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「食べられる校庭」で教育を【後編】「ガーデン・ティーチャー」の仕事とは

「食べられる校庭」で教育を【後編】「ガーデン・ティーチャー」の仕事とは

アメリカで始まり、日本でも少しずつ根付き始めている学校での菜園教育「エディブル・スクールヤード」。【前編】では、アメリカと日本でのそれぞれの取り組みについて、見ていきました。食物をともに育て調理し食べるという体験から、生命(いのち)のつながりを学び、人間としての成長を促す「エディブル教育」は、日本の公立小学校でも実践されています。【後編】では、エディブル教育が行われている東京都多摩市の公立A小学校で「ガーデン・ティーチャー」という学校菜園の講師を務める塚原宏城さんにお話を伺いました。

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塚原宏城(つかはら・ひろき)さんプロフィール

北海道大学土木工学科卒。2002年、札幌市役所に入庁し、7年間下水道事業に従事。その後、環境教育の指導者を志し、2009年に自然学校のパイオニアであるNPO法人国際自然大学校へ。幅広い年齢層に対して自然体験プログラムを企画運営する。2015年、里山を拠点により地域に根差した活動を行うため独立し、「一般社団法人まちやま」を設立。2017年から「一般社団法人エディブル・スクールヤード・ジャパン」と連携し、多摩市の公立小学校で「ガーデン・ティーチャー」を務めている。

「ガーデン・ティーチャー」の仕事とは

枝豆をスケッチする子どもたちを見守る塚原さん

——「ガーデン・ティーチャー」とはどのようなことをするのでしょうか。

学校と連携を取りながら、菜園での授業計画を立てて実践しています。担任の先生たちと連絡を取り合って学校の指導要領を踏まえた上で、エディブル教育が大切にしている、いのちのつながりや循環のしくみについて、菜園で本物に触れる体験を通して学べるような授業を目指しています。

小学校の菜園で授業を行う

——例えばどのような授業をするのですか。

それぞれの学年のカリキュラムに応じて、菜園を中心とした活動をしています。例えば3年生の授業では、「すがたをかえる大豆」という国語の授業と連動して、大豆を育てて収穫し、豆腐を作ったり、枝豆をゆでたりして食べるところまで行っています。

枝豆を触る子どもたち

——子どもたちとの関係はどのようなものですか。

上下関係ではなく、同じ目線に立って、関わるようにしています。よく「どう思う?」と子どもたちに聞くんですね。そうした会話の中で、子どもに聞かれて本当に自分がわからなくて答えられないことも出てきたりすると、「じゃあ、いっしょに考えよう、私も考えてくるね」と答えます。中途半端な情報を教えることはせずに、一緒に考える姿勢を大切にしています。

——「ガーデン・ティーチャー」をするうえで、特にこだわっていることは何ですか。

本物に触れて、五感で感じた上で、自分たちで考えてもらうプロセスを大切にしています。答えに行き着くための手助けはしても、簡単に答えは教えません。例えば、トマトやナスなどの苗を見せて、「これは何の野菜でしょう」と問いかけます。トマトは葉っぱをこするとトマトの香りがするので、子どもたちは記憶をたどって、答えを探します。最終的には、見た目だけでなく香りとセットになって、トマトというものがより深く認知されていくのです。

自然学校から見るエディブル・スクールヤードの魅力

——「エディブル・スクールヤード」にはいつから携わっているのですか。

2017年3月から「ガーデン・ティーチャー」をしています。普段は自然学校をベースに環境教育や食育の活動を行っているのですが、友人を通じてエディブル教育のことを知り、偶然にも自宅からほど近い公立の小学校で実践していることが分かりました。「ぜひ関わりたい!」とエディブル・スクールヤード・ジャパン代表の堀口さんに直接連絡をしたのが始まりです。

——「エディブル・スクールヤード」の魅力を教えてください。

私自身、子どもの頃に「なんで勉強しないといけないのだろう?」と考えることがよくありました。今振り返れば、学校での勉強と日々の暮らし、自分の将来とのつながりを感じられなかったからではないかと思っています。
学校菜園では、「食」が活動の中心にあります。「食」は生きるためには欠かせないものですから、みんな強い興味を持ってくれます。子どもたちが目を輝かせて活動に臨んでくれるのが、何より嬉しいですね。現場では「食」を糸口として、様々な教科、分野に話を展開することができるので、意欲的な学びにつながっていると感じています。

屋外のテーブルで茹でた枝豆を食べる

——普段関わられている自然学校との違いは感じますか。

公立の小学校ですので、自然学校よりもさらに多様な子どもたちと関わることになります。中には障害のある子どももいますが、そのような子ほど、菜園では生き生きと活動に参加してくれます。活動では、すべての子どもたちが輝ける場づくりを目指しています。

学校菜園で子どもたちに伝え続けたいこと

枝豆は天候の不順により大きく実らなかったが失敗も学びに変える

——これから「ガーデン・ティーチャー」としての展望はありますか。

小学校の先生たちは本当に忙しくて、なかなか菜園に関わる時間が取れないのが現状だと思います。一方で、学校菜園を活用することでより効果的な学びにつながることは、A小学校での実践を通して共通認識を得られてきたと感じています。今後は、菜園での授業や管理を担う「ガーデン・ティーチャー」の必要性を発信しつづけ、近い将来職業として成り立つようになればいいと思っています。

——菜園を作る場所がないと、こうしたエディブル教育の実践は難しそうに思うのですが。

本当は教室のすぐ横に菜園がある環境が理想的です。ただ、例えば屋上菜園だったり、プランターを使ったり、近くの農園を借りて複数の学校でいっしょに使ったりと、方法はあると思います。大事なのは、そうした教育をしたいという気持ちではないでしょうか。

——子どもたちに一番伝えていきたいことは何ですか。

暮らしの中に森や田畑が身近にあった時代は、人と自然のつながりが実感としてあったのでしょうが、現代は、人と自然が分断された時代と言われます。でも実際は、私たち一人一人は、地球上のたくさんの“生命(いのち)”とつながっている。そしてそれは循環の仕組みの上に成り立っている。学校菜園という場を使いながら、この自然の真理を子どもたちにじんわり伝わえられたらと思っています。
 
エディブル・スクールヤード・ジャパン
一般社団法人まちやま

撮影協力:清水麻衣さん
 

【前編はコチラ】
「食べられる校庭」で教育を【前編】「エディブル・スクールヤード」とは
 

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