見た目は不格好でも 高糖度のおいしい梨ができる
「あいみ燦ゴールド」は、「ゴールド二十世紀」という品種の栽培法を工夫し、より高い糖度を実現した梨の商標です。
鳥取西部農業協同組合あいみ果実部では、県内で主に栽培されている品種「二十世紀」の栽培の負担を減らすために「ゴールド二十世紀」を導入し、2品種を同時に栽培することにしました。「ゴールド二十世紀」の方が、梨の宿敵である黒斑病に強く、栽培に手間がかからないのです。
それでも、高齢化や担い手不足に悩む農家の負担は大きいものでした。主要品種の「二十世紀」は、病害虫の予防と外観品質の向上のため、通常、梨の大きさに合わせて5月と6月に袋がけを行います。しかし、「二十世紀」の袋がけ作業に追われ「ゴールド二十世紀」への2回目の袋がけが間に合わない事態に陥ってしまいました。そこで、あいみ果実部では思い切って、「ゴールド二十世紀」に2回目の袋がけを行わないことにしました。
すると糖度が高く、より食感の良い梨になったのです。通常の「二十世紀」と比べると、約0.3~1.0%糖度がアップしています。これが、のちの「あいみ燦ゴールド」となります。
梨は日に当たると糖度が上昇するため、袋がけをしないことで、食味が著しく向上することは、梨農家なら誰でもが知るところでした。
しかし問題は見た目です。袋がけをしていない分、表面の保護が遅れ、キズや汚れのある果実が多くなってしまうという事態を招いてしまいました。キズや汚れがあると、市場価値はどうしても下がってしまいます。
見た目の悪さを逆手に取ったブランド戦略。商標登録で権利を守ることも検討
当初、あいみ果実部は2度目の袋がけを行わなかった梨を「二十世紀」と、他の梨を一緒に出荷していました。しかし、外観品質に劣るため、市場の評価は低いものとなりました。
そこで、あいみ果実部は発想を転換。“見かけより味重視”というコンセプトで、オリジナルブランドとして売り出し、消費者に果実の特長と栽培過程を知ってもらおうと考えました。そこで、必要になったのが商標です。
商標は、日差しを燦々と浴びることで食味が増す梨の特長に、地名と品種名を組み合わせて「あいみ燦ゴールド」としました。当初は「燦ゴールド」が候補でしたが、類似の商品名があることがわかり、頭に地域名を付けたのです。その後、会見町(あいみちょう)は、平成16年の市町村合併により南部町に変更されました。「あいみ」の名称は奇しくも商標の一部となって、後世に残ることになりました。
さらに「類似の名前が出た場合のトラブルを防ぐためにも、ブランドとしての地位を確保するためにも商標登録を行った方が良い」という意見が出て、あいみ果実部員内で商標登録を行うことになりました。
平成11年7月8日に商標を出願し、翌年平成12年7月14日に登録されました。
商標登録の出願手順
実際に商標を登録したい場合は、どのような手順を踏めば良いのでしょうか。
1:特許情報プラットフォーム「J-PlatPat 」のホームページでリサーチ
特許情報プラットフォーム「J-PlatPat(ジェイプラットパット)」で、自分が登録したい商標が既に使用されていないか確認します。先に登録してある商標は使用することができません。しかし、すでに登録されている商標であっても、商品または、役務(サービス)の区分が違えば(2を参照)登録できます。
2:登録する「区分」を決める
商標を使用する商品、または役務が属する「区分」を決めます。区分は第1類から第45類まであり、複数を選択することが可能です。「あいみ燦ゴールド」の場合は、「第31類 果実」で登録しています。
3:特許庁へ出願する
区分を決めたら、特許庁の出願事項を参考にして願書を作成して提出します。「あいみ燦ゴールド」の場合は、出願人は鳥取西部農業協同組合です。
4:審査結果は6ヵ月後。拒絶された場合は補正書や意見書で反論も可能
審査の結果は約6ヵ月後に通知され、通った場合は登録料を納付し、手続きは終了となります。登録要件を満たさなかった場合は「拒絶理由通知」が届きます。「拒絶理由通知」は、意見書や手続補正書で反論することができ、再度審査されて登録が認められる場合もあります。登録後は10年ごとに更新することができます。
「『字面など見た目が似ている』『呼び方が似ている』『意味合いが似ている』などといった理由で商標登録できない場合があります。また、一般名称として使われている商標も商標登録できません」。
商標登録にかかる基本費用は、出願料が3,400円+(区分数×8,600円)、登録料が区分数×28,200円(10年分)となります。ただし、適用年数や支払い方法などにより料金は変わります。
「地域団体商標」ならではの登録要件とは
最近では、地域で商標権を共有する「地域団体商標」という制度を活用し、地域全体で農作物をブランド化する動きが各地で活発化しています。「地域団体商標」として登録する場合は、通常の商標登録の要件以外に、以下の要件が課されます。
1:登録主体が「事業協同組合等の組合」「商工会」「商工会議所及び特定非営利活動法人」、または上記に相当する外国の法人であること。
2:商標が「地域の名称」と「商品(サービス)名」などの組み合わせで構成されていること。
3:「地域の名称」が商品の生産地に該当するなど、「地域の名称」と「商品(サービス)」に関連性があること。
4:出願人またはその構成員の使用により、これらの者の商標として知られていること。
商標及び地域団体商標は、誰でも出願できますが、手続きには手間と時間がかかります。また万一、拒絶理由が通知された時の反論には法律の知識やテクニックもいるといいます。
そんな時は、弁理士に依頼するのがおすすめです。出願料や登録料のほかに代行手数料がかかりますが、手間と時間を考えれば、依頼するという選択肢もあります。依頼にかかる費用は各事務所で異なるので、事前に確認しましょう。
商標は登録するだけでは意味がありません。「あいみ燦ゴールド」は、「見かけよりも味重視!」というキャッチコピーをつけてPR活動を行い、試食を通じて食味を知ってもらい、独自の栽培方法や生産者の思いを伝えました。その結果、人気が徐々に広がり、都市部に出回る前に、売り切れてしまうほど人気になったそうです。
登録後の販売戦略を考え、実践していくことで商標の真価が発揮、農産物の価値が高まっていくことでしょう。
参考:特許情報プラットフォーム「J-PlatPat」
https://www.j-platpat.inpit.go.jp/web/all/top/BTmTopPage
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画像提供:吉永国際特許事務所