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アグリカルチャーとは?IoTで農業の大変革が起きる?解消できる農業の課題は?

アグリカルチャーとは?IoTで農業の大変革が起きる?解消できる農業の課題は?

農業のIoT化が進み、テクノロジーの力でさまざまな工程を管理できるようになってきています。しかし、改めて農業のIoTとは一体どのようなことを言うのかと聞かれると、いまいちわからないという人も多いのではないでしょうか。そして、農業のIoT化はどこまで進んで行くのか、日本農業はこれからどのような道を辿るのか、不安な気持ちを抱えている人もいるかもしれません。今回は書籍「IoTが拓く次世代農業 アグリカルチャー4.0の時代」を参考に、IoTがもたらす次世代農業について考えます。

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アグリカルチャーとは?

アグリカルチャーとは、「農業」「農学」を指す言葉です。

単なる農作だけではなく、作物の改良や環境問題についての学問も意味します。

アグリカルチャーは、英語で表記すると「agriculture」です。アグリカルチャーの活用は、幅広い課題を解決することにつながります。

アグリカルチャーで解消できる農業の課題は?

担い手不足の解消

農林水産省の農業就業人口に関する調査によると、2010年の農家数は約260万人でした。

しかし、2019年に行われた同調査では、農家数は約168万人にまで減少しています。このように、農業分野は深刻な担い手不足です。少子高齢化により、就労人口が減少していることも原因のひとつです。

この問題を解決するためには、「スマート農業」が有効です。スマート農業とは、ロボットやIT技術を駆使した効率的な農業です。

このスマート農業によって、少ない労働力かつ短時間で多くの作物を収穫することができるようになります。

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耕作放棄地の削減

耕作放棄地とは、「耕作することが目的であるにも関わらず、継続的に放置されている土地」を指します。

農林水産省が発表した「荒廃農地の発生解消状況に関する調査」によると、2014年における荒廃した農地面積は約27万6千ヘクタールです。同調査では、このうちの半分が再利用することができる土地であると推測しています。

農地を個人に代わって法人が管理することは、耕作放棄地の減少につながります。

なぜなら、「後継者がいない」という理由で農地を放置しなくて良いからです。法人が管理を行うことで、後を継ぐ人がいなくても、農地を有効に活用することができます。

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収益化のアップ

農地を法人が管理することは、収益アップにもつながります。法人によって大規模に行われる農業では、多くの人々が就労することになります。

農業がビジネスと直結しているため、就労している人々は「より売れる農作物を作るためにはどうしたら良いのか」「より効率的に農作物を育てるためにはどうしたら良いのか」と考えます。

多くのアイデアにより、ヒット商品やブランド野菜が生まれるのです。

アグリカルチャーを利用した技術の例

農家の負担軽減

農家の負担は、労働だけではありません。動物や台風による被害なども、農家の負担となっています。

このような負担を減らすためには、センサー・カメラや気象センサーが役に立ちます。

センサー・カメラで作物を監視することで、その場にいなくても動物の接近に気づくことが可能です。また、気象センサーを利用すれば、あらかじめ台風や積雪などの悪天候を把握することができます。

農業用ロボットの開発

たとえば、「農業用ドローン」は空中から農薬を散布することができるロボットです。

手元で操作するだけで、広範囲に農薬を散布することができます。

また、「アシストスーツ」は、着用することで体への負荷を減らすことができる製品です。重い肥料を運ぶとき、高いところにある果物を収穫するときなどに活躍します。このような技術を活用することで、高齢者や体力に自信がない人も農作業を行うことが可能です。

農業への入り口が広くなり、新規参入しやすくなっています。

AIを使った生産管理

ロボット技術だけではなく、AIもスマート農業に用いられています。

そもそも、農業に関する知識は、長い年月をかけて培われてきました。農作物が育つ条件は、土壌や気象などさまざまです。それらを主に経験によって継承していましたが、AIによるデータ分析を利用すれば、未経験者でも農業を行うことができます。

なぜなら、データや数値を見るだけで、「作物を育てるためのより良い条件」を理解することができるからです。

企業の成功事例を紹介

ワタミファーム

居酒屋やお弁当で馴染み深い「ワタミグループ」は、2002年に農業に着手しました。「ワタミファーム」は安心安全な食材を消費者に届けることを目的としています。

ワタミファームでは、同じ土地で農作と牧畜を行い、家畜の排泄物から肥料をつくる「有機循環型モデル」を採用しています。化学肥料を使わない有機農業は、環境にもやさしいですね。

ファーマーズガーデン

「ファーマーズガーデン」は、UR都市機構が埼玉県三郷市の団地ではじめた「シェア畑」です。

専門家が常にアドバイスしてくれるため、まったく知識がない人でも気軽に農業を始めることが可能です。

農業を身近に感じることは、農業に参入する人を増やすことにつながります。

また、シェア畑は地域住民のコミュニケーションの場にもなっています。楽しく携わることで、農業に対して良いイメージを抱いてもらえますね。

小田急電鉄

小田急電鉄は、2016年に神奈川県相模原市にある空き地で農業をスタートしました。

生産を始めた作物は、高糖度トマトです。高糖度トマトのブランド化は成功を収め、小田急電鉄が経営する百貨店やレストランにも納品されるブランド野菜になりました。2016年まで、小田急電鉄は農業分野には未参入でした。

しかし、ICT技術を利用したスマート農業によって、未経験の分野でも成功することができました。

ビジネス化する農業について

「IoTが拓く次世代農業 アグリカルチャー4.0の時代」では、最初に日本農業の現状に言及。著者は、日本の農作物は世界トップの品質にもかかわらず、農業は産業としてはうまく行っているとは言えないと言います。

農業生産額が1984年をピークに長期的に低下傾向にあること、離農や耕作放棄地の増加が問題になっていることなど、日本の農業の現状の課題をその理由として挙げています。一方で現状を悲観するのではなく、それは逆にチャンスなのだとも語り、規模拡大や法人化、先進技術の導入、流通改革などによって、新たな農業像の実現が可能だと主張します。

ただし、そのための道筋は簡単なものではありません。現状では農業従事者の所得はおよそ200~300万円と決して多いとは言えず、さらに農作業は「危険、汚い、きつい」の「3K」だという意見も根強くあるからです。

「皆が儲かる農業」を実現するためには、個人で農業を営む現在の体制から、法人営農に移行し、さらに儲かる構造を作っていく必要があるといいます。

実際に別業種の会社が農業への参入をするケースも増えていて、農業はビジネスとして大きな注目を集めつつあるのです。

IoT化が進む農業

IoTとはInternet of Thingsの頭文字を取ったもので、直訳すると「モノのインターネット」です。当書によると、「コンピュータなどの情報・通信機器だけでなく、世の中に存在する様々な『モノ』に通信機能を付与し、インターネットへの接続、相互通信、自動認識、自動制御を可能とする」ことをいいます。

農業においては、国をあげてICTやIoTを駆使したスマート農業や先進農業の政策が進められつつあります。

ただ、実用化できている例はまだまだ少なく、課題も山積しています。実際にIoTが重要だという認識は農業においても広まりつつありますが、具体的にどのように進めていけばわからない、初期投資が高くつくという声も少なくありません。

「アグリカルチャー4.0」はIoTによる農業の大革新

それでは、「アグリカルチャー4.0」とはどのようなことを言うのでしょうか。

著者は、当書で農業の技術革新の歴史について説明しています。農耕文化と文明を生み出した「アグリカルチャー1.0」、肥料や農薬の誕生、品種改良の開始など農芸化学を中心とした「アグリカルチャー2.0」、そして機械化を中心とした「アグリカルチャー3.0」までについて説明したうえで、現在の先進農業はICTの部分的な活用にとどまっているため、「アグリカルチャー3.5」だとしています。

そして、現在私たちが目指すべきは、農業に従事する人すべてが儲かる新たな農業モデルである「アグリカルチャー4.0」だと語ります。そのためには、「3Kの解消」、「他産業並みの所得水準」、「リターンに見合った合理的な投資負担」、「クリエイティビティに富む事業環境」が必要だとした上で、IoTの活用こそがその実現の突破口になるとしているのです。

「アグリカルチャー4.0」を実現するためには何が必要なのか

著者はいまの農業の問題点を4つ挙げた上で、その解決策を示しています。そして、その解決策は個々に行われるものではなく、数多くのソフトウェアやハードウェアで構成された大きなシステムの中で連携し合うものだとしています。

問題点1:農業知見データの蓄積と共有化の遅れ

問題点の1つ目は、農業知見データの蓄積と共有化に遅れが出ていること。農業を進めるうえでは、マーケットニーズ、栽培環境に合った品種、施肥量の実績などさまざまなデータが必要ですが、それらを共有するには至っていません。現状ではほとんどの農家がそれぞれの経験やノウハウに頼るしかないのです。

そしてそれを打開するために、まずは官民の共同投資によるデータベース化のモデル事業を立ち上げることが提案されています。もちろん、データベースの利用は有料なので、利用者がお金を払ってでも使いたいと思うようなものを目指すべきたとしています。

天候などのデータはすでに存在していますが、熟練した農家だけが知りうる知見的なデータは、新規就農者などにとっては、価値あるものになります。

そうした情報を共有できる仕組みの重要性が説明されています。

問題点2:システムの分断

2つ目は、システムが分断されてしまっていることです。現在、多くのシステムが開発されていますが、開発した企業により規格が異なるため、連携できないものも多くあるといいます。

そこで、システムのオープン化と連携が必要だとしたうえで、生産計画や流通計画において、それぞれに必要となるアプリケーションを安価に利用できるクラウドサービスの構築を提案しています。

問題点3:市場ニーズと生産を連携するシステム化の遅れ

3つ目の問題点は、市場ニーズと生産を連携するシステム化の遅れです。的確に栽培計画を立て、品種を選定したり収穫時期を判断したりするためには、市場でのニーズや物流に関する情報を把握することが大切ですが、現状では生産者と市場や流通との情報がうまく接続できていないとされています。

そこで、生産から販売までにおいて、生産や流通のマッチングプラットフォームを作ることが提案されています。

問題点4:高コストでまだら模様の機械化

そして、4つ目は高コストでまだら模様の機械化です。現在、耕うんや施肥、除草などの単純作業は機械化が進み始めていますが、専門的な作業中の判断やデリケートな動きが必要な刈り取りや引き抜きなどの作業については、まだ機械化は一部だけにとどまっています。機械が必要な作業とそうではない作業がまだら模様になってしまっているため、生産性がなかなか上がりづらいのです。

そして、作業ごとに進められているため、それぞれの工程で別の機械が必要だったり、せっかく購入しても稼働時間が短くなったりしてしまい、結果的に高コストになってしまうことも問題となっています。

それを解決すべく、小さな圃場でも使える日本型の農業に合った、経済的で体系的な機械化を進めるべきだとしています。そして具体的には、「DONKEY(ドンキー)」というロボットの開発推進が提案されています。「DONKEY」は、著者が所属している日本総合研究所や輸送機器メーカー、慶應義塾大学などが一体で開発しているもので、自動運転機能を持つ多機能に働く小型のロボットです。実証実験も行われていて、2019年からは農家向けにリースも開始されるとのことです。

著者が示す「アグリカルチャー4.0」実現への提言

最後の章では、「アグリカルチャー4.0」の推進策が提言されています。それは、「アグリデータベースを構築すること」、「DONKEYの開発戦略を推進すること」、「アグリカルチャー4.0特区で成功事例を創出すること」、「アグリカルチャー4.0を農業のグローバル展開のパイオニアとすること」の4点です。そして、それぞれに官民が協働で動くことの重要性も語られています。

「アグリカルチャー4.0」を実現するためには、農業に携わる多くの人がIoTの必要性を認識し、皆が儲かる農業の実現を目指して努力しなければならないのだということが、当書を通じて訴えかけられています。

ただ日々の業務を楽にするだけではなく、日本農業の未来を変えうるかもしれない農業のIoT化。自分にできることは何なのか、一人ひとりがしっかり考えて、日本農業の未来を切り拓くことが大切なのかもしれません。

「IoTが拓く次世代農業-アグリカルチャー4.0の時代」
著者:三輪 泰史、井熊 均、木通 秀樹
出版:日刊工業新聞社

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