解体のモラルとガイドライン
自然に対する感謝
狩猟者が野生動物の命を奪う時、いただいた獲物に敬意を払いたいという思いが自然に生まれます。肉や皮を無駄なく使うのは、狩猟の義務でもあります。ジビエをおいしく食べるためには、素早くていねいに解体を行わねばなりません。言うまでもなく大変な作業ですが、経験を積んで上達していくしかないそうです。
自家消費と一般流通のガイドライン
かつてのジビエは一般流通がほとんどなく、狩猟者が自己責任で食べるものでした。近年の捕獲数増加に伴い、2014年に厚生労働省より「野生鳥獣肉の衛生管理に関する指針(ガイドライン)」が公表されました。現在、一般流通させることができるのは食肉処理施設でさばいた食肉のみと定められています。
狩猟者が自分で解体する場合も、このガイドラインを参考に、衛生面などに十分注意を払う必要があります。ガイドラインには、獲物の取り扱い方、運搬時や食肉処理時の注意事項などが細かく明記されています。
鳥類「カモ」
では、実際の解体手順を紹介します。まず鳥類はカモを例に解説します。主な手順は次のようになっています。
1. 血抜きと腸抜き → 2. 内臓の処理 → 3. 毛抜き → 4. 解体
1. 血抜きと腸抜き
獲物を仕留めたら、現場ですみやかに「血抜き」という作業をします。喉の頸(けい)動脈を切って、血を流し出します。これが「血抜き」です。内臓類もなるべく早く出して肉の温度を下げ、腐敗を防ぐのが望ましいとされているため、最低限、現場で腸は抜いておきます。
2. 内臓の処理
現場で血抜きと腸抜きを済ませたら、あとは家に持ち帰って作業をすることができます。内臓の処理は台所でできます。
鳥類の内臓は、砂肝、肝臓(レバー)、心臓(ハツ)はおいしく食べられます。内臓を取り出すためにお尻から胸にかけて羽を一部むしり、ナイフで皮を切り開き、内臓を取り出していきます。砂肝は中の砂や小石を洗い流します。
3. 毛抜き
毛抜きとは、手で羽をむしりとることです。皮がおいしいので、皮がやぶれないようにていねいにむしります。家で作業をする人は、庭やベランダで、大きなビニール袋の中にカモを入れて抜くと羽が飛び散りません。
羽をむしった後は、バーナーなどでうぶ毛を焼きます。肉に火が通ってしまわないよう、素早く行います。
4. 解体
それぞれの部位に解体します。まず頭、手羽、脚を切り落とします。丸焼き(ロースト)にするときはこのまま調理に入ります。この状態で冷凍することもできます。
精肉する場合は、モモ肉、ムネ肉、手羽、ササミに分けていきます。精肉したら、調理または冷凍保存します。調理は、塩こしょうを振って焼き鳥にしても良いし、残ったガラでスープもとれます。
獣類「シカ」
次に、獣類の解体手順をシカを例に解説します。作業の順番や方法は、人によっても状況によっても変わります。獣類の解体は熟練者の指導のもとで行われる場合が多く、初心者が一人で行うことはまずありません。
1. 血抜き → 2. 内臓の処理 → 3. 皮はぎ → 4. 解体
1. 血抜き
シカやイノシシの場合、とどめを刺した直後の「血抜き」がうまくいくと肉の味がおいしくなります。シカとイノシシの「血抜き」は獲物が仮死状態のときに行われるため、とどめの刺し方でも肉の味が左右されます。仮死状態のとき、獲物の体は硬直していますが心臓がまだ動いていて、動脈を切断すると心臓がポンプ代わりとなって素早く血が流れ出ていきます。山で「血抜き」を終えてから、獲物を解体場所へ運搬し、作業をはじめます。
2. 内臓の処理
まず、はじめに胸から股間までを切開し、次に胸骨と骨盤を切断します。切開した部分から、内臓を取り出していきます。鮮度が良ければ、心臓、肝臓、腎臓などは食べられます。
3. 皮はぎ
首の部分から皮をはいでいきます。ナイフの刃をあてて削いでいくイメージです。この時に尾を切断します。
4. 解体
皮をはぎ終えたら、頭部を外します。次に肋骨(ろっこつ)を切断して2つに割ります。最後に足を切断し、胴体の肉を各部位に切り分けていきます。
以上がおおまかな解体の手順となります。獲物を解体するのは非常に手間がかかり、食べる物の大切さを実感する作業です。そして「命って何だろう……」と、答えのない問いを自分に投げかける部分でもあります。簡単な問題ではありませんが、自然の掟に向き合うことも必要だと思いませんか?
参考文献:
「ジビエハンターガイドブック シカ編」(応用芸術研究所発行)
「狩猟読本」(大日本猟友会発行)
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