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お米とお酒のペアリングを探る

柏木 智帆

ライター:

連載企画:お米ライターが行く!

お米とお酒のペアリングを探る

お酒を飲む人にとってお米はお酒の締めになりがち。でも、鮨をつまみながらお酒を飲むのは当たり前となっているのだから、お米を食べながらだってお酒を飲めるはず。というわけで、お米とお酒のペアリングの可能性を追求しようと、東京・代々木上原にある土鍋炊きごはんの店「おこん」を訪ねました。この店では、コースの最初に「ウエルカムライス」として白ごはんを提供しています。今回はおこんの協力のもと、炊き込みごはん3種とお酒5種で、お米とお酒をどう楽しめるか、実験しました。

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手軽に作れるペアリングごはん

この店ではコースの最初に「ウエルカムライス」として白ごはんを出すと、お客たちはごはんをつまみながらお酒を飲んでいます。白ごはんとお酒のペアリング…なかなかの玄人。さらに、コースの“締め”にも味付きの炊き込みを出しているそうで、今はローストビーフとウニを乗せた「ウニクごはん」や、鯛飯などが人気。“締め”と言っても、そのごはんを肴にお酒を飲み続けるお客も多いそうです。

「ベースのお米がおいしければ、どんなごはんだってお酒のつまみになりますよ」と話すのは、店主の小柳津大介(おやいづ・だいすけ)さん。白ごはんとお酒のペアリングは玄人感があるため、今回は味付けの土鍋炊きごはんを1合ずつ3種類お願いしました。

塩味は、「牡蠣と牛蒡ごはん」で、お米は宮城県・佐々木金三さんの「ササニシキ」。醤油味は、「ぶり大根ごはん」で、お米は山形県・青木功樹さん「ミルキークイーン」。味噌味は、「鯖味噌ごはん」で、お米は群馬県・本多義光さん「にこまる」。いずれも家庭でそろえやすい材料で作ってもらいました。

濃厚な「牡蠣と牛蒡ごはん」

牡蠣と牛蒡ごはんは、お米(150グラム)の上にささがき牛蒡と生牡蠣を乗せて昆布出汁(150グラム)と塩(2~3グラム)を入れるだけ。

素材が甘い「ぶり大根ごはん」

ぶり大根ごはんは、お米(150グラム)の上に素焼きしたぶりの切り身とさいの目に切った大根を乗せて、昆布出汁(135グラム)と醤油(15グラム)を入れるだけ。「大根が面倒だったら切干大根でもいい。食感も歯ごたえも出ます。ぶりがなかったらシャケでもサワラでも。魚がなければ油揚げを炙ったのでもいけますよ」(小柳津さん)

鯖の水煮缶で手軽にできる「鯖味噌ごはん」

鯖味噌ごはんは、お米(150グラム)の上に鯖の水煮缶と千切り生姜を乗せて、薄味で作った味噌汁(150グラム)を入れるだけ。「赤出汁だろうと白味噌だろうとお好みで。鯖缶でなくツナ缶でも何でも大丈夫です」(小柳津さん)。今回は八丁味噌です。

「土鍋でなく炊飯器で炊いても問題ありません」と小柳津さん。どれも手軽に作ることができるレシピです。

お酒は、ワインソムリエに相談しながら購入した赤ワイン、白ワイン、オレンジワイン、日本酒、ビールの5種類を特別に持ち込ませてもらいました。いざ、実食です。

ペアリングとは…「おいしいは正しい」

磯の香りが強い「牡蠣と牛蒡ごはん」に合うお酒は…

まずは塩味の牡蠣と牛蒡のごはん。土鍋の蓋を開けると、磯の香りが広がります。お米はほろほろとした粒感と程よい粘りがあり、いくらでも食べられそうな軽やかさです。

生牡蠣とキンキンに冷やした白ワインが合うように、白ワインが合うかな…と思いましたが、まったく合いませんでした。

フルーティーでやわらかく甘みと酸味のバランスがいい白ワインは、そのまま飲むとおいしいのですが、牡蠣の磯臭さが際立ってしまいました。もっとドライな白ワインをキンキンに冷やしたら合うのかもしれません。
同じように、今回用意したオレンジワインはぴりっとした発泡感がありドライですが、香りと風味が華やかなため、牡蠣だけでなく他の2種のごはんにも合わないように思いました。

…ビールあるいは日本酒でした

そんななか、予想通りの相性の良さを発揮したのが、日本酒。そして、ビールはスッキリとした炭酸とキレが牡蠣の磯臭さを流してくれました。

牡蠣ごはんは塩よりも醤油味のほうがお酒に合うかも…とつぶやくと、小柳津さんが「後変(あとへん)すればいい」と言って、醤油、酢みそなどを持ってきてくれました。「そのときのお酒に合わせて、後から醤油をちょっと足したり、海苔で巻いたりしてもいけますよ。牡蠣ごはんを醤油で焼きむすびにしてもいい」と小柳津さん。「薄めの味付けで作っているので変化も柔軟です。ベースのお米にぶれないおいしさがあれば、カレーかけたらカレーが活きるし、海鮮丼にしたら海鮮が活きる。鮨屋でもシャリがおいしくなければ鮨はおいしくならない。ペアリングは難しく考えなくていいのです」(小柳津さん)

「ペアリング」というとちょっと構えてしまいますが、要するにごはんを食べていて「このお酒が飲みたい」という欲求に従えばいいのですね。そして、「このお酒にはこういう味付けが合う」と思ったら、気の向くままに「後変」させる。ペアリングは「こうあらねばならない」ではなく、「おいしいは正しい」。たとえお酒に詳しくなくても気軽に試してみると新しい世界が広がりそうです。

甘みのある「ぶり大根ごはん」と赤ワイン

甘くて食べ応えがある「ぶり大根ごはん」に合うのは…

醤油味のぶり大根ごはんは、その甘さに衝撃を受けました。味付けは出汁と醤油だけ。この甘さは何なのでしょうか。

「ミルキークイーンは、お米自体が甘いだけでなく、甘さや旨みを吸いやすい性質があるのです」と小柳津さん。大根よりもぶりの味わいが勝つと思いましたが、まるでみりんを入れているかのごとく、大根の甘さが前面に出ています。

…意外にも赤ワインでした

醤油とブリの旨みと脂と大根の甘さ。手が伸びたのは、赤ワインでした。「鰻の蒲焼きと赤ワインが合う」と言う人がいますが、今回のぶり大根ごはんは鰻よりも脂っこくなく、味付けも薄め。それでも、赤ワインが合うのは、ワインにあまりタンニンがなく、重すぎないからかもしれません。果実味がありながらほんの少し酸がある赤ワインが、薄めの醤油で味付けした甘みのあるごはんと同じ方向を向いているように感じます。

この実験を始める前は、「そうは言ってもどれも日本酒が一番合うのでは…」と思っていましたが、日本酒もたしかに合うものの、このごはんはやはり赤ワイン。赤ワインよりも白ワインのほうが和食に合う…とも思っていましたが、このごはんは白ワインよりも赤ワインでした。お米の食感がしっとりもっちりと重めですが、ワインがさっぱりとした後口なので、もうひとくち…とごはんに手が伸びます。

白ワインを飲んで「鯖の味噌煮」が完成

青魚の旨みが詰まった「鯖味噌ごはん」に合うのは…

「鯖味噌」と聞くと、みりんや砂糖が入った甘じょっぱい味噌味の「鯖の味噌煮」を想起しますが、今回作ってもらった鯖味噌ごはんの味付けは八丁味噌のみ。すると、不思議なことに甘さが欲しくなりました。

…白ワインを飲むと“あの味”に

そこで、手が伸びたのは、果実味のある甘さが立て続けに食事に合わなかった、あの白ワイン。口の中で鯖の味噌煮の完成…ということでしょうか。不思議です。

黄身を乗せると合うお酒も変わる

「“後変”して味に緩急を付けていくと飽きません。ひつまぶしのように2回楽しむのもいいですよ」という小柳津さんの言葉に誘われ、鯖味噌ごはんに卵黄を乗せて醤油をたらり。すると、鯖の味噌煮から離れたせいか、合うのは白ワインではなく、日本酒に。さらに、醤油の味が加わったことで、赤ワインも合うようになりました。

「後変」として食材や調味料などをひとつ加えるだけで合わせるお酒が変わるということは、ひつまぶしを食べるときも1杯目のごはん、2杯目のごはん、3杯目のごはんとそれぞれお酒を変える楽しみもありそうです。

お米はお酒の締めだけではもったいない。これからはお米をメインディッシュにお酒を飲んでみてはいかがでしょう?

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