公式SNS

マイナビ農業TOP > 農業経営 > 農業課題は「伸びしろ」。元プログラマーが仕掛ける、廃棄資源を徹底活用した小さな農家のSDGs

農業課題は「伸びしろ」。元プログラマーが仕掛ける、廃棄資源を徹底活用した小さな農家のSDGs

湯川真理子

ライター:

農業課題は「伸びしろ」。元プログラマーが仕掛ける、廃棄資源を徹底活用した小さな農家のSDGs

大阪府のイチジクの生産量は全国第3位(2022年時点)である。大阪府の中でも羽曳野(はびきの)市は特にイチジク栽培が盛んな地域で、加えて山の傾斜地ではブドウやそのブドウを生かしたワインが特産品だ。2020年に新規就農したハッピーファームの吉川幸一郎(よしかわ・こういちろう)さんは、畑から出たものを栽培に活用する独自のSDGsを実践している。畑から出たものを資源として有効活用するためにブドウの剪定後に廃棄されていた枝とワインの製造工程で発生したブドウの搾りかすから堆肥を作り、イチジク畑に活用している。古川さんが目指す新しいSDGsへの思いを聞いた。
※画像は2025年の野菜ソムリエサミットにて最高金賞を受賞した「ぶどうを肥料にした しあわせ無花果」

twitter twitter twitter twitter
URLをコピー

農業のネガティブ要素、裏を返せば参入のチャンス!将来性を感じて新規就農

「ハッピーファーム」の吉川幸一郎(よしかわ・こういちろう)さん(5月末のイチジク畑)

2025年9月、農産品のさらなる価値向上を目指す青果物の品評会である野菜ソムリエサミットでハッピーファームの「ぶどうを肥料にした しあわせ無花果(いちじく)」が最高金賞を受賞した。破棄処分されてしまうブドウの枝とワインの搾りカスを堆肥として生まれ変わらせ、その堆肥を使って育てたイチジクだ。
「手間はずい分かかりますが、有機物たっぷりの堆肥は養分になるだけでなく、樹を乾燥から守り微生物たちのエサとなり土を豊かにしてくれます」と吉川さんは話す。

朝採り完熟で出荷される“しあわせ無花果”(商標登録)

羽曳野市は平地でイチジク、山沿いでブドウが栽培されているが、農家同士の交流こそあれ、ブドウの枝を堆肥にしてイチジク畑にまくという発想は今まで耳にしたことがなかった。羽曳野市では剪定後のブドウの枝が大量に出るが、今までは廃棄物として燃やされていた。ブドウの枝やブドウの搾りかすを集めて堆肥にするまでには時間も労力もいる。それを新規就農者である吉川さんが実行し、小さな畑から地域に根差した循環型農業を発信している。

7月中旬のイチジク畑

吉川さんの前職はプログラマーである。非農家出身の吉川さんが、農家になろうと決意したきっかけになったのはプログラマー時代に企業の業界調査をしたときだった。

「企業の業界調査をしてみると大きな企業ほどなにかしら農業に参入していました。その一方で高齢化、担い手不足、耕作放棄地問題など様々な課題があることを知りました。それは裏返せば参入するチャンス、課題があるということは伸びしろがあるはずだと思いました。農業には将来性があると感じたら、ワクワクしてきました」と吉川さんは当時を振り返る。

農家に興味を持った吉川さんはプログラマーをしながら休日を利用して大阪市内にある体験農園に通い始めたそうだ。農業に興味があると園主に言うと、園主は機械の使い方やトラクターの操作の仕方、草刈りなどのさまざまな体験をさせてくれたそうだ。吉川さんは体験農園での経験を機に、独立することを目標に据えて2018年にIT関連の会社を退職。大阪府農業大学校へ進み、卒業後の2020年に羽曳野市にある30アールの畑を借りてイチジク農家としてのスタートを切った。

羽曳野市はイチジクに加え、ブドウの栽培も盛んな地域であるが、兼業農家の多いイチジク農家に比べ、ブドウ農家は専業農家がほとんどである。そんな環境の中でイチジクを選んだ理由は何だったのか。

「ブドウは棚の高さを自分の身長に合わせると、家族の身長差があるので難しいので、身長差をあまり気にせずできるイチジクを選びました。あと、イチジクは鮮度が重要な果物なので、逆手にとれば愛知のような大きな産地と別の戦い方ができるのではないかと思いました」

羽曳野市から大阪の中心地までは車で1時間足らず、朝どり完熟のイチジクはその日のうちに消費者に届く。都市近郊型農業ならではの強みを活かすことができるはずだ。イチジクの収穫を真夜中の1時に開始し、直売所にパック詰めを終えた第一弾を並べ、朝早くから直売所をオープンしている。お客さんは収穫したばかりの完熟のイチジクを目当てに朝早くからやってくる。嬉しい忙しさではあるが、直売所に並べた途端、瞬く間に売り切れてしまうため、並べてはパック詰め作業というピストン作業が続く。

肥料の原料は羽曳野産!畑から畑へ戻す小さな農家のSDGs

羽曳野でイチジク農家になる前から吉川さんはブドウ農家が剪定した枝を大量に焼いているのを見て「もったいないなあ、なにかに生かせないかなあ」と漠然と思っていたそうだ。

「羽曳野にはワイナリーもあるので、ワインの搾りカスも一緒に発酵させて堆肥にしています。羽曳野の中で循環でき、畑から生まれたものを資源として生かせるので、うちのイチジクを広く知ってもらうことで、羽曳野のブドウやワインのPRにも繋がると思っています」

さらりと言うが、堆肥の材料を集めるのも発酵させて堆肥にするのも一苦労。まして農作業の合間をぬってしなければならないためかなりの負担になる。

毎年大量に破棄されているブドウの剪定枝

オリジナル堆肥

ワインの搾りカスが大量に出るのはイチジクが最盛期を迎える8月のため、忙しさに輪をかける。搾りカスを引き取って持ち帰るのは、水分も多く含まれているのでかなりの重労働だそうだ。12月から1月にかけてはブドウの剪定の枝を引き取りに行く。ブドウ畑へ行く狭い道を軽トラで何度も往復し、その作業は約1週間かかるという。そして、3月、4月にこれらを粉砕し、発酵させて堆肥にする作業も自分で行っている。これらを完熟発酵するまでにはかなりの時間がかかるので、半熟発酵で畑に蒔く。地元の廃棄資源を肥料に活用した“しあわせ無花果”は商標登録しており、その取り組みに共感してくれるファンが多くつき、人気を集めている。

さらに、地域の課題であった毎年大量に廃棄処分されているイチジクの枝は炭にしてサツマイモ畑の土壌改良剤として再利用している。

処分に困っていた剪定後のイチジクの枝(通常は焼却処分される)

イチジクの枝から生まれたバイオ炭(木炭)

「この取り組みをもっと多くの方に知ってもらい、日本中に循環の取り組みを広げていきたい」と吉川さんは語る。

手の届く範囲で手の届く人を幸せに

ハッピーファームは110アールの畑でイチジクをはじめ、サツマイモ、少数多品目の野菜を栽培している。イチジクの品種は、しあわせ無花果(桝井ドーフィン)のほか、黒いちじくのビオレソリエス、白いちじくのブルジャソットグリースを栽培。他にも珍しいイチジクの品種を数種類、試験栽培中である。

黒いちじく(ビオレソリエス)

白いちじく(ブルジャソットグリース)

販売先は、無人の直売所、民間の直売所への出荷、マルシェへの出店と通販である。通販のイチジクは採れたその日にクール便で発送している。加工品もいろいろ作っており、4種類のジャムやドライイチジクは固定ファンがついているそうだ。

今後の目標を聞くと、吉川さんは力強くこう語った。
「栽培面積を増やしていくのではなく、手の届く範囲で手の届く人たちを幸せにしていきたいと思っています。そのひとつとして羽曳野市の子どもたちに、いちじくを寄贈する取り組みをしています。羽曳野で暮らす子ども達に自分たちの住んでいる場所の特産品であるイチジクのおいしさを知ってもらいたい。大人になってまた食べたいと言ってもらいたいんです」

吉川さんの奥さんはホームページで「毎日いちじく」と題して100種類くらいのイチジクを使ったレシピを出している。その中で吉川さんが一番好きなイチジクの料理は、イチジクとバナナのスムージーだそうだ。

バナナとイチジクのスムージー

農園名に「ハッピーファーム」に込められた“おいしいものを栽培してお客さんにも喜んでもらいたい”という思いは吉川さんの農業に対する姿勢そのものである。

シェアする

  • twitter
  • facebook
  • LINE
  • Hatena
  • URLをコピー

関連記事

新着記事

タイアップ企画