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なぜ農総研は人材事業に挑むのか 現場で見えた「担い手不足」の本当の理由

なぜ農総研は人材事業に挑むのか 現場で見えた「担い手不足」の本当の理由

農産物を都市部の小売店へ届ける産直流通のリーディングカンパニー、農業総合研究所。その子会社として誕生したのは、農産業特化の人材サービス「やさいジョブ」だ。なぜ流通企業が人材領域に参入したのか。背景には、現場で直面してきた“ある違和感”があった。代表取締役社長の肥田祐希(ひだ・ゆき)さんに、農業の人材課題の本質と可能性を聞いた。

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農業界を志す人は意外と多い

人材系企業でキャリアをスタートし、農業総合研究所(以下、農総研)での経験を経て「やさいジョブ」を立ち上げた肥田さん。農業界に関心を持った転機は、スタッフとして関わった農業関連のイベントだ。
「農業界の高齢化や人手不足が問題視されるなかで、若い方も大勢参加していたことに驚きました。一方で、『どのような基準で就職先を選べばいいのかが分からない』という来場者の声も聞きました。農業界を志す人がいないのではなく、仕事の選び方が分からないのだと気付き、農業の世界へ踏み出すきっかけになりました」

「やさいジョブ」代表取締役社長の肥田祐希さん

農総研に転職してまず感じたのは、農業界特有の慣習や、生産者とのコミュニケーションにおけるギャップだったという。
「メールではなく電話連絡が中心だったり、口頭での口約束や長年の信頼関係に基づく取引が主流である点などいわゆるビジネスコミュニケーションの当たり前が通用しない場面が多く、最初は戸惑いました」
人材採用に対する認識にも違いもあった。
「生産者や流通企業、小売の現場でも『人が足りない』という声は多く聞くのですが、求める人材像は、若くて元気で柔軟性のある方。そういった人材の獲得がどれだけ難しいか、また受け入れるためには相応の準備や工夫が必要であることなど、採用市場を知る機会も少ないように感じました」

こうした課題意識から生まれたのが、農業特化の人材サービス「やさいジョブ」だ。流通を主軸としてきた農総研にとって、人材業界への参入は自然な流れだったという。
農総研が掲げるミッションは「持続可能な農産業を実現し、生活者を豊かにする」こと。その実現に向けて、人材の課題は避けて通れないテーマだった。
「仕組みをつくることも大事ですが、担い手がいなければ産業は成り立ちません。だからこそ、この担い手不足という社会課題に向き合うことは、もはや会社としての使命だと考えています」

農業界と若手人材のミスマッチ

「やさいジョブ」の設立は、農総研の経営陣による強い後押しのもとで進められた。
「産育休から復帰してすぐに事業計画を作って役員にプレゼンしました。私の担当業務は産休前に引き継いでいることもあり、代表の堀内から『新しいことにチャレンジする良いタイミングではないか』と言ってもらって。会長の及川が『やさいジョブ』というサービス名を付けてくれました。本当に後押ししかなかったですね」
こうしたエピソードからも、同社の新たな挑戦を後押しするベンチャー精神あふれる社風がうかがえる。

サービス開始から約1年半。一定の手応えを感じる一方で、課題も明確になってきているという。その一つが、求人側の採用に対するハードルの高さだ。
「農業は家族経営や小規模で営まれているケースが多く、1人採用するだけでも非常に大きな意思決定になります。人材紹介の場合、紹介手数料も決して少額はないため、『本当にこの人でいいのか』と慎重になるのは当然だと思います。そうした場合は、求職者と双方の意思を聞いて、柔軟な対応を心がけています」
さらに、農業ならではの雇用ニーズも見えてきた。
「繁忙期だけ人手が欲しいという声も多く、必ずしも正社員採用が前提ではありません。そのため、当初は正社員に特化していた人材紹介も、アルバイト人材の紹介や求人サイトへの掲載など、ニーズに応じてサービスの幅を広げています」
試行錯誤を重ねながら、農業現場に適した人材支援の形を模索している段階だ。

また、若手人材の働き方の意識についても実感することがあるという。特に感じているのが、重視する働き方と、農業界の働き方のミスマッチだ。
「農業に関心を持つ若い人は想像以上に多いです。ただ、若い世代の方は、給与だけでなく、休日や勤務時間、ワークライフバランスを重視する傾向があります。一方で、生産現場は天候に左右される屋外作業が中心で、勤務時間や休日も不規則になりがちです。当社がミスマッチを防ぐために実施している『お試し勤務』という制度があるのですが、1週間ほど職場体験をしてもらうと、想像以上に大変だったと言われ、諦める方も少なくありません」
流通や加工の分野においても、業界特有のキャリア観とのギャップが見られるという。
「長く働きながら知識と経験を積み上げていく業界なので、若くして管理職に就いている方でも、聞けば社歴が15年に及ぶ方もいます。一方で、若い世代には終身雇用の意識が薄く、経験を積んだ後により良い条件を求めて転職する、いわゆるジョブホッピング志向もあり、この点に認識のズレを感じています」

求人企業の生産者と肥田さん

人手不足の裏にある、本質的な課題

さらに、求職者の多くが「農業=生産現場」というイメージを持っている点も課題のひとつだ。
「登録者の6〜7割は生産現場を希望されます。自然の中で働きたい、という方が多いんですね。話を聞いていくと、生産に拘らず農業に関わりたいという方も多いんです。そうした方には、流通や小売など、産業を支える別の関わり方も提案しています」
実際に、生産職志望だった求職者が、青果の専門商社の営業職へとキャリアチェンジした事例も生まれている。現場で活躍する人材が少しずつ増えていることに、肥田さんは確かな可能性を感じているという
「実際に転職して『イメージと違ったが面白い』と感じてくれる方もいます。そうした変化が少しずつ広がっていると実感しています」
「やさいジョブ」の今後について、肥田さんは次のように意欲をにじませる。
「目指しているのは、単に人を紹介することではありません。農業界の課題の本質は、人がいないことではなく、適切につながるための理解や仕組みが不足していることにあると実感しています。だからこそ、人が流れ、定着し、活躍していく仕組みをつくっていきたいですね」
農業が選ばれる仕事になる未来に向けて、肥田さんの挑戦は、これからも続いていきます。

「やさいジョブ」のメンバーと

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