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「新米はおいしい」は本当?【前編】

柏木 智帆

ライター:

連載企画:お米ライターが行く!

「新米はおいしい」は本当?【前編】

新米の時期は「新米だからおいしいよ」という売り文句も聞かれます。しかし、年が明けて「新米」の季節が過ぎました。「新米」と呼ばれる期間は、現在の米業界では収穫された年内が一般的。そのため、店頭では1月になると「新米」シールが貼られた米袋は見かけなくなります。じゃあ、新米の時期が過ぎてしまったらお米の味は落ちてしまうの?そもそも、新米って本当においしいの?もしかしたら、「新米=おいしい」というのは、多くの日本人が抱く先入観にすぎないのでは…。その疑問を解明すべく、“新米神話”を検証しました。

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「新米よりも前年産米がおいしい」

米袋に貼られた「新米」シール

新米って本当においしいのでしょうか?

まずは、新米の魅力を大手米卸売会社「木徳神糧」社長室の中西泰晴(なかにし・やすはる)さんに教えてもらいました。

「新米は香りが純粋で、水分が多いのでピカピカときれいで、粘りとコシがあります。糠切れが良いので、水加減を間違えなければ最高のごはんが炊けます」

一方で、中西さんは新米ならば総じておいしいわけではないとも言います。「お米ができる年によって多少の出来不出来がありますし、新米は水分量も違うので、食べ慣れたお米の食味、食感、香りが若干変わります。だから、おいしくないと感じることもあるでしょう。新米ならば何でもおいしいと思って銘柄を適当に選ぶと好みに合わないことがあります」。

たしかに、「新米」と呼ばれる期間は1年のうちたった2〜4ヶ月ほど。食べ慣れない新米よりも食べ慣れている味をおいしいと感じやすいという面もありそうです。

ここはお米の目利きのプロフェッショナルであるお米屋さんに聞いてみたいところ。というわけで、神奈川県鎌倉市「笹屋」を訪ねました。「今はお米の管理が行き届いているので、新米よりも前年産米のほうがおいしいですよ」と断言するのは、店主の木村聡(きむら・さとし)さん。「お米にはフィチン酸という旨み成分がありますが、新米のころはお米がまだ水っぽく、旨みが薄く感じます。時間を置いて水分が枯れてくると、フィチン酸の濃度が増すため味が濃くなるのです」。

「日本人は新米を心で食べている」

黄金色の稲穂を見て豊かな気分になるのも日本人ならではの感性だろう

ではなぜ新米はおいしいと言われているのでしょうか。その疑問に答えてくれたのは、東京・原宿「小池精米店」店主の小池理雄(こいけ・ただお)さん。「米のツヤ、香り、粘りに惑わされて、お米の旨みを味わうところまでいかないのでしょう」。たしかに、あのキラキラにだまされているような気が…。「あとは、味というよりも、豊穣を神様に感謝してありがたくいただくという側面でおいしいと感じるのでしょうね」(小池さん)。

稲に詳しい農学者・佐藤洋一郎(さとう・よういちろう)さんは「新米はうまいというよりも香り高い」「日本人は新米を心で食べている」と言います。新米がおいしいのは、炊きたての香り、そして日本人の感性に左右されている面もあるのかもしれません。

たしかに、食事のときに「今日は新米だよ」と聞いた途端に、急にごはんの香りを嗅ぎ始めたり、おかずは後にしてまずは白ごはんだけで味わおうとしたりと、ごはんへの向き合い方が厳かになる人、いますよね。

お米はいつからおいしくなる?

香り高い29年産の新米。年明け頃から味がより乗ってくる

感性は置いておいて、味覚においてのおいしさを検証しようと、炊飯のプロフェッショナルに聞いてみました。

京都・祇園と東京・銀座に米料亭を展開する「八代目儀兵衛」料理長の橋本晃治(はしもと・こうじ)さんは、「『新米がおいしい』というのは先入観だと思います」ときっぱり。「水気が多すぎると甘さや旨みがぼけてきます。少し落ち着いた2月くらいのお米が一番好きです」(橋本さん)。東京・白金高輪で自然栽培米や有機栽培米の土鍋ごはんを提供している和食料理店「心米」店主の吉田政紀(よしだ・まさのり)さんも「熟成させて脂が全体に回った魚には穫れたての魚とは別のおいしさがあるように、お米の旨みを感じるのも年明けくらいだと感じます」。

ごはんが冷めた状態で提供するおむすびはどうでしょうか。神奈川県茅ヶ崎市のおむすび屋「はますかむすび」を経営する榑林加奈子(くればやし・かなこ)さんに聞いてみると、「年を越してからのお米が好きです。ピカピカとした水分たっぷりの新米ってなんだかキャピキャピした味がしてお腹が落ち着かないんですよね」とのこと。

いずれも「年明けのお米がおいしい」という意見で一致しました。

でも、一般的にお米は春先から徐々に味が落ちてくるとも言われています。ということは、新米でなくなってからのおいしい期間はとっても短いのでは?

ところが、榑林さんと一緒に「はますかむすび」を経営している夫の牧下圭貴(まきした・けいき)さんは、米農家が1年保管していたあきたこまちを自家用として購入したことがあるそうです。「新米は半年過ぎると、いい感じに“枯れた”ふうになります。1年置いたあきたこまちは良い加減で粘りが抜け、おかずとの相性がいいですよ」(牧下さん)。

どうやら「新米がおいしい」というのは、私たちの先入観のようです。では、食べごろはどうやって見分けるといいのでしょう?

東京・銀座のお米屋「結米屋」代表の澁谷梨絵(しぶや・りえ)さんは「新米には“活き青”と呼ばれる鮮度の高い玄米が混ざっているものもあります。活き青が色づいて来るころが食べごろです」と教えてくれました。一方で、「みずみずしさや風味の高さなど新米ならではのおいしさもありますので、新米も新米ではないお米もどう楽しむかが大事です」とも。新米には新米の良さがあり、新米でないお米にはその良さがあるのですね。

ただ、お米のプロフェッショナルたちからは、「お米に味が乗ってくるのは収穫後から一定の時間が経ってから」という意見が多く、「お米は収穫後に熟成しているのでは?」という疑問がわいてきました。

果たして本当にそうなのでしょうか?

【関連記事はこちら!】「新米はおいしい」は本当?【後編】

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