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民泊新法でどう変わる?農泊のホントの定義【これからの農泊 第1回】

民泊新法でどう変わる?農泊のホントの定義【これからの農泊 第1回】

2018年6月15日に住宅宿泊事業法(通称:民泊新法)が施行され、世界初の国単位での民泊のルールが制定されました。一方で、「農泊」というものが最近にわかに外国人観光客の注目を集めています。これは一体「民泊」とどのような違いがあるのでしょうか?農泊の定義や制度について、株式会社百戦錬磨の上山康博社長に話を聞きました。

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あいまいな農泊の定義に終止符!

※画像はイメージです

「民泊」という言葉が一般によく知られるようになり、良くも悪くも「一般の住宅を宿泊場所として提供する」という概念が普及しています。
一方で、「農泊(※1)」とはどのようなものなのでしょうか。
「田舎で兼業農家をしている民宿に泊まること?」
「農家さんが自分の家に泊めてくれること?」
「農村地域だったら、別に農家でなくても良い?」
概念がこんがらがっている筆者は、その疑問を解決するため、創業当初から「農泊」の分野で事業を展開している、株式会社百戦錬磨の代表取締役社長、上山康博さんを直撃しました。


★上山 康博(かみやま・やすひろ)氏★
株式会社百戦錬磨 代表取締役社長
一般社団法人日本ファームステイ協会 代表理事
<略歴>
2007年8月まで、KLab株式会社取締役事業本部長を経て、2007年9月に楽天トラベル株式会社執行役員(新規事業担当)就任。2012年同社を退職後、同年6月に株式会社百戦錬磨を設立、同社代表取締役社長に就任。

農泊とは?

――最近「農泊」という言葉を耳にするようになりました。これはいわゆる「民泊」とどう違うのでしょうか?

まず、上位概念としての民泊を「都市民泊」と「農村民泊(農泊)」に分けて考えます。世間で話題になっているのは「都市民泊」の方ですね。そして、農泊は「農林漁家民泊」、「農家民泊」と、「非農家民泊」に分かれます。
農業体験などの農家の暮らしを体験するための「農林漁家民泊」や農家に宿泊する「農家民泊」は、その家のオーナーさんがいるところに泊めてもらう形式です。

東洋大学 青木辰司名誉教授の資料より作成

欧米は、農村で長期滞在する農泊が中心

―オーナーさんがいない形の農泊のイメージが湧かないのですが、どういうものでしょうか?

農泊が進んでいるヨーロッパでは、約8割が「非農家型」の農泊です。いわゆる「カントリーサイドステイ」と言われるものですね。これは空き別荘を利用したりする「バケーションレンタル」で、長期滞在を想定しています。
日本ではそうしたものはほとんどありませんので、地域の空家を活用する形で拡大していけると思います。

これまでの日本の「農泊」のスタイルは?

―これまでの日本の農泊はどんなものが多かったのでしょうか?

ほとんどがホームステイ型で「教育旅行の受け入れ」が中心ですね。教育の一環として中高生などを農家に受け入れて農業体験をしてもらうという、とても意義のあることです。しかし、経済にはなりづらい面もある。こうした教育旅行の受け入れをしていた農家さんたちが高齢化して受け入れがしんどくなっているのも事実です。せっかく良いことをしているのに、長続きしません。後継者不足も問題です。

経済として回る農泊とは

農泊によって農村が変わる?

―地方では農家に限らず後継者不足が深刻ですが、農泊はその解決策になるのでしょうか。
そう思います。例えば、地域で民宿を経営している人が近隣の空家のいくつかを管理する形で受け入れを増やしていく。そこでいろんな人に農業との接点を持ってもらうことによって、農業に関わる人、就農者を増やしていくこともできるでしょう。また、長期滞在の農泊を通じて、お試し移住もできます。地域になじんで、その土地が気に入ったら本格的に移住する、ということもできます。

農林水産省「農泊の推進について」より抜粋

ホテルや旅館での宿泊との違い

―いわゆる普通の宿泊施設と違って、地域や農業とのかかわりが深いのが農泊なのですね。

そうです。農泊は、「明⽇の⽇本を⽀える観光ビジョン(平成28年3⽉30⽇)」(※2)において、「⽇本ならではの伝統的な⽣活体験と⾮農家を含む農村地域の⼈々との交流を楽しむ」ものとされています。要するに、「体験」と「交流」を伴う宿泊を農村で展開していくことで、農泊体験として観光コンテンツを創出することです。
結果として、地域の使われていない遊休資産を活用し、農村に暮らす方々や地域の所得の向上で地域の経済が回り、仕事が生まれることで移住者が増えるという循環です。

農泊は「民泊新法の範疇」?

要は合法であること

―いわゆる農泊は、「民泊新法」に基づいたものをいうのですか?
実は「農泊」は、いわゆる「民泊新法」と呼ばれる住宅宿泊事業法によるものだけを言うのではありません。
民泊または農泊を行うには、旅館業法、国家戦略特別域法も含めた3つの法律のどれかにあてはまればよいのです。ルールに則って合法であることが重要です。

①旅館業法(簡易宿所) ②国家戦略特別区域法 ③住宅宿泊事業法(民泊新法)
施行日 2016年4月改正 2014年4月 2018年6月15日
許認可 許可 認定 届け出
最低宿泊日数 1泊2日 2泊3日 1泊2日
年間営業日数 制限なし 制限なし 180日以下で上限を設定
(地域条例で設定あり)
実施可能エリア 全国 東京都大田区
大阪府(保健所設置市を除く)・大阪市・北九州市・新潟市・千葉市
全国
住宅専用地域における立地 原則不可 原則可(地域条例で設定可) 原則可(地域条例で設定可)
構造上の許可要件 延床面積33㎡以上(定員が10人未満の場合は定員数×3.3㎡以上で足りる)等 1居室25㎡以上
各居室が、台所・浴室・便所および洗面設備を有すること等
定員数×3.3㎡以上。
台所・浴室・便所および洗面設備を有すること

―では、農泊をやってみたいと思ったら、何から始めればよいのでしょうか?

まずは、どこでやるかを決めることです。自宅、使っていない別荘…、それがどこの自治体にあるかも含め、その場所や自分のやりたいと思う農泊の形に、どの法律が適合するかを見極めます。
②の国家戦略特別区域法は地域が限られますから、一般的にどこでも使えるのは①の旅館業法か③の民泊新法です。一番の違いは営業日数の違いですね。
国土交通省の「民泊制度ポータルサイト」や厚生労働省の生活衛生課の旅館業のページでも情報が得られますし、直接問い合わせることもできます。

民泊新法の成立は農泊への追い風に

―今回の民泊新法の農泊への効果は。

農泊を行うことのできるルールの選択肢が増えたと思います。地方のグリーンツーリズムでは「体験料」という名目で宿泊サービスを提供していた場合もありました。これからは、明確にそういったサービスも旅館業法または民泊新法に基づいた運営が必要となります。合法的なものであれば、どんな人でも安心して泊まることができますよね。
合法的な施設となることで、これまでの教育旅行だけでなく、日本人の個人旅行も増えるでしょうし、これまで以上に海外からの観光客も年間を通じて受け入れていけると期待しています。
 
◆第2回は、農泊のインバウンド需要についてお伝えします。
 
※1 「農泊」商標の使用について
※2 参考:農泊を中心とした都市と農山漁村の共生・対流(農林水産省)

 
【画像提供】株式会社百戦錬磨
(※冒頭の写真は、農家民宿まとば<福島県二本松市>の様子)
 

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