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日本米でも海外のお米料理はおいしくなる【後編】

柏木 智帆

ライター:

連載企画:お米ライターが行く!

日本米でも海外のお米料理はおいしくなる【後編】

パエリアの本場・スペインではボンバ米(バレンシア米)、リゾットの本場・イタリアではカルナローリ米など、それぞれ地場のお米が使われています。こうした料理に日本米、しかも、あえてパエリア向けやリゾット向けや炒飯向けに開発されたわけではない日本米でもおいしく仕上がるのでしょうか。日本米の可能性を探っていると、「ベータ化」というキーワードが浮かび上がってきました。

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「亀の尾」でアルデンテリゾット

福島県・猪苗代町「つちや農園」の「亀の尾」を使ったトマトリゾット

酒米ではありませんが、日本酒に使われているため酒米と誤解されがちなお米をリゾットに使っているのは、福島県郡山市のイタリア料理店「インコントラ ヒラヤマ」。お米は福島県産「亀の尾」です。亀の尾は粘りが少なく、すっきりとした旨みと甘さ。「腹白」といってお米の腹側が白くなりやすい特徴があります。腹白部分は【前編】で紹介した山田錦の心白部分と同じで、でんぷん粒が粗く詰まっているため、隙間があります。

「亀の尾は出汁を吸いやすく、かつ出汁に負けない米の存在感があります。米に出汁が入るだけでなく、米から出汁に出る旨みも感じられます」と話すのは、オーナーシェフの平山真吾(ひらやま・しんご)さん。

この店では、生米からリゾットを一気に完成させるのではなく、事前に下ごしらえしたお米を使うそうです。リゾットの調理直前にお米を見せてもらうと、まるで麹のようにばらばらです。

「水分をむちゃくちゃ少なくして、五割炊きにしたものです」と平山さん。その工程を見せてもらいました。

ストーンウエア(石器)鍋にオリーブオイルを入れて生米を炒めた後、ひたひたに水を入れてから蓋をしてオーブンへ。180度で加熱して10分ほど経ったら蓋を開け、混ぜて水分を飛ばしていくとぱらぱらになります。そして、冷蔵庫で保存します。このお米をソースの中に入れることで、短時間で一気にお米にソースを吸わせるそうです。

お米は硬めに炊いて水分を飛ばしてから冷蔵保存

「生米から作るリゾットよりも、どちらかというと一回炊いたお米で作るほうが好きです。生米から作るとじわじわと火が入るのでお米が崩れやすくもろっという食感になりますが、この方法だとお米の弾力が出て、歯を押し返すような食感になります。嫌みな硬さが残らずにアルデンテになるんですよ」(平山さん)

たしかに食べてみると、心地よい弾力で食べやすく、出汁とお米がなじんでいるように感じます。

お米は加熱や水分量の増加によってデンプンを「アルファ化」させると、ふっくらとやわらかくなり、消化しやすくなります。これがいわゆる炊飯。そして、この状態から冷却や乾燥によって硬い状態に戻ることを「ベータ化」と言います。常温では水が入り込むことができず、そのまま食べても消化が難しい状態。この店では「ベータ化」させたお米を最後に火入れすることで、絶妙な食感を保ちながら消化しやすい状態に戻しているというわけです。

「つや姫」で粒が際立つリゾット

山形県鶴岡市「井上農場」の「つや姫」を使ったリゾット

同じように、お米のデンプンのベータ化を利用してリゾットを作っているのは、東京・銀座のイタリア料理店「ヤマガタサンダンデロ」。程よい粘りとすっきりとした味わいが特徴の山形県産「つや姫」を使っています。

シェフの土田学(つちだ・まなぶ)さんによると、生米をオリーブオイルやニンニク、たまねぎなどで炒め、少なめのブイヨンで煮込みます。そして、200度のオーブンへ。15分ほど経つと、まだ硬めで芯のある状態です。「オリーブオイルの油膜のおかげで完全には炊きあがりません」と土田さん。バッドにあけて熱々のうちに塩胡椒をふり、扇風機で風をあててぱらぱらの状態にしていきます。そして、冷蔵庫へ。ここでデンプンがベータ化されるというわけです。提供直前にこのお米を使ってリゾットを完成させています。

「イタリアのお米の場合は生米から炒めて出汁を足していきますが、日本のお米で同じように作ると粘ってしまいます」(土田さん)。粘りがある日本のお米ならではの方法で調理されたリゾットは、粘りがなく一粒一粒が際立っています。ふぐの出汁と塩だけで味付けされたリゾットはお米の旨みも感じられます。

「コシヒカリ」でもパラパラ炒飯

時期によって産地を変えるコシヒカリ。今回は宮城県産

「つや姫」よりも粘りが強い「コシヒカリ」を使っているのは、東京・広尾にあるヌーベルシノワの中華料理店「春秋」。この店では、コシヒカリの炒飯を提供しています。粘りがあってもっちりとしたコシヒカリで、果たしてパラパラ炒飯が作れるのでしょうか。

お店で鍋に入れる前のごはんを見せてもらうと、まるで生米のようにパラパラ。でも、生米ではなく、普通に炊いたごはんというから驚きました。これも「ベータ化」されたお米の状態です。

お米は炊飯後に水分を飛ばして冷蔵保存

オーナーシェフの宮内敏也(みやうち・としや)さんの妻・加久子(かくこ)さんによると、炊いたごはんは完全に冷ましてから冷蔵庫に入れ、水分量を調整していきます。このとき、空気が入るように隙間を作りながら広げたり、水滴が入らないように気をつけたり、裏返したりと丁寧に管理。2日経つと、生米のようでありながらしっとり感もあるお米に仕上がるのだそうです。

このお米を強い火力で1分半ほど炒めて完成。米粒と米粒の間に空気が入ってほろほろとした炒飯は軽やかな食べ心地。デンプン特性を利用することによってコシヒカリでも粘らずにパラパラ炒飯に仕上がるのです。

日本米はそのまま炊いておいしいだけでなく、品種や調理法によって海外のお米料理としてもおいしく食べられるというマルチな存在。幅広い可能性を秘めています。

日本米でも海外のお米料理はおいしくなる【前編】コチラ!

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