。30万円。5分くらいで行くからちょっと待っててね」
電話が切れて間もなく、軽トラに乗った60代くらいのおじさんがやってきた。その間にも私は、値段を聞いて「買いかも!」と思っていた。
「ちょっとエンジンをかけて動かしてくれませんか?」
「はいよ。こいつは古いけど、調子はいいからね」と、おじさんは自信たっぷりに言い、外してあったバッテリーをつないでセルを回した。
ヒュンヒュンヒュンヒュン、ヒュンヒュンヒュンヒュンと、何度かセルが空回りしたあと、ブロロロンとエンジンに火が入った。おじさんは器用にアームを動かしたり、前進・後進・旋回などをしたりして、軽くデモンストレーションしてくれた。ざっと見たところ、ひどくオイルがにじんでいる箇所もなかったし、古いなりにくたびれてはいるが、調子が悪くなったら直せばいい。多少のリスクはあるが、それを考えても30万円はお買い得だ。私は、このショベルカーを買うことに決めた。

手に入れたショベルカー、コマツのPC05-5。再塗装されているため一見するときれいだが、ベリーオールドモデルだ
田舎暮らしや農作業に適した1~3トンクラス
私が入手したのは、コマツの「PC05-5」というモデルだ。年式は不明だが、取扱説明書の発行年は1985年となっている。
ショベルカーには、鉱山で使われる超大型のものから、車幅が60センチに満たない、まるでおもちゃのようなミニモデルまであり、その大きさや能力は車体の重さによって区別される。
私のような田舎暮らしでの土地の開拓や小屋のセルフビルド、農作業などに使う場合は、重量1~3トンの小型モデルが適している。穴を掘る、整地する、重いものを持ち上げるといった作業に十分な能力があり、狭い場所での取り回しもしやすい。なお、一般には6トン未満のモデルをミニショベルというが、3トンを超えると中型トラックくらいの大きさがあり、一見してデカい。普通に工事現場で使われているクラスだ。

家屋を解体する13トンクラスのショベルカー。バケットにはものをはさんでつかめるグラップルがついている
ショベルカーの作業性は、アームの先端についているバケット(土をすくうパーツ)の容量にも左右される。バケットが大きいほど一度にたくさんの土をすくえるため作業効率はよいのだが、容量が大きくなるとその分パワーが必要となり、車体も大型化する。3トン以下のミニショベルの場合、バケット容量は0.01~0.08立方メートル程度。例えば0.08立方メートルなら「コンマ8」と呼ぶ。

PC05-5のバケットは、ひとすくいで一輪車一杯分の土がすくえる
ショベルカーでできること
私が入手したPC05-5は1トンクラス(重量1.1トン)で、バケット容量はコンマ6(0.06立方メートル)。土木作業で使われる一輪車1杯分くらいの容量だ。わが家の庭や畑の作業には必要十分なジャストサイズ。ちょっとパワーが足りないと感じることがあるとすれば、竹や木の根を掘り上げるときだ。木の根っこというのは、想像以上に深く広く伸びてがっちりと土をつかんでいる。バケットで切り株を引っかけ、無理に引っこ抜こうとしてもびくともしない。かえってショベルカーのほうが持ち上がってしまい、ひっくり返りそうになる。こういうときは、とにかく周りを掘って根を切ってからでないと持ち上がらない。
ショベルカーでできることは穴掘りだけではない。クローラー(※)の前方についているブレード(排土板)を使っての整地や土砂の移動、丸太や石など重量物の移動や積み込み、建築物の解体、杭打ち、除雪など──人力ではどうにもならないことを軽々とやってのける。
※ ショベルカーの足となる走行用ベルト。なお一般的に使われている「キャタピラー」の名称はアメリカの企業の商標。

地面を平らにならすのは意外と難しい。前進と後進(後退)を繰り返しながら土を移動し、踏み固めていく
これらの作業は、私有地において私用で行う場合には特に資格や免許は必要ない。操作は、それぞれ左右のクローラーに連動した走行レバーと、アームをコントロールする2つの操作レバーで行う。その操縦は、昭和40年代生まれのおじさん(私のこと)が子どものころに見たテレビアニメのロボットのコントロール装置のようで、動かしているだけで楽しい。

子どもにしたら操縦席に座ってレバーをガチャガチャと動かしているだけでも楽しい
わが家にショベルカーが来てから、開拓はぐんぐん進むようになった。
土盛りしてでこぼこだった庭を整地し、そこに丸太で家を建てた。庭には敷石を配置し、たくさんの庭木を植えた。池も作った。敷地に隣接する放置竹林を地主に借りて開墾し、畑に変えた。
どれもショベルカーがなかったら簡単にはできなかったことだ。いや、むしろショベルカーがあるから、いろいろなことをやりたくなってしまうのだ。
私の田舎暮らしになくてはならない道具はいくつかあるけれど、そのひとつとしてショベルカーは外せない。




















