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「新米はおいしい」は本当?【後編】

柏木 智帆

ライター:

連載企画:お米ライターが行く!

「新米はおいしい」は本当?【後編】

新米が必ずしもおいしいわけではなく、年が明けたこれからが「お米に味が乗ってくる」時期。お米のプロフェッショナルたちからそう教えてもらいました。ということは、お米は収穫後に熟成しているのでしょうか。そして、お米はいつ頃までがおいしい期間なのでしょうか。引き続き、検証しました。

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お米の品種によっても劣化が違う?

まさに刈り取られたばかりの新鮮ぴちぴちのお米

まずは、お米づくりのプロフェッショナルであるお米農家さんを訪ねました。

「良い米ならば適切な温度で管理すれば2カ月ぐらい経ったほうが味が乗ってきます」と話すのは、福島県・猪苗代町のお米農家・土屋直史(つちや・なおし)さん。ただし、経時のおいしさは「熟成」ではなく「劣化速度の緩やかさ」だと言い、その速度は品種によって変わると指摘します。「たとえば、『ミルキークイーン』は水分の落ち着きによってハゼてきて(白くなってきて)、餅の香りがしてきます。いまは保管技術が向上しましたが、猪苗代あたりでは昔は『ひとめぼれ』は夏までしかもたず、夏を越しても劣化しにくい米としてあきたこまちが作られていました。そして、ひとめぼれを先に食べていたそうです」

他にも劣化しにくい品種を探すと、岩手県奥州市のお米農家・阿部知里(あべ・ちさと)さんと宮城県・加美町のお米農家・長沼太一(ながぬま・たいち)さんが「ササシグレ」を教えてくれました。ササシグレとは「ササニシキ」の親で、あっさりとした味わい。阿部さんは、「ササシグレは梅雨があけてからのほうがおいしく、熟成してまろやかになる」と言い、長沼さんも、「餅遺伝子が多い品種は劣化しやすいが、餅遺伝子が少ないササシグレは1年経つと旨みが出てしっとりとした香りになる」と言います。

ちなみに、2人の農法は農薬と肥料を使わない自然栽培。「お米はタネ。自然栽培で育つ生命力の強いタネモミならば、劣化スピードも遅いと思っています」と阿部さん。自然栽培ササシグレがおいしく食べられるのは、収穫からどのぐらいまでの期間なのか、知りたくなってきました。

3年前に収穫したお米の味は?

4年8カ月前に収穫された阿部さんの自然栽培コシヒカリは表面が白っぽく変化してきている

ここは体当たりで調べるしかない…というわけで、収穫から8カ月、1年8カ月、2年8カ月経った阿部さんの自然栽培ササシグレを取り寄せて食べ比べました。

収穫から8カ月経ったササシグレは、さっぱりとした甘い香りがあり、ツヤツヤしっとりとして滑らか。じわりと旨みと甘さが感じられる、とてもおいしいお米。

一方で、収穫から1年8カ月経ったササシグレは、炊飯器の蓋を開けた瞬間から古米臭が。口に入れると、酸っぱさを帯びたにおいが口の中に広がり、米粒もかたい。

さらに、収穫から2年8カ月も経ったササシグレを食べると、かたくて団子のような粉っぽさ。ところが、驚くことに1年8カ月経ったササシグレほど古米臭がありません。不思議です。

続いて、阿部さんが自然栽培で育てたコシヒカリでも検証。収穫から1年8カ月、2年8カ月経ったものを食べてみました。1年8カ月経ったコシヒカリは、古米臭はするものの、しっとりとした食感。1年8カ月経ったササシグレと2年8カ月経ったササシグレよりは劣化していない印象です。ところが、なぜか2年8カ月経ったコシヒカリは1年8カ月経ったササシグレと同様にすっぱい古米臭。

感覚だけでなく数値でも調べてみようと、阿部さんのお米を食味計で計り、「食味値」を検証することにしました。基準にしたのは、新米時期に計測された阿部さんのお米の食味値です。

8カ月経ったササシグレの食味値は変わらず88点という高得点のまま。これには納得。ところが、2年8カ月経ったササシグレは95点から92点に下がりつつも90点超えの高数値を維持。古米臭がしてかたくなっているにもかかわらず、8カ月経ったササシグレよりも食味値が高いという結果が出ました。

劣化の理由のひとつに、お米の脂質が脂肪酸に分解されて増加する「脂肪酸量」があります。その数値を見ると、8カ月経ったものと2年8ヶ月経ったものの酸化量は、なぜかほぼ同程度。感覚では「そんなはずはないだろう」と思うのですが……。どうも食味計では人間が感じる劣化を測定できないようです。

試食と測定の結果、お米の劣化速度は、品種や経年数に関係なく、その年の品質によるものではないかと推測できました。

保管の仕方でもおいしさは変わる!

お米の貯蔵庫の中で低温で管理されているお米

さらに、お米の劣化は保管状況によっても大きく左右されるようです。「お米の劣化を防ぐためには、なるべくお米に呼吸をさせないこと。そのためには気温の上昇を抑える必要があります」と話すのは、東京・原宿「小池精米店」店主の小池理雄(こいけ・ただお)さん。消費者にも「購入後は空きペットボトルかジッパー付きポリ袋に入れて冷蔵庫へ」と説明しています。

玄米の保管温度は一般的には11~15度と言われていますが、阿部さんは13度、土屋さんは10度以下に設定しています。土屋さんは「この温度だと水分値が落ち着き、体感的に旨味が増しています」と言います。

さらに低い5度で玄米貯蔵しているのは、山形県の豪雪地帯にある「JAみちのく村山」。雪を有効利用して貯蔵して「みちのく雪むろ米」として販売しています。県が開発したお米の非破壊型鮮度評価装置を使って調べたところ、翌年の夏を迎えても品質低下がほとんど見られなかったそうです。

さらに低い氷点下で玄米貯蔵する「氷温熟成米(※登録商標)」は、「おいしさが増す」とうたっています。公益社団法人「氷温協会」事務局長の深堀大賢(ふかほり・だいけん)さんによると、収穫した玄米を氷温(0度以下の未凍結温度域)で1年間貯蔵して、翌年の新米と食べ比べたところ、氷温貯蔵した古米のほうがおいしかったそう。温度管理はお米の劣化と密接に関係しているのですね。

さらに、湿度も劣化速度を左右するようです。東京都墨田区のお米店「隅田屋商店」店主で五ツ星お米マイスターの片山真一(かたやま・しんいち)さんは「カビが生えるギリギリ手前の湿度70%くらいで保存すると、お米の劣化を緩やかにすると感じています」

お米のプロフェッショナルたちに聞き回った結果、お米の品質、品種、保管状況などにもよりますが、お米は収穫から2、3カ月経ってからおいしくなり始め、半年経ってもおいしいけれど、夏を2回超すのは難しいのでは……ということが分かりました。

ただし、それは白ごはんで食べる場合に限ってのこと。稲に詳しい農学者の佐藤洋一郎(さとう・よういちろう)さんは「新米の価値は文化」と言い、「欧州、たとえばイタリアでは、古いほうが価値が出るビンテージ米があります」と教えてくれました。文化の違いや技術の進化によって、お米の価値や食べ方も変わってくるのです。神奈川県鎌倉市のお米屋「笹屋」店主の木村聡(きむら・さとし)さんによると、日本ではお米の保管状況が良くない時代、人々は古米に香り米をほんの少し混ぜることで、新米の香りを再現して食べていたそうです。

ちなみに、今回の試食実験で炊いた阿部さんの古米はチャーハンにしたらパラパラと仕上がり絶品でした。これぞ、古米のなせる技。『新米』『古米』のイメージでおいしさを格付けせず、お米をもっともっと知ることで、食の楽しみの幅はぐんと広がります。

【関連記事はこちら!】「新米はおいしい」は本当?【前編】

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