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農福連携と法定雇用率の達成を実現する「特例子会社」とは。障がい者雇用とビジネスの両立は可能か

農福連携と法定雇用率の達成を実現する「特例子会社」とは。障がい者雇用とビジネスの両立は可能か

近年、農業分野において「農福連携」という言葉が注目を集めています。障がい者の就労機会を確保しながら農業現場の担い手不足や耕作放棄地の解消などにつなげる取り組みで、この農福連携を企業単位で組織的に展開する手法として「特例子会社」の活用が広がっています。
障害者の法定雇用率の引き上げが段階的に進む中、2026年7月には従業員37.5人以上の民間企業に対して2.7%の雇用義務が課される予定です。雇用目標の達成と維持に向け、多くの企業が職域開拓を模索する中、本記事では特例子会社の仕組みや事業としての現状を整理した上で、SCSKグループの特例子会社である東京グリーンシステムズ株式会社の歩みから、農業関連事業のリアルな実態をひも解いていきます。

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特例子会社とは。障がい者雇用の現状


特例子会社とは、「障害者の雇用の促進等に関する法律(障害者雇用促進法)」に基づき、事業主が障がい者の雇用に特別な配慮を行った子会社を指します。一定の要件を満たし、厚生労働大臣の認可を受けることで、その子会社で雇用されている障がい者を親会社、さらにはグループ全体の雇用実績としてカウントできる仕組みです。

通常の事業所において、通常業務を抱える社員が指導にあたりながら障がい者に適した職域を確保したり、職場環境を整えたりするのは、時間やコストの面で課題が生じがちです。こうした障壁をクリアし、専門的な支援体制のもとで安定的な就労環境を整えるために、特例子会社の設立が進んできました。厚生労働省のデータによると、国内の特例子会社数は2024年6月時点で614社に達しています。

特例子会社が担う農業関連業務の具体像


特例子会社が取り組む業務領域は、オフィスビルや敷地内の清掃、各種事務補助、廃棄物の分別など多岐にわたりますが、近年は「農業」を職域に選択する企業も増加傾向にあります。厚生労働省によると、2023年時点で全国598社の特例子会社のうち、少なくとも60社が農業分野を事業に組み込んでいることが確認されています。

特例子会社における農業事業の形態は、主に自社で圃場(ほじょう)を保有または借用して野菜や果物を自主生産・販売するケースや、人手不足に悩む地域の農家や農業法人から局所的な作業(播種、定植、除草、収穫、調製など)を受託するケースに大別されます。近年では、高単価での取引が期待できるハーブやイチゴ、あるいは胡蝶蘭といった品目を施設園芸で栽培する事例も多くなっています。

障がい者雇用×農業関連事業のリアル

1997年設立の東京グリーンシステムズ株式会社(略称tgs)は、 IT大手のSCSK株式会社を親会社とするSCSKグループの特例子会社です。同社に加え、東京都や多摩市も株主に名を連ねる第三セクターの特例子会社という特徴を持ち、地域に根ざした雇用創出を長年にわたって追求してきました。

2010年に農業に特化した部門を立ち上げた同社の歩みは、福祉とビジネスの両立を目指す農福連携の好例と言えます。
2007年から会社敷地内の小さな畑やハーブ園を活用し、障がいのあるスタッフに「日光を浴びながら軽作業をしてもらう」という福祉的な目的で手がけていたのが事業の始まり。転機となったのは、当時の社長による「農作物であれば、商品ができた時に一般に向けて販売もできる。質の高い野菜を作れれば、立派な職域になるのではないか」という経営判断でした。

年間を通じて野菜を出荷するためには一定の規模で生産を行う必要があるため、都市化の進む多摩地域では中々候補となる畑がなく、神奈川県相模原市へ展開することを選択。しかし、最初から順調に農地を借りられたわけではありませんでした。

同社アグリ・フードサービス部の西潟大策部長は、当時をこう振り返ります。
「最初は約16年間使われていなかった木や雑草が生い茂る耕作放棄地からスタートしました。地元のご高齢の地権者2名の方から借り受けた計2.4反(24アール)の畑へ毎日地道に通って作業に励む姿を見て、周囲の地権者の方々も徐々に『うちの畑も使ってほしい』と声をかけてくださるようになりました」

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取材に応じてくれた、取締役 サービス事業部長の大河原淳さん(左)と西潟さん(右)

地域住民の方々の理解や協力も得ながら、4年目以降に農地が大きく広がり、現在では28名の地権者から75筆、計約5町歩(5ヘクタール)に及ぶ畑を任されるまでに拡大。29名(うち障がい者21名/2026年4月時点)のメンバーが、トマトやにんじん、キャベツなど20品目以上の野菜を生産しており、収穫した作物は近隣スーパーや同社が運営する直売所、地域イベントなどで販売しています。

農業現場で働きやすさをどう作る?

工業製品の製造などと異なり、天候や環境によって日々状況が変わる農業現場において、どのように就労環境を整えて従業員の能力を最大限に引き出しているのでしょうか。その裏側には、これまでの教訓とメンバーの特性を生かした業務設計とマネジメントがありました。

実習によるミスマッチの防止

採用に先立ち、同社では原則2週間の実習期間を設けています。清掃などのオフィス周辺業務と違い、多くの求職者にとって農業は馴染みが薄い職域。「のどかで穏やかなイメージ」だけで入社してしまい、実際の暑さや寒さ、泥はねや虫などを嫌って早期退職に至るといったミスマッチを防ぐ目的があります。

西潟さんは、2週間という期間設定の意図を次のように説明します。「1週間程度の実習では、実習生はどうしても気を張って頑張りすぎてしまいます。土日に一度リフレッシュを挟んだ後、翌週の月曜日に疲れを抱えた状態でも継続して通えるかどうか。この疲れの出方や回復の度合いを見極め、長く働き続けられるかを判断するために、この期間を基本としています」

障がい特性に応じたチーム編成と見直し

アグリ事業を担う部門では一律に作業を割り振るのではなく、スタッフの障がい種別に応じて3つのチームに分類し、アサインしています。
西潟さんは「体力があり、同じ作業を続けるのが得意な人は“体力勝負の生産チーム”へアサインします。体力はそれほどないものの、手を早く動かし時間に追われても業務を淡々とこなせる方は“野菜の洗いや計量、袋詰めを行う調製チーム”へ配置。指示理解力が高く、手先が器用という方は“人気商品のトマトやイチゴを栽培する温室チーム”で黙々と緻密な作業をしてもらっています」と説明します。

配属後も3カ月や1年の節目で、本人の希望や現場の状況を確認し、適性に合わせてチームを入れ替えることで適材適所の働き方を実現しています。

作付け計画の工夫

作業の平準化を図るため、栽培品目の選定にも工夫を凝らしています。
栽培品目は秋冬野菜をメインに据えている同社。その理由について西潟さんは「春先の作物は数週間単位で品種が切り替わるため、障がいのあるスタッフが作業を覚えて習得した頃には次の作業へ移ることになり、なかなか習熟度が上がらない傾向がありました」と話します。

そこで2月〜3月まで長く収穫を続けられる秋冬作物を計画の中心に据え、通年栽培をルーティン化しやすくしています。
栽培面積は常に約5町歩(5ヘクタール)を維持。広い面積で十分な収穫量を確保することで、「にんじんの調製に集中する」「さつまいもの選別だけを行う」といった作業の平準化が可能となり、技術習得のハードルが下がると言います。

農業がもたらす身体的・精神的な好影響

農業の屋外作業は、健康改善の面でも副次的な効果をもたらしていると、西潟さんは語ります。
「精神障がいを持つ従業員の中には、不眠や睡眠リズムの乱れに苦しんでいる方が少なくありません。太陽の下で土に触れ、身体を動かして帰宅する規則正しい生活を継続することで、『睡眠の質が改善し、睡眠薬が不要になった』『適度な発汗と水分補給によって体調が良くなった』という声がいくつも上がっています」

福祉的配慮とビジネスとの両立

大河原さんは特例子会社の経営について、一般企業のように単独採算での自立は難しいのが実情であると話します。「それでも、tgsでは親会社およびグループ全体の協力も得ながら、オフィスサービス事業、メンテナンス事業、ショップ事業、ギフト事業、フード事業、そして今回のアグリ事業(農業)を起点としたさまざまな職域を創出するなどして、グループ全体の価値向上に寄与しています」

定例報告による相互理解

特例子会社を経営面で支えているのが、特例認定を受けているグループ会社からの「雇用促進金」という制度的なサポートです。同社はSCSKの主幹部門に対して、毎月一回の「定期事業報告」を欠かさず行っており、事業進捗や採用の状況、資金繰りといった経営指標を細かく共有することで、グループ各社からの高い理解と協力を得ていると言います。

農業を起点とした職域の拡大

生産現場から生まれるのは、規格を満たした生鮮野菜だけではありません。B・C級の規格外品はただ廃棄するのではなく、加工品として販売するほか、規格外のイチゴは直営店舗などで販売しています。

一般の方も利用できるレストランでは、自社産野菜を使ったメニューを提供している

さらに、野菜の梱包・発送業務やイベントでの物販業務などをアグリ部門だけで抱え込まず、他部署チームへ切り出すことで、アグリ事業を起点とした「横の職域拡大」という好循環を定着させてきました。

エンゲージメント向上への貢献

親会社の健康経営推進においても、同社のアグリ事業は一役買っています。SCSKグループが取り組む健康増進活動の一環として、tgsが生産した野菜や野菜を原料にした加工品、ハーブティーなどのギフトセットが社員やその家族向けの福利厚生に活用されているほか、相模原の圃場にSCSKの従業員家族を招いた「収穫体験イベント」も開催されています。毎年「丘の上の収穫祭 in SCSK多摩センター」を開催するなど、地域とのつながりの創出のほか、グループ会社のエンゲージメント向上や広報的役割も果たしています。

ITとアナログの共存へ

今後の展望について西潟さんは「ブランド化」と「スマート農業の活用」という二つの柱を掲げます。
栽培管理が難しいイチゴや高糖度トマトなどにおいては、スタッフの「決められた作業を愚直にやり遂げる高い管理能力」を生かし、「並んででも買いたいと思われるレベル」のブランド化と、より多くの固定ファン獲得を目指しています。

同時に、親会社らのITの知見を活用した「スマート農業」の導入検討も進めています。これまで自動除草ロボットの稼働テストや、AIを用いた天候予測・データ管理の連携が検討されてきました。西潟さんは、ここで大切なのは「技術と雇用の適切なバランス」であると話します。

「効率化や省力化を過剰に追求し、結果として従業員の仕事そのものを奪ってしまっては本末転倒。特例子会社における農業の価値とは、あくまで人が介在し、よりよく働ける環境を作ること。人の手の温もりを残すべき作業と、最先端の技術で負担を軽減すべきところの見極めが重要です」

作物を育てるという仕事の醍醐味は、自分で作ったものの成果を口にし、瞬時に「美味しくできた」と実感できることにあると西潟さんは話します。「何年か先になって『ああ、あの仕事よかったな』と感じる仕事はあっても、収穫したものを口に入れた瞬間に『美味しくできた』と瞬時に判断できる仕事はそう多くないと思います。一生懸命やった成果がすぐに味わえる楽しみが農業にはあります」

こうした直接的な達成感や、他者から「美味しい」と言ってもらえる評価こそが、障がいのあるスタッフの自己肯定感を高め、長く安定して働き続ける原動力となっています。

tgsの農福連携への取り組みは、単なる法定雇用率のクリアに留まらず、企業の社会的責任とビジネスとしての可能性、そして働く人々の生きがいを調和させるためのモデルケースと言えるでしょう。

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