暑さに強い奇跡の米「彩のきずな」が日本一暑い街で誕生

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暑さに強い奇跡の米「彩のきずな」が日本一暑い街で誕生

暑さに強い奇跡の米「彩のきずな」が日本一暑い街で誕生

最終更新日:2018年08月27日

この夏、観測史上国内最高気温となる41.1℃を記録した日本一暑い街・熊谷市。そんな熊谷市にある埼玉県農業技術研究センター玉井試験場(以下、研究センター)では、100年以上も稲の品種開発に取り組んでおり、暑さに強い新品種の開発に成功しました。“奇跡の米”といわれる新品種「彩のきずな」の誕生までに直面した苦難と歴史について、研究センターの荒川誠(あらかわ・まこと)さんにお話を伺いました。

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脈々と受け継がれる品種の系譜

病害虫に強い品種「むさしこがね」の誕生

埼玉県は“都市近郊農業”といわれ、田んぼと住宅が隣り合っているのが特徴です。そのため、住環境に農薬が入り込まないように気を配っている地域でもあり、研究センターは農薬を使わなくても病害虫に勝てる米の開発に力を注いできました。さて、「彩のきずな」の原点は1980年代まで遡ります。
当時、稲の葉が枯れてしまう縞葉枯病(しまはがれびょう)が関東近郊で猛威をふるっていました。ヒメトビウンカという害虫が媒介として感染するウイルス病であり、一度発生すると治す薬がありません。県内の米農地約45,000haの半分の約22,000haが縞葉枯病にかかり、米の収穫量は激減。農家を苦しめていました。

縞葉枯病にかかると、葉は黄緑色または黄白色の縞状になり枯れてしまう

そこで研究センターが開発したのが、病気や害虫に強い「むさしこがね」です。救世主の誕生により縞葉枯病は鎮静化され、埼玉県の米の単収を15%も改善しました。また、ヒメトビウンカがウイルスを獲得する機会が減少したことによって保毒虫率が下がり、病気の発生が減ったことで、病害虫に弱いコシヒカリも作れるようになるなど、大きな功績を残しました。

美味しさを求めた「彩のかがやき」

そんな「むさしこがね」も、日本の食生活が豊かになり、消費者が美味しい米を追求するようになると、陰りがみえてきました。研究センターでは、病害虫に強いだけでなく、消費者が好んで選ぶ美味しい米の開発に向けて、「愛知92号」(後の「祭り晴」)と「玉系88号」(後の「彩の夢」)から育成をはじめました。父となる「彩の夢」は病害虫に強い品種でしたが、米に含まれるタンパク質が多いという欠点がありました。タンパク質の多い米は、炊飯時の吸水を阻害し、硬くて粘りが少なく、味も劣るといわれているのです。
そこで研究センターでは、近赤外線分析計を利用し、タンパク質の低い品種の選抜をおこない「彩のかがやき」の育成に成功しました。病害虫に強くて美味しいお米「彩のかがやき」は、本格的に普及しはじめた2008年から2年後の2010年には作付面積が12,000haにまで達し、埼玉県では官民一体となった推進活動が進みました。

「彩のかがやき」作付面積の推移(平成29年度 埼玉県農業技術研究センター)

猛暑の中で生き残った1株

研究センターでは、交雑育種法という方法で品種改良を行っています。理想の稲をつくるため、母親、父親となる品種を選び、交雑させ雑種を作ります。年間約50組み合わせの交雑を行い、1つの組み合わせから1,000~2,000の雑種を作るので、その数は約80,000種類、その中から理想の稲を選び出します。選抜と交雑を続け、10年の月日を経てようやく1品種が生まれる地道な作業です。

研究センターの荒川氏。背景には開発中の稲が広がる

「彩のかがやき」に続く新品種の開発に取り組んでいた荒川さんのチームを襲ったのは、2007年の夏。多数の品種をようやく300種類まで絞り込んだ時でした。熊谷市で40.9℃を観測し、「彩のかがやき」はもとより、「コシヒカリ」「キヌヒカリ」など、多くの米が高温障害の打撃を受けました。開発中の300種類も、登熟(お米にデンプンが詰まっていく過程)不良で米が白く濁ってしまう白未熟粒(しろみじゅくりゅう)が大量発生し、絶望的な状態でした。しかし、そんな中で奇跡的に1種類だけ白く濁らなかった材料があったのです。過酷な環境を耐え抜いた1株。その1種を大切に増やし続け、9年の時を経て誕生したのが「彩のきずな」でした。

日本一暑い街がつくる米

「彩のきずな」は何故生き残ったのか?

他の米と比べて何が違ったのでしょうか。荒川さんは、赤外線サーモグラフィーを見て驚いたといいます。「稲は日中、根から水を吸い上げ、気孔から蒸散します。その際、帰化熱で葉の表面温度が下がります。高温が続くと、水の吸い上げが追いつかないため、稲が体内の水の蒸散を防ごうと、気孔を閉じてしまいます。「彩のきずな」は、日中最も温度が高くなる午後3時ごろでも、他の稲と比べて表面温度が約1℃も低かったのです。これは水を吸い上げて蒸散を続けることが出来ている証拠。人間でいうと、水分補給をしながら汗をかいて体温調整ができている状態でした。」

赤外線サーモグラフィーによる出穂期の表面温度 左「彩のきずな」・右「キヌヒカリ」(2012年9月7日撮影)

いつでも美味しい米がつくれる街を目指して

「彩のきずな」は2017年に一般財団法人日本穀物検定協会において、県東部で26年ぶりとなる「特A」を獲得しました。このことについて、「暑さに強い稲ができれば、埼玉県のような暑い地域でもおいしいお米が獲れることを証明できたと思います。」(荒川氏)
研究センターでは「彩のきずな」を超える更なる品種開発に取り組んでいるといいます。今後、温暖化が進めば、8月中旬以降に穂が出る「晩生(おくて)」でも厳しい暑さに晒されることが予想されるため、「晩生」の品種開発を進めるそうです。これが実現すれば、米農家はどの時期でも、暑さで米が白く濁る心配がなく、おいしいお米を生産することができます。
“日本一暑い街”は数々の苦難に直面しながら品種開発を実現してきました。日本各地で異常気象が発生する昨今、熊谷市の取り組みは先駆的であり、近い将来こうした取り組みに他の地域が続く日がくるかもしれません。

<関連記事>地球温暖化で変わる日本の農業

<参考>
埼玉県農業技術研究センター
一般財団法人 日本穀物検定協会

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