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農業の市場観を覆す! 農泊 ×インバウンドの可能性【これからの農泊 第2回】

農業の市場観を覆す! 農泊 ×インバウンドの可能性【これからの農泊 第2回】

2017年度の訪日外国人旅行者数は2869万人。政府は2020年までにその数を4000万人にするとしています。旅行慣れしたヨーロッパ系の旅行者を中心に注目が高まっている日本の農泊は、このインバウンド需要をどのように取り込んでいくのでしょうか? 旅行者の求めるものと、受け入れ側の課題、求められる価値観の変化など、農泊に早くから取り組む株式会社百戦錬磨の上山康博(かみやま・やすひろ)社長に聞きました。

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日本は外国人観光客であふれてる?

2017年度の訪日外国人旅行者数は、前年比19.3%増の2869万人。5年間で訪日外国人旅行者数は3.4倍、旅行消費額は4.1倍になっています。
宿泊先としてホテルだけでなく、カプセルホテルなどの簡易宿所も増えています。東京都と大阪府の客室稼働率は引き続き高い水準にあり、2017年は東京都が80.1%、大阪府が83.1%となっており、都市部の受け入れは限界が近くなっているようです。
一方で、地方にも外国人に人気のスポットは多くあり、地方の外国人観光客数の伸び率は都市部のそれを上回っています。
※ 国土交通省 観光白書 平成30年度版 第1部 平成29年 観光の動向(PDF)

そんな中で、前回の記事でもご紹介した通り、長い休暇をとる習慣のあるヨーロッパ系の観光客を中心に密かな人気の農泊。外国人観光客がやってくることによって、日本の農村がどのように変わる可能性があるのでしょうか。
前回に続き、株式会社百戦錬磨の上山康博社長に伺います。

日本の農村は“素材”として魅力的

──日本の農村に来る外国人観光客は、やはり欧米系の方が多いのですか。

そうですね。世界の旅行者の半分弱がヨーロッパ系の方なんです。中でもイギリス・フランス・ドイツの方が多い。彼らが世界の旅行のトレンドを引っ張っています。
まずヨーロッパ系の旅行者がSNSなどで「〇〇に行ってすごく良かった」と発信すると、次に英語圏の人々がそれに反応してやってくる。英語圏の人が英語で発信すると、英語のわかる人々がやってくる。その方々が自分の母国語で発信するとその国の人がやってくる……という連鎖があるように思います。

──日本の農泊が外国の方の人気を集めている、ということは、やはり日本の農村は外国の方にとって魅力的なのでしょうか。

「日本の農村は魅力的」と単純に言ってしまうと、それは語弊があると思います。確かに日本の農村は“素材”としては素晴らしいです。例えば、雪の中の生活は大変ですが、雪が降らない国の人にとって、雪の風景やその中の暮らしは最高に価値がある。
しかし、野菜や肉だって素材のまま出されても食べられないものが多いですよね。だから、素材にはきちんと“料理”が必要なんです。

──それは、きちんと田舎の家をリノベーションして、観光用に美しく整備するというようなことですか。

いいえ、そうではないんです。無理によそ行きにする必要はない。日本の原風景やホストとの交流は、外国の方に非常に好まれています。旅行慣れした方は「違う文化の中に身を置くことが旅である」という意識が根付いていますから。
普通の民家で大丈夫。ただ、お客さまを迎え入れるための最低限の準備として、荷物の整理整頓や掃除がされて、小奇麗になっていればそれでいい。大事なのは、その先なんです。
僕は、農泊は「観光の6次化」だと思っています。

──観光の6次化ですか!初めて聞く言葉です。具体的にはどのような意味なのでしょうか。

日本の人にとって当たり前の文化や食事を、その場でしか体験できないものとして付加価値をつけることですね。
具体的な例で言いますと、オーナーさんが作るおにぎりのようなものでしょうか(笑)。その人のその手で作るものは、その場でしか楽しめない。
実は、農泊は“ダイレクトマーケティング”のスタートなんです。

──地方の農家と購買者が直接出会うことができる、ということですね。

そうです。実は、これまでの農家は、生産はするものの自分たちでそれを売ったことがない方が多いですよね。つまり、商売をしたことがないということ。買う人の顔を見たことがない。
でも農泊は、農産物の最終的な購買者が自分のところにやってくる。お客さまの評価がダイレクトにわかるんです。例えば外国人観光客が「おいしい」とその場で反応してくれる。自国に帰り、日本で食べたものを「おいしかったな。また食べたいな」と思い、越境ECでの購入につながる。つまり、一番のPRの場なんです。

農泊は日本の農業にマーケットインの価値観を作る

──農泊に来てくれた外国人観光客が、日本の農産物の購買層になっていくということですね。

それもありますし、実際に日本で食べたり体験したりした人が、日本の農産物のクオリティを担保してくれることにも意味があります。SNSなどを使って、世界中のインフルエンサーが日本の農産物の市場を作っていくんです。それがまた新しい価値を生みます。買う人の価値観を大切にした市場づくり、まさにマーケットインです。
だから、市場に合った「値付け」が大事です。これまでの日本の農業には、そうした視点はなかったと思います。

先日地方に行ったとき、カキを食べたんです。天然物と養殖物、どちらもおいしかった。そしてお会計をするとき、天然と養殖で価格に大きな差があって、びっくりしたんですが……。

──天然物だから、すごく高かったんですか?

いいえ。高いのは養殖物の方だったんです。養殖はどうしても施設や人件費など、原価がかかるから、高くなる。でも、その地域で天然物のカキは手をかけずにただ取ってくるだけのものだから安い。
でも市場の考え方からすると、天然物のカキは流通に乗らないから希少価値が高いので、価格が高くなるのは当然ですよね。
今までの農業は、養殖物のカキのように原価を積算して価格を決めていた。でも、外国の人にとって「ここにしかないもの」は非常に価値があります。そういう市場の求める値付けが必要なんです。世界に目を向けると、どれだけの価値を作れるだろう、と思います。

農泊への参入は「第1次産業分野のベンチャー」の立ち上げ

──そうした伸びしろのある産業なら、どんどん挑戦する人が増えそうですね。

そうですね。こういうことが広がると地域に“そこにいる意味“がある仕事が増えますから、地域への流入も増えると思います。農泊を始めることは、地域に第1次産業分野のベンチャーを立ち上げることにつながります。ベンチャーとは、これから大きくなっていく可能性があるということ。地方で何かしたい人には大きなチャンスです。

──新たに農泊の事業を始めたい方に、何かアドバイスは。

初めから過剰な投資をしない、余計なものを捨てて掃除をする(笑)。本当によそ行きは必要ないんです。外国の方にはありのままが好まれます。
ただ、外国からくる方は、Webの情報をもとにやってきます。だからWeb活用はとても大事です。特に写真ですね。その地域でどんな体験ができるのかイメージできる写真をできるだけたくさん撮ることです。“インスタ映え”じゃありませんが、写真をきれいに見せるちょっとした加工も必要です。旅行者モニター派遣によるお宿の写真撮影サービスなどもありますので、ご興味のある方はお問い合わせください。

──言葉の問題はどうですか。

直接会っての外国人とのコミュニケーションは、通じないのも楽しい。今は翻訳アプリなどもありますし。でも、電話やメールなどの問い合わせ対応はかなりハードルが高いようです。弊社では「農泊コンシェルジュ」サービスを新開発し、専任コンサルタントによるご相談窓口や、外国人の問い合わせ対応などを含んだインターネット集客サポートなどを行います。苦手分野は人の手を借りることも一つのやり方です。このような弊社のサービスを使って、最初のセミナー参加から1カ月で開業した方もいらっしゃいます。現在半年ほど経ちましたが、毎月たくさんの国内外の旅行者を受け入れる人気宿になっています。

──現在見えている農泊の地方への良い影響とは何でしょうか。

現在は、地方の高齢の方が始められることが多いです。いつも自分のために作っている料理を遠くから来た観光客が食べておいしいと言ってくれる。そうした経験が、高齢の方の生きがいにつながっています。そして何より、一定の収入になっています。

──今後、どのような方が農泊に参入することが期待されますか。また、農泊の発展の展望についてもお聞かせください。

今後は、先ほどご説明したような可能性を感じて、若くて意識の高い方が「これからは農業の時代だ」と参入し、空家などを活用して農泊の事業を始める場合もあるでしょう。
また、外国人自身が参入する場合もあると思います。海外の方が日本を気に入って住み着く形で農泊を始めてくれたら。留学生やALT(外国語指導助手)などは可能性が高いと思います。地域に一人外国語ができる人がいると違うんですよ。その人の発信で、その人の母国の人が来てくれるようになります。
日本人にとって当たり前の“日常”が、外国の人にとっては魅力ある“非日常”であるという旅行者の視点を持っている人が、しっかりとその価値を発信していってくれれば、もっと日本の農泊の伸びしろが広がり、多くの外国人観光客が地方に訪れる理由になると確信しています。

 

【取材協力・写真提供】株式会社百戦錬磨

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