幸せなイメージの食べもの
コンビニではおむすびの隣にちょこんと並び、うどん屋ではサイドメニュー。いなり寿司ってなにかと脇役になりがちな存在です。
そのいなりずしをこよなく愛し、“公務”として日々いなり寿司の普及に務めているのが、「いなり王子」こと坂梨カズ(さかなし・かず)さん(以下敬称略)。本業は、クリエイティブディレクター、トータルビューティープロデューサー、地方創生アドバイザー、ファッション&ビューティー講師と多彩ですが、その傍ら、いなり寿司を食べる“いな活”を1日たりとも欠かさず行っています。仕事で海外に行くときもいなり寿司を冷凍して持参するという徹底ぶり。王子がここまで愛するいなり寿司の魅力とは何なのでしょうか。
「いなり寿司を食べていると、甘さと酸味とともに、ほっこりとした思い出や幸せ感がよみがえってきます」
そう話すいなり王子は、子どものころからいなり寿司が好きだったと言います。「私は昭和41年生まれです。私たちが子どものころ、家族で過ごす行事には、必ずいなり寿司がありました。親と一緒になってお揚げの中に酢飯を詰めたり、運動会や遠足など行楽に出掛けるときはお弁当の中にいなり寿司が入っていたり…。『幸せなイメージ=いなり寿司』として、食べていると幸せな気持ちになれるのです」
そうは言っても、いなり王子は子どものころから今に至るまで毎日“いな活”をしていたわけではありません。
いなり王子がいなり寿司の魅力を再認識したのは、約15年前のことでした。現在の仕事と同じ業界の会社から独立した当時、徹夜仕事は当たり前。ある日、徹夜で作った資料を早朝に東京・赤坂にあるクライアント先に届けた後、目の前にあった豊川稲荷東京別院の境内に入りました。すると、明治3年創業の老舗食堂「家元屋」が開いていました。
いなり寿司を買って食べると、ジューシーな甘じょっぱさが疲れた身体に染み渡りました。
それからはクライアント先に資料を届けてから家元屋のいなり寿司を食べるのが日課に。そして、日本全国の店から海外の店までいなり寿司を食べ歩くようになりました。「『人の顔を覚えない』と怒られますが、人の顔がわからないくせに“揚げの顔”はわかるのです。このキメとこの色とこの形だったら、これはどこのいなり寿司か写真だけでもわかります」といなり王子。計算するとこれまでに食べたいなり寿司は1万8000個以上にのぼるのだそうです。