ヘアリーベッチとは? 緑肥として利用される理由

ヘアリーベッチ
ヘアリーベッチ(Vicia villosa)は、マメ科ソラマメ属に分類される一年生または越年生のつる性植物である。ヨーロッパから西アジアを原産とし、現在では北米やアジアをはじめ世界各地で栽培されている。日本でも古くから牧草や緑肥として利用されており、近年では環境に配慮した持続的な農業を支える作物として、再び注目を集めている。
筆者らは無農薬かつ化学肥料を使用しない方法で果樹や野菜を育てており、もちろん除草剤なども使用していない。そのため、圃場の雑草管理はかなり工夫しており、草刈りの方法やタイミングだけではなく、ヘアリーベッチのような植物も活用している。

マンゴー園地の地表にはヘアリーベッチを植えている
ヘアリーベッチのメリットとしては、主に下記が挙げられる。
・他の雑草を抑えてくれる。
・根粒菌と共生し、空気中の窒素を固定できる。
・化学肥料の使用量を減らせる可能性がある。
・大量の有機物を供給し、土づくりに役立つ。
・土壌微生物の活動を活発にし、団粒構造の形成を促す。
・雨による土壌流亡を防げる。
・地表の乾燥を防ぎ、土壌水分を維持しやすくなる。
・高温になると自然に枯れて枯れ草マルチとなる。
・ミツバチなどの訪花昆虫の蜜源植物としても利用できる。
このようにヘアリーベッチには多くの利点があるが、花も赤紫色でとても綺麗であり、園地にヘアリーベッチの花が咲いていると、気分も良くなる。このような多面的な働きから、近年では果樹園や畑だけでなく、有機栽培や環境保全型農業においても重要な作物として利用されている。

花もとても綺麗
ヘアリーベッチが土を肥やす仕組み
ヘアリーベッチが緑肥として高く評価される最大の理由は、土壌へ有機物を供給するだけでなく、空気中の窒素を作物が利用できる形で畑へ取り込める点にある。
植物の生育には窒素が欠かせない。窒素は葉や茎を作るタンパク質、光合成に関わるクロロフィル、遺伝情報を担うDNAなどの構成成分であり、作物の成長を左右する重要な養分である。しかし、大気中には大量の窒素ガス(N₂)が存在しているにもかかわらず、多くの植物はそのままでは利用できない。
そこで重要になるのが、マメ科植物と根粒菌の共生である。ヘアリーベッチはマメ科植物であり、根に根粒と呼ばれる小さなこぶ状の器官を形成する。この根粒の中には根粒菌が共生しており、大気中の窒素ガスをアンモニアなど植物が利用できる形へ変換し、窒素固定を行う。
根粒菌による窒素固定とは?
根粒菌は、マメ科植物の根に共生し、根粒を作って窒素を固定する。ヘアリーベッチも同様に光合成によって作った糖を根粒菌へ供給し、根粒菌はそのエネルギーを使って大気中の窒素を固定する。この仕組みがあるため、ヘアリーベッチは肥料を多く与えなくても多くの草に負けずによく生育する。
どれくらいの窒素を供給できる?
ヘアリーベッチは実際にどれくらいの窒素を畑へ供給できるのだろうか。
Ashworthら(2017)は、ヘアリーベッチの地上部に固定される窒素量について、過去の研究では25~190kg N/ha程度と報告されていると整理している。これは10aあたりに換算すると、およそ2.5~19kgの窒素に相当する[1]。
Poffenbargerら(2015)は、ヘアリーベッチとライ麦の混播試験において、被覆作物の地上部に蓄積された窒素量は64~181kg N/haであり、ヘアリーベッチの割合が高くなるほど窒素含量が増加したと報告している[2]。
これらの数字から分かるように、ヘアリーベッチは土壌中の窒素を吸い上げているだけではなく、かなりの割合の窒素を空気中から新たに取り込み、植物体内へ蓄積し、その植物体が分解されることで土壌へ供給されるのである。10aあたり数kgから十数kg規模の窒素を畑の中で作れるということは、非常に大きな意味を持つ。肥料価格が高騰する現在、使い方によって、ヘアリーベッチは、肥料の使用量を減らせる可能性も十分にある。
土壌改良効果
マメ科のヘアリーベッチは、窒素を供給する植物として知られているが、その価値は肥料効果だけではない。暖地では初夏から夏にかけて自然に枯死し、地表面を覆う草マルチとして利用することも、土へすき込んで緑肥として利用することもできる。大量の有機物を土へ還元することで、土壌微生物の活動を活発にし、土壌の物理性や生物性の改善にも貢献する。
C/N比が低く分解が速い

柔らかい葉
植物は土へすき込まれると、細菌や糸状菌などの土壌微生物によって分解される。このとき、分解速度を大きく左右する指標が「C/N比(炭素窒素比)」である。
C/N比とは、植物体に含まれる炭素(Carbon)と窒素(Nitrogen)の割合を示したものであり、一般にC/N比が低いほど分解が速く、高いほど分解に時間がかかることが知られている。
ヘアリーベッチは植物体中の窒素含量が高く、C/N比が約10~15と比較的低い緑肥である。一方、イネわらのC/N比は60~80程度、木材チップでは100を超えることもあり、土壌中で分解されるまで長い時間を要する。Poffenbargerら(2015)の研究でも、ヘアリーベッチ単播の植物体はライ麦と比較してC/N比が低く、窒素含量が高いことが報告されている[2]。
このようにC/N比が低いヘアリーベッチは、土壌へすき込まれた後、比較的短期間で分解が進み、植物が利用できる無機態窒素を放出しやすい。そのため、「速効性のある緑肥」として利用されることが多い。
土壌微生物と団粒構造
ヘアリーベッチが土づくりに役立つもう一つの理由は、土壌微生物の活動を活発にすることである。植物残渣は、細菌や糸状菌、放線菌など土壌微生物の重要なエネルギー源となる。ヘアリーベッチをすき込むことで有機物が供給されると、これらの微生物が活発に活動し、植物残渣を分解しながら養分を循環させる。土壌微生物の中には、多糖類(EPS:細胞外高分子物質)や菌糸を分泌・形成するものが存在する。これらは土粒子同士を接着する「のり」のような役割を果たし、小さな土粒子を結び付けて団粒構造を形成することが知られている。
団粒構造が発達した土壌では、主に下記のメリットが得られる。
・排水性が良くなる
・保水性が向上する
・通気性が改善される
・根が深くまで伸びやすくなる
もちろん、ヘアリーベッチのみが団粒構造を劇的に形成するわけではないが、有機物を継続的に供給することで土壌微生物の活動を支え、団粒構造の形成を促す環境づくりに貢献すると考えられている。
ヘアリーベッチはなぜ雑草を抑える?

ヘアリーベッチは群をなして周囲にも広がっていく
ヘアリーベッチは、緑肥としてだけではなく、雑草を抑える植物としても広く利用されている。実際に筆者の果樹園でも、秋に播種したヘアリーベッチは春になると地面を覆うように繁茂し、裸地と比べて雑草の発生が少ないと感じている。
シアナミドというアレロパシー物質
植物の中には、自ら化学物質を放出し、周囲の植物の生育を抑えるものがある。この現象を「アレロパシー」という。ヘアリーベッチは古くからアレロパシーを持つ植物として知られていたが、2003年、Kamoらはヘアリーベッチから「シアナミド(Cyanamide)」という植物の発芽や根の伸長を抑制する作用を持つ化合物を世界で初めて単離した[3]。この発見によって、ヘアリーベッチが雑草を抑える理由はシアナミドによるアレロパシーであると考えられるようになった。
生育旺盛で、他の雑草を抑える!
ヘアリーベッチが、シアナミドによるアレロパシー効果でその他雑草の勢いを抑制していることもあるが、筆者の経験では、ヘアリーベッチの勢いが強く、その他雑草を抑えているとも思える。ヘアリーベッチはかなり旺盛に育ち、園地の多くを覆ってしまう。雑草の多くは発芽や初期生育の段階で光を必要とするため、ヘアリーベッチの遮光、日陰効果によって発芽や生育が抑えられると考えられる。
ヘアリーベッチの育て方
ヘアリーベッチは比較的育てやすい植物であり、家庭菜園から果樹園まで幅広く利用できる。しかし、緑肥として十分な効果を得るためには、播種時期やすき込みのタイミングを理解することが重要である。
播種時期

ヘアリーベッチのタネ
ヘアリーベッチは沖縄県でも十分生育するものの、本来は冷涼な気候を好むマメ科植物とされている。暖地では9~11月頃、寒冷地では春または初秋が播種適期とされている。日本では多くの場合、秋に播種して冬の間にゆっくりと生育する作型が一般的である。
秋に播種する理由は、冬の低温期でも少しずつ生育を続け、春になると急速に茎葉を伸ばして大量の有機物を生産できるためである。一方、暖地では夏の高温を苦手とし、開花・結実後の初夏から夏にかけて自然に枯死する。この枯れた植物体は微生物によって分解され、有機物として土へ還元される。
播種方法
筆者らは、播種前に雑草を刈り取り、全体的に軽く耕うんしている。その後、種子を全面へばらまくと、発芽が安定する。乾燥がかなり続く場合は灌水すると発芽率が向上すると思うが、雨が降るタイミングに合わせて播種すると、発芽がかなり安定する。生育初期は比較的ゆっくりであるが、春になると急激につるを伸ばし、地面を覆うように繁茂する。
すき込み時期
緑肥として利用する場合は、開花初期頃ですき込むのが最もおすすめである。この時期は植物体が十分に大きくなり、窒素も多く蓄積されている一方で、茎がまだ柔らかく、分解されやすい状態にある。草丈が高くなった場合は、先に草刈機で細断してから耕うんすると作業しやすい。
開花後そのまま放置すると種子が成熟し、自然にこぼれ種で翌年も発生することがある。翌年の発生を望まない場合は、花が咲く前にすき込むようにしたい。
まとめ
ヘアリーベッチは、マメ科植物ならではの高い窒素固定能力を持ち、土壌へ有機物を供給する代表的な緑肥作物である。また、雑草抑制についても、シアナミドによるアレロパシーだけでなく、地面を覆うことによる遮光効果が大きく関与しており、筆者らのような農薬・化学肥料を使わない園地では、とても使い勝手の良いものだと感じる。近年は堆肥や肥料価格の高騰や環境負荷の低減など、農業を取り巻く環境が大きく変化している。そのような中で、ヘアリーベッチのような選択肢は、もっと注目されて良いものだと感じる。農業にはさまざまな方法があるが、ヘアリーベッチのような緑肥を活用する選択肢も、ぜひ多くの方に知っていただきたい。
参考文献
[1]Ashworth AJ, Allen FL, Tyler DD, et al. (2017). N₂ Fixation of Common and Hairy Vetches when Intercropped with Switchgrass. Agronomy, 7(2), 39.
[2]Poffenbarger HJ, Mirsky SB, Weil RR, Maul JE, Kramer M, Spargo JT, Cavigelli MA. (2015).Biomass and Nitrogen Content of Hairy Vetch–Cereal Rye Cover Crop Mixtures as Influenced by Species Proportions. Agronomy Journal, 107(6), 2069–2082.
[3]Kamo T., Hiradate S., Fujii Y. (2003). First Isolation of Natural Cyanamide as a Possible Allelochemical from Hairy Vetch (Vicia villosa). Journal of Chemical Ecology, 29, 275–283.
















