アナグマってどんな動物?
アナグマについて
「同じ穴の狢(ムジナ)」ということわざがありますが、このムジナとは主にアナグマのことを言います。アナグマの掘った穴にタヌキが住むことがあり、見た目も似ていることから、このことわざは「実は同類」という意味で古くから使われてきました。しかし実のところは同類ではなく、系統的には随分離れています。タヌキはイヌ科タヌキ属、アナグマはイタチ科アナグマ属です。
日本で見かけるアナグマはニホンアナグマで、日本の本州、四国、小豆島、九州地域の里山や森林などに生息しています。北海道には生息していません。
ちなみに世界にはアナグマ属の種が他に2種いて、アジアアナグマとヨーロッパアナグマです。この2種はユーラシア大陸の広範囲に生息しています。
アナグマの特徴
全長約45〜70センチ、体重約5〜13キロの胴長で小さな頭、短い尾が特徴。顔には頭部から目の下にかけて黒い模様があり、鼻筋が白いので、名前の似ているアライグマよりも外見はハクビシンに似ています。その名の通り、5本の指の長い爪を使って穴を掘るのが得意で巣穴を掘って暮らします。
アナグマの生態
夜行性で昼間は巣穴の中で休み、4~5頭の家族からなる群れを形成します。群れで巣穴や縄張りを共有しますが、狩りは単独行動。寒冷地に生息する個体は、冬季になると巣穴の中で冬ごもりを行います。
野生下での寿命は、およそ10年程度と言われているようです。
アナグマの食べ物は雑食性。土を掘るのに適した前足と大きな鼻を器用に使い、土中の昆虫などを食べる他、鳥類、小型哺乳類、キノコなどを食べます。また甘みのある果実を好むため、年々農作物への被害が増加しています。
ニホンアナグマは絶滅危惧種
日本の固有種であるニホンアナグマは狩猟の対象になっていますが、急激な駆除数の増加や農地開発による生息地の破壊、外来種のアライグマとの競合などにより生息数の減少が懸念されています。繁殖率も低いため、自治体によっては絶滅危惧種Ⅱ類や準絶滅危惧種などに指定されています。
※注意事項:ニホンアナグマは都道府県によっては捕獲が禁止されているほか、捕獲数が制限されている場合があります。狩猟をする際には登録都道府県に必ず確認してください。
アナグマとハクビシンを見分けるコツは?
アナグマは、ハクビシンとよく間違われる動物の一つ。2匹にはどんな違いがあるのでしょうか?見分けるコツとして、一番手っ取り早い方法は「体つき」です。
ハクビシンは全長約90~100cmですが、その半分がほぼしっぽ。細身な体から伸びる長いしっぽが特徴です。一方のアナグマは、ぽっちゃり体型。特に秋になると、冬に備えて脂肪をたっぷりと溜め込むため、かなりずんぐりむっくりした体つきになります。そしてしっぽも短いです。
もう一つの見分け方が、正面から見た「顔の模様」です。ハクビシンの顔は、頭から鼻先まで伸びた白い線状の模様が特徴的。遠くからでも目立ちますし、他にも目の上下や耳の前に白いまだら模様があります。そして鼻はピンク色です。
アナグマの顔は、全体的に白色から明るめの茶色で、目の周りの縦に伸びる黒模様が特徴的です。またアナグマの鼻は大きくて真っ黒、体のわりに顔と耳が小さいのも見分けるポイントでしょう。
アナグマがもたらすさまざまな被害
作物の被害
自治体によっては絶滅危惧種に指定されているニホンアナグマですが、国内の竹林の増加により巣穴作りに適した生息域が広がり、アナグマの数が増加している地域もあります。人里を最高のエサ場として農作物への被害も拡大してきました。
頻繁に見られる被害状況としては、イチゴ、スイカ、トウモロコシや落花生など、アナグマの好物とされる甘みのある作物、柿などの果樹への被害の他、雑食性のため養蚕施設に入り込んで蚕を食べたという報告もあります。得意の穴掘りで農地を掘り起こされたなど、アナグマ特有の被害も発生しています。
建物への被害
また、建物への被害なども考えられます。前述した通り、アナグマは地面に穴を掘って巣をつくる習性があります。基本的には同じ巣をずっと使い続けるため、時間が経つにつれて巣穴は大きくなっていきます。このことから、もし巣穴を建物の下につくられた場合、地盤が緩くなることで建物などが倒壊する恐れがあります。地震が多い日本では特に、こういった被害も問題視されているのです。
アナグマを追い払う被害防止対策は?
アナグマの生態や見分け方・もたらす被害などが分かったところで、ここからは侵入防止策や追い払う方法などを見ていきましょう。
狩猟免許をもっていなくても、アナグマを撃退できる方法をご紹介します。
アナグマの侵入を柵で予防する
アナグマの被害を防ぐために一番重要なのは、地面を掘って農地に入ってくるのを防ぐことです。そのため、ワイヤーメッシュ柵やトタン板での防御がオススメです。トタン板は、侵入防止だけでなく「視界を遮る」効果も期待できます。畑の中の様子をわかりにくくして、アナグマから農作物を守ります。
これらの柵を設置する場合は、柵の下部30cm程を地面に埋め込んで、侵入を防ぎましょう。その際、地上部分の高さが40cm程だと乗り越えられる危険があるため、柵の高さを補う工夫が必要です。柵の高さが足りなくなった場合は、ネットの目合いが4mm以下の「防風ネット」で囲えば爪や歯が通らないため、よりアナグマ対策に有効といえます。
被害発生前ならば、電気柵の使用も効果的です。あえてアナグマが登りやすい40cm程度の高さに設定し、そこに電流を流すことで感電するように誘導します。これは他の中型動物にも有効な装置ですが、アナグマだけは一度でも農作物を食べて味を占めてしまうと、登れそうな高さの柵でも登らずに、より得意な「掘る」行動をとる可能性があります。電気柵は、必ず被害が発生する前に設置しましょう。
設置したら終わりというわけではありません。柵を設置後は「定期的な見回りと点検」を忘れずに行いましょう。具体的には、柵の周辺を定期的に除草すること、柵の破損がないか確認すること、柵の下部にアナグマの掘り起こしの跡がないか確認すること、などがあげられます。
農作物や生ゴミなどを畑の近くに放置しない
規格外の野菜や果物、家庭の生ゴミなどを畑の近くに放置していませんか?
こうした人間の無意識な行動がアナグマを呼び寄せる一因になります。万が一畑まできてしまうと、新たな農作物被害が広がる可能性がありますし、アナグマがここは餌場だ!と認識してしまうでしょう。
アナグマを寄せ付けないためにも、廃棄予定の農作物や家庭ゴミを畑の周りに放置するのはNGです。
アナグマの嫌いな音や光を使って追い払う
アナグマだけでなく、野生動物は強い光や不意の音が嫌いです。赤外線センサーで動物を感知し、強力なLEDライトと人には聞こえない音「超音波」を出して害獣を追い払う装置もあるようです。しかし、機械の音や光は野生動物が慣れてしまい警戒心がなくなってしまう可能性も。そのため時々音を切り替えたり、光の点滅を別のものに変えたり、他の装置と組み合わせて使用するなど、臨機応変に対策していきましょう。
臭いの強い液体をまく
木酢液などのニオイが強い液体を使う方法が効果的です。木酢液などの液体はアナグマを追い払う効果があり、庭や畑の周囲にスプレーすることで追い払うことができます。液体をまく場所は、アナグマの出入り口や行動範囲に近い場所が効果的です。雨や風によって液体が流れてしまうことがあるため、効果を持続させるためには天候の変化や使用説明書の指示に従いながら定期的に液体をまき直しましょう。
獣除けの商品はホームセンターなどで入手可能
こういった獣除けの商品は市販されており、ホームセンターやペット用品店などで入手できます。効果や効果の持続性には個体差がありますので、使用する際には取扱説明書をよく読み適切に設置・使用することが重要です。アナグマを追い払う際には環境や動物の生態、行動にも十分に配慮して対策を行いましょう。
アナグマは捕獲や駆除しても大丈夫?
日本にいるすべての野生動物は「鳥獣保護管理法」という法律で保護されているため、野生動物を勝手に捕獲や駆除をしてはいけません。違反した場合には、1年以下の懲役または100万円以下の罰金が科せられることがあります。
しかし、アナグマは狩猟鳥獣46種に含まれるため、狩猟しても問題ありません。
捕獲・駆除するためには、県や市町村などの役所に許可を得て捕獲する「許可捕獲」と、狩猟期間中に狩猟可能な場所で捕獲する「狩猟捕獲」のどちらかの手続きを行う必要があります。どちらの場合も、基本的には狩猟免許の取得や申請許可などの手続きが必要です。
詳しくは、各都道府県の自治体または下記の野生鳥獣の保護及び管理(環境省)ページのご確認ください。
◆参考
鳥獣保護管理法の概要(野生鳥獣の保護及び管理[環境省])
アナグマの許可捕獲をおこなう際の手順は?
アナグマの許可捕獲を行う際には、一定の手順を踏む必要があります。ここでは、捕獲許可の申請について詳細を解説していきます。
捕獲許可の申請
アナグマは一部の地域で鳥獣保護法によって保護されており、捕獲には許可が必要です。そのため、アナグマの捕獲を行う際は、事前に所轄の環境省や自治体に捕獲許可を申請しましょう。捕獲許可の申請書は、所轄の環境省や自治体のウェブサイトや窓口で入手可能です。申請書には、捕獲予定のアナグマの数や捕獲方法、地域、期間などの情報を記載する必要があります。
また、申請書以外の書類も必要な場合があり、鳥獣保護法に基づく特定鳥獣駆除の場合には駆除計画書や事前に行われた駆除の報告書などが必要とされることがあります。必要な書類を確認し、準備を行いましょう。
申請書など必要な書類をそろえたら、所轄の環境省や自治体に捕獲許可の申請を提出します。申請書の提出方法や期限は、所轄の環境省や自治体の規定に従って行いましょう。申請が承認されると捕獲許可が下りますが、条件や制限が付与される場合もあるので注意して確認しましょう。
罠を仕掛けて捕獲
アナグマを捕獲する際には、罠を使用して生体を捕らえる方法が一般的。罠の設置には慎重な準備と適切な手順が必要です。罠の種類や大きさ、仕組みや材質などを選ぶ際には地域の法律や規制、許可の条件に合致しているかを確認しましょう。
さらに、猟具を使用して害獣を捕獲する場合は狩猟免許が必要です。狩猟免許を取得していない場合、罠を設置することは法律で禁止されていることがあります。免許取得には講習会の受講や試験への合格が必要であり、適切な手続きを踏むことが求められます。
生息場所や行動パターンを考慮して罠を設置する場所を選定し、罠を設置する場所が公共の場であれば、許可を得る必要があることを忘れずに確認しましょう。
罠を設置した後には定期的に罠を点検し、アナグマを確実に捕獲できるように管理する必要があります。罠にかかったアナグマが怪我をしないように注意し、許可された捕獲期間を守りましょう。
アナグマが怪我をしないようにする理由は、動物に不必要な苦しみを与えないためです。また、怪我をすると弱ってしまったり、処理が難しくなったりするので注意が必要です。
捕まえたアナグマを処分
アナグマを処分する際には所轄の環境省や自治体の規定に従う必要があり、法律や規制に違反しないように注意しましょう。第一に、捕まえたアナグマを人道的な方法で処分することが重要です。例えば、環境省や自治体の指示に従って適切な方法で安楽死させるなど、アナグマが苦痛を感じないように処分しましょう。
アナグマの許可捕獲においては、事前に許可された方法での処分を行う必要があります。許可された方法に従って、適切に処分を行いましょう。
許可捕獲後には、環境省や自治体へのレポートの提出が必要な場合があります。捕獲したアナグマの情報や処分方法を正確に記録し、レポートを提出するようにしましょう。
アナグマを見つけた場合の連絡先は?
アナグマを発見した場合、行政や害獣駆除業者に通報するべきか迷ってしまうことでしょう。ここでは、アナグマを見かけた場合、どこかに通報するべきなのかを解説していきます。
行政への連絡の義務はない
一般的には、アナグマを見つけた場合に行政への連絡の義務はありません。アナグマは野生動物であり自然の中で生息する生き物なので、アナグマが人間の生活に影響を及ぼすような場合は稀です。ただし、人や家畜に危害を加えるような状況がある場合には、関係する自治体や環境保護団体に連絡することが適切です。
例えば、アナグマが人家の近くに巣を作ってしまった場合や、農作物を荒らされるなどの被害があった場合には、自治体の環境部門や獣医師会などに相談するのがよいでしょう。また、アナグマを保護しようとする場合には、野生動物保護団体や動物愛護団体に連絡するのも一つの方法です。
駆除業者に相談も
アナグマによって生活に害が及ぶ場合には、駆除業者に相談することも一つの選択肢です。アナグマは地中に穴を掘って生活するため、農地や庭園などに被害を与えることもあります。その場合は、専門の駆除業者を利用しましょう。駆除業者は適切な方法でアナグマを駆除してくれるので、被害を最小限に抑えることができます。しかし、駆除業者に依頼する際には法律や規制に従って適切な手続きを行うことが大切です。
アナグマが隠れている場所は?
アナグマは地面に大きな穴を掘って生活することで知られていますが、実際にはどこで生息しているのでしょうか。ここでは、アナグマが隠れている場所について解説していきます。
民家の床下
アナグマは地面に大きな穴を掘って生活することで知られていますが、都市部や農村地帯などでは民家の床下を隠れ家として利用することもあります。民家の床下はアナグマにとって暗くて静かであり、食物を求めて周辺を徘徊する際に利用されることがあります。特に床下の通気口や隙間などから侵入し、隠れてしまうことがあります。家の中で不快な動物臭や鳴き声が聞こえる場合には、アナグマが住み着いている可能性を疑ってみましょう。
木が多い場所
アナグマは、木が多い場所を隠れ家として利用することがあります。森や林の中を自在に移動し、樹木の根元や倒木の下などに隠れることができます。木が密集している場所や茂みの中、または森の中にある空間を利用して昼間は休息し、夜間に活動することが多いです。アナグマは自然環境に適応し、樹木を活用して身を隠しつつ捕食者や人間の目を避けながら共存しているのです。
アナグマは野良猫を食べる?
アナグマに関する噂の一つに「野良猫を食べる」ということが巷でささやかれています。
ここでは、そんなアナグマの噂に関する疑問について、解説していきます。
猫を食べることはない
アナグマと野良猫はどちらも都会や田舎の庭先や公園などで生活している姿を見かけることがありますが、アナグマが野良猫を食べることはありません。アナグマは一般的に小型哺乳動物や昆虫を食べる動物であり、食物の範囲は昆虫やミミズ、果物や種子、小型哺乳動物など多岐にわたりますが、野良猫はその食物の範囲には含まれません。また、アナグマは比較的小型の動物であり野良猫と比べて体が大きいわけではないので、野良猫を捕まえるのは困難であると言えます。さらに、野生の動物であるアナグマは人間の居住地に近づくことを避ける傾向があります。
まとめ
一般的には馴染みが薄く、他の動物と比較するとまだまだ謎な部分が多い二ホンアナグマ。アナグマ対策最大のポイントは、ズバリ「侵入させないこと」「穴を掘らせないこと」です。まずは、その生態や行動を知り、個人でできる防護対策と地域ぐるみでの対策を重ねて、農作物への被害を食い止めたいものです。相手は穴掘りの達人です、地面の下からの侵入・巣穴作りを徹底的に防ぎましょう。