跡取りの義務感で農業をするのは嫌だ。模索する中で出会った感動のマンゴー

「大阪茨木小川農園」の始まりは戦国時代の終盤、1600年頃に遡る。武士だった先祖がこの地に移り住み一から開墾して農業を始めたという。以来、代々この農地を守ってきた。
「僕の父は兼業農家で働きながらコメと野菜作りをしていましたね。大阪万博前(1970年開催の日本万国博覧会)はまだ牛を引いて土地を耕していたし、庭で鶏を飼って捌いたりしてました。子どもの頃は僕も『農業を継いだら牛を使うねんなあ』と思っていました」
茨木市は日本万国博覧会を契機にインフラ整備が進み、急速に都市化が進んだ地域である。牛を使って農業をしていたかつての風景は、今の茨木市からはなかなか想像ができない人も多いだろう。小川さんは3人兄弟の次男であったが、20歳のころには母親から『お前が跡取り』と告げられていたそうで、いつかは自分がこの土地を守っていかなければならないと思っていたという。
ただ、コメ作りでは食べていけないことは当時から薄々分かっていた。大学卒業後は一般企業に就職し、システムエンジニアをしながら家業を手伝う生活をしていた。
「近隣の農家には専業農家はほぼいません。このあたりは、コメ農家一本では食べて行けないんです。300坪(約10a)でコメを作って農協に納めても、売上はたった10万円ほど。1町(約1ha)の面積があるうちでも、全部で100万円ほどにしかなりません。トラクター、コンバイン、籾摺り機と必要な農機具を購入すれば機械類だけで1000万円ほどかかりますよね。父親は土地を守っているというスタンスで続けてきましたが、母からは「頼むで。赤字やけど」と刷り込まれていました」(小川さん)
小川さんは50歳になったころ、60歳で会社を定年退職して米作りの専業農家になった自分の姿を想像した。
「農地を守る義務感だけでコメを作っている、そんな人生はつまらない。何かいいアイデアはないのかと、ずっとアンテナを張って探し続けました。マンゴーに出会ったのはそんな時でした。当時、毎年のように沖縄へ旅行に行っていて、55歳のときに初めて現地のマンゴーを食べたんです。そのおいしさに衝撃を受けました。これを作りたいと」

マンゴーのハウスと小川範久さん
「自分が食べておいしいものを作りたい」。大阪で前例のなかったマンゴー栽培に取り組む
自分がおいしいと思えるものを作ることを決め、定年を控えた55歳からマンゴー栽培の知識を得るために奔走した。当時、大阪でマンゴーを育てる農家は皆無。探し当てたのが、栃木県で20年以上前からマンゴー栽培をしてきた農家であった。小川さんはすぐさま、出張に合わせて栃木まで視察に赴いた。
「栃木の農家の方がやっているマンゴーの会に入り、教えを請うことになりました。マニュアルがあるわけではなく、教えてくれたことをひたすらメモにとりました。マンゴー栽培を教えて欲しいという希望者は多いそうですが、実際に行動に移すのは300人に一人くらいとのこと。それでも植え付けのときには大阪まで来てくれました」
企業で働きながらマンゴー栽培を開始したのは2018年、小川さんが55歳の時だ。当時のハウスの広さは300平米、30本からのスタートだ。
「ハウスを作るのに1200万円ほどかかったので、嫁に老後の貯金を使っていいかと聞いたら笑ってました。お金をかけたこともあり、引くに引けない背水の陣でした」と小川さんは当時を振り返る。
30本植えたマンゴーから、翌2019年には100個ほどのマンゴーが実った。
「栃木の師匠に時流でアレンジしたら失敗すると言われてたので、教えてもらった通りに栽培しました。2年後には70本増やして100本になりました」
マンゴー、イチゴ、バナナにキュウイ、ブドウ、パッションフルーツ。ここに来ればメイドイン大阪の珍しい果物に出会える

道路沿いに目立つイチゴ狩りとマンゴー直売の看板。イチゴは息子の大輝(だいき)さんが栽培
道路沿いからひと際目を引く看板が見える。7~8月は農園でマンゴーを直売し、1月から5月にかけてはイチゴ狩りができる。イチゴを栽培しているのは、息子の大輝さんである。30歳で仕事を辞めて就農することを決意したそうだ。小川さんが一からマンゴー栽培を始めたように、大輝さんは近くに研修場所があった「大阪産(もん)スタートアカデミー」(大阪府とJAグループ大阪が主体となって、実践的な栽培研修と座学研修で就農に必要な知識と技術の習得を目指すプログラム)でイチゴ栽培を学び、一からスタートさせたのだ。別のものを栽培することで、継承もスムーズに進んだそうだ。
「見えないタスキを息子に引き継ぐことができました」と小川さんは嬉しそうに言う。2024年からスタートしたイチゴ狩りは大人気だ。
マンゴーは、3つのハウスで120本のマンゴーを育てている。アップルマンゴーを主軸にキンコウマンゴー、キンミツマンゴー、キーツマンゴーと種類も増やした。ネットショップでの販売の他、ふるさと納税返礼品、農協への出荷、そして農場直売である。

直売所で気軽に購入できるマンゴー。リピーターも多い
「最初は売り先に苦労しました。徐々にマンゴーは人にあげるものだとわかってきて、5L、4Lの大きいサイズだけでなく、Mサイズ、Sサイズ、SSサイズ、ミニサイズもあえて作って直売所で販売しています。Sサイズは500円、ミニサイズは1個150円で販売しています」
他にキウイが4本、ブドウが4本(巨峰、長野パープル、シャインマスカット、ジュエルマスカットが各1本ずつ)、バナナは今のところ観賞用だそうだ。加えてタケノコ狩り、ジャガイモ、サツマイモ掘りも実施しているそうだ。
マンゴーをスタートに『ひとり村おこし』をしている小川さん。そこに息子の大輝さんのイチゴ狩りも加わった。直売所でマンゴーをいただいた。「おう」と思わず声がでるほどかつて南国でかぶりついたマンゴーの味そのものだった。

写真協力:小川範久さん
















