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バラに魅せられた元女子大生の第二の人生 食べられるバラと家族の絆とは

連載企画:農業女子とビールで乾杯

バラに魅せられた元女子大生の第二の人生 食べられるバラと家族の絆とは

女性がよりビールを楽しむためのウェブサイト「ビール女子」編集部の酒井由実(サカイユミ)が、最近増えつつある農業女子とビールを片手に本音を語り合おうというこの企画。
第3回は、埼玉県深谷市にある「ROSE LABO」(ローズラボ)。約1,000坪という広大な敷地で、田中綾華(たなかあやか)さんが“食べるバラ”を栽培。バラを使用したジャムやチョコレートなども生産しています。食用バラと観賞用バラの違いは? バラ農園をはじめたきっかけは? ROSE LABO代表の田中綾華さんにお話をお聞きしました。

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身近にあったバラの“別の魅力”を知って

ROSE LABO

「ROSE LABO」代表の田中綾華さん。開業を思い立ち、両親に内緒で大学に退学届けを出すほどの行動派です。

――綾華さんは農家の出身ではないと聞きました。なにがきっかけでバラ農園をはじめることになったのですか。

田中綾華さん(以下、綾華):母から聞いた「食べられるバラがある」という言葉でした。調べてみるとバラは鑑賞するだけでなく、含まれる成分が内外美容に効果的で健康にも良い、ということがわかりました。

それまでの私は、やりたいことも特になく国際政治経済学部の大学に通っていました。子どもの頃から周りに同調しつつ自分の夢など考えずに、敷かれたレールに乗ったような人生を歩んでいました。そして、「自分はこういった生き方しかできない」と考えていました。

「観賞するだけ」だと思っていたバラが、ほかにも用途があったということを知って、これまで自分自身に勝手に限界を設けていたのではないか、と考えるようになり、鑑賞用だけではないバラの新しい側面を広めたい、自分の人生を見直すきっかけになったバラに恩返ししたい―。そう思ったらいてもたってもいられなくて、大学を中退。ネットで見つけた大阪のバラ農家に1年間修行に行って、2015年9月に22歳で独立開業しました。

――:それまで農業の経験や知識はあったのですか。

綾華:いいえ、まったくなかったです。修行中にバラの基礎的な育て方や品種について学びました。

――:農園を埼玉県深谷市に選ばれた理由はなんでしょうか。

綾華:バラは、1日の平均気温を足していって1,000℃になると開花します。だいたい夏は40日、冬は60日かかります。気温が高いこと、そして丈夫に咲かせるため、昼と夜の寒暖差の大きいところ、ということでここを選びました。最初は300坪でしたが、今では1,000坪にまで増やすことができました。

最初は反対していた母親も今では自分の仕事をやめて手伝ってくれて、さらにこの土地を紹介してくださった人も含め、2人がパートとして働いてくださり経営が成り立っています。

バラが一輪も咲かないというトラブル「わかった気になっていた」自分に反省

――:農園をはじめてみて、最初はどうでしたか。

綾華:それが、全滅しちゃって。

――:全滅ですか。

綾華:一輪も咲かなかったのです。売り物がないので、収入もない状況になってしまいました。

バラ

食用のバラは、農協を通して出荷できるものではないため、販路を自分で見つける必要があります。そこで、農場の仕事をしながら飲食店経営者やマルシェを開催しているところの責任者など、さまざまな人と出会ったりできる交流会や、会食などで夜中まで営業に出ていました。それは今も変わらず出向いています。

売れるものがないのでは、パートさんに支払う給料がない。それが理由で、毎日予定を終えた後に居酒屋でバイトして、そこから給料を支払えるようにしていた、ということもありました。

でも、この出来事から「たった1年間修行しただけでわかった気になっていた」という自分の傲慢さに気づくことができ、農業大学校で学ぶことにしました。今では、きちんと農業の基礎を学べて良かったと思っています。

――:大変な経験をされたのですね。販路を自分で見つけなければいけない、というのもご苦労があったのではないかと思います。

綾華:そうですね。テレアポや、に関する仕事、営業職など、できることはなんでもやりました。1年間365日休みなしです。でもそのおかげで、今では少しずつメニューに加えてくださる飲食への出店機会など、販路が徐々に広がってきています。

バラに支えられバラのために生きる

――:今でも販路開拓のために交流会や会食を欠かさないとのことですが、1日のスケジュールを教えてください。

バラ

綾華:だいたい4時に起きて、メールのチェックなどを済ませます。5時から農場に出て作業を行い、東京に移動しながら車内でランチを食べます。

午後から夜にかけては、都内で会食や異業種交流会などを11時か0時頃まで。都内にある実家に戻ってから事務作業を行い、1時か2時ぐらいに就寝する、という生活ですね。

ただ、移動時間がもったいないので、できるだけ「今日は深谷の日」「今日は都内の日」と決めて、一日中都内にいられるときは7〜8件のアポを、午後からの日であれば4件ほどをこなすようにしています。

――:ほとんど睡眠が取れていないハードなスケジュールですが、きつくないですか。

綾華:若いっていうのもあると思うのですが、バラが大好きなので苦にはならないです。好きな人がいると、毎日でも会いたくなりますよね。私もバラが大好きだから、毎日でもできるだけ長く一緒にいたいですし、バラの良さを広めるためなら大変に思えることも自分の幸せになっています。

かっこよかった曾祖母と自分をバラがつなぐ

――:綾華さんがそこまでバラに魅せられる理由ってなんでしょうか。

綾華:わたしが尊敬する人のひとりに曾祖母がいます。彼女は事業家として仕事をしつつ、女手一つで7人の子どもたちを立派に育て上げた力強い女性。曾祖母は、にいつもバラを身につけていました。その理由は「バラは花の女王だから」だと言っていました。気高さ、強さ、美しさ。それらを包含するバラからパワーをもらっていたのでしょうね。

そのためか我が家には、いつでもどこかにバラがありました。そういう曾祖母のエピソードに加え、食べられるという一面もあるバラ。これはもう「バラに人生を捧げるしかない!」と感じました。

ローズラボ

スマートフォンに保存されているひいおばあさまの写真。凛とした美しさがバラを彷彿とさせる

――:素敵な女性ですね。

綾華:曾祖母はいつも「自分の人生は自分が主役だよ」と言っていました。バラ農園を始めるまでの私は、いつでもほかの人の言いなりで、特にやりたいこともなく自分の可能性も信じず、だらだらと劣等感にまみれて生きていました。それが、バラのおかげで初めてやりたいことを見つけられ、自分を信じることができた。いわば生まれ変わって第二の人生を過ごすことができているのです。

そういうきっかけを与えてくれたバラだからこそ、恩返しをしたいなと思ったのです。

ROSE LABOという名にふさわしい製品展開に期待

――:この企画「農業女子とビールで乾杯!」というものなのですが、綾華さんはビールを飲まれますか。

綾華:ビール大好きですよ!乾杯は必ずビールです。

田中綾華

ビールが大好きという綾華さん。お気に入りはT.Y.HARBORのビール。

――:良かったです(笑)。好きな種類はありますか。

綾華:T.Y.HARBORのビールが好きですね。事務所が代官山にあるのですが、近くのIVY PLACEというお店でよく飲んでいます。

――:毎日お忙しいので、ビールを飲む時間もなかなかなさそうですね。

綾華:そうですね。休みが取れないので、なんとか半休を自分で作り出しています(笑)。

――:綾華さんにとって、農業や育てているバラをひとことで言うと何でしょうか。

綾華:「自分を映す鏡」ですね。自分が未熟なときには咲いてくれないし、きちんと勉強して向き合うと咲いてくれる。あまりにもバラと一体化しすぎてしまっています。

バラは、外から自分を支えてくれるものでもあります。「なんでもいい」「適当で」が口癖だった私が、曾祖母の「自分の人生は自分が主役」という言葉を実行に移せるようにしてくれるたんですから。

――:これから食べるバラをどのように展開していくのですか。

綾華:全くの無農薬で、虫ができるだけ来ないように育てていくのは大変ですけど、それに応えてくれているバラをもっと色んな人に知ってもらいたいです。

バラ農家として、キャリアも実績もある方たちに敵うはずがないので、観賞用のバラはその方たちからクオリティの高いものを購入していただくとして、私からは美容や健康、そして幸福に寄与する食べるバラを提案していきたいと思っています。

「LABO」と社名に入れたからには、美容食品や入浴剤など、加工品への企画も立てていきたい。マルシェに来てくださるお客さまからいただいた声をしっかり取り入れて、そのニーズに応えられるような製品づくりをして、支えてくれるお客さまにもバラにも恩返しをしていきたいですね。

ROSELABO

尊敬している「大好き」な、ひいおばあさまの写真をスマートフォンの写真フォルダに入れていつも見ているという綾華さん。本当に美しく強さを感じさせるお姿を私たちにも見せてくれました。「農業が、バラが、自分の第二の人生を与えてくれた」。

そう語る綾華さんはとても強く美しく見えました。

「ROSE LABO」https://www.roselabo.com/ 

編集:ビール女子編集部

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