定年後は悠々自適を描いていたはずが
三重県津市美杉町。伊勢神宮へ続く伊勢本街道沿いに、農家民宿「なかや」があります。経営している岩田さんは、50歳で会社を辞めて大阪府から美杉町へ移住し、農業も始めた方です。
元々、岩田さんは農業をやりたくて移住したわけではありませんでした。会社員としての人生にも満足していたし、定年後を思い浮かべるときは「退職金で家を買って家賃収入を得よう。株も買って悠々自適に暮らそう」といったように就農も田舎暮らしもプランにはありませんでした。
しかし、いくつもの偶然が重なって徐々にそのイメージは変わっていきました。一つは、支社自体がない島根県出雲市への転勤で、たった一人で孤軍奮闘せざるを得なくなり会社人生を考え直す機会となったことにあります。
もう一つは、奥さんがどんな田舎へ行っても、その土地の文化や素晴らしい仕事をしている人物を見つけられる人だったこと。そして、お子さんがアトピーを発症したことで、自然の中で子育てをしたいと思ったきっかけがあったそうです。
決定的だったのは、同級生の訃報が届き、これからの人生を考え直す機会を得たことでした。そして、岩田さんの思いは田舎暮らしへと急速に向かっていきました。
「このまま会社勤めを続けて60歳になったときには、今より体力が落ちている。元気なうちにやってみようと思ったのです」。
こうして、岩田さんは田舎暮らしへ人生の舵を切り直したのです。2000年頃には週末になると、田舎移住を紹介する雑誌を手に、気になった物件の下見に行くようになりました。そんな時に出会ったのが「なかや」です。