あなたの知らないいなり寿司の世界
当たり前の存在すぎて誰もが知っているつもりになっているいなり寿司。でも、意外と知らないことだらけなのでは? いなり王子にその幅広さと奥深さについて教えてもらいました。

京都市右京区「京都 御室 佐近」の「三角タイプ」いなり寿司(いなり王子instagramより)

「おこわ米八」の「オープンタイプ」いなりずし(いなり王子instagramより)
いなり寿司の形は「俵タイプ」、「三角タイプ」、お揚げの上が開いていて具材が乗った「オープンタイプ」だけではありません。

東京・麻布十番「呼じろう」の「ロールタイプ」いなり寿司(いなり王子instagramより)
最近は、海苔巻きのようにお揚げでごはんを巻いた「ロールタイプ」、お揚げでごはんを風呂敷のようにくるむ「包みタイプ」もあります。
この中で最もポピュラーなのは「俵タイプ」ですが、江戸時代はこれがもっと長い「ロングタイプ」だったそうです。
「江戸時代は、いなり寿司屋さんが降り売りでロングタイプをカットして売っていました。1本で16文。半分で8文。1切れで4文。1文30円の時代です。現代のいなり寿司は高いお店では100円を超えますが、平均70〜80円です。江戸時代のいなり寿司はけっこう高かったのです」(いなり王子)
この江戸を中心に、味付けにも地域性があります。いなり王子によると、「西に行くと酸っぱくなり、東に行くと甘くなります。

「甘さとしょっぱさのバランスが最も平均的で絶妙なバランス」という「神田志乃田寿司」の「俵タイプ」いなり寿司
(いなり王子instagramより)
そして、江戸の中でも甘さとしょっぱさのバランスが最も平均的で、絶妙なバランスなのが『神田志乃田寿司』さんです」。いなり王子は埼玉県で生まれ育ったため、甘めの味付けがなじむそうですが、両親は熊本県出身。家で食べるときは、あまり甘くなかったと言います。「九州は、にんじん、しいたけ、ごぼうなどが入った五目いなり。いなり寿司と一緒に甘いぜんざいを食べるため、両親は甘めのいなり寿司は作りませんでした」
味付け以外にも、いなり寿司は地域によって色もさまざま。たとえば、宮城県仙台市では、もち米を紅ショウガで染めた甘い「赤いなり」。沖縄県では暑さによる傷みを防ぐために茹でて薄くのばして徹底的に油抜きをした薄黄色のいなり寿司。まるで、色や甘さやしょっぱさが日本全国で異なる味噌のように郷土色豊かです。
さらに、定番の食べ合わせも地域によってさまざま。うどんといなり寿司、かんぴょう巻きといなり寿司、前述のぜんざいといなり寿司、さらに骨なしチキンといなり寿司など幅広く、いなり寿司の懐の深さ(?)を感じさせられます。