日本酒スペシャリスト・千葉麻里絵さんに聞く!【後編】お燗はお酒と料理の接着剤

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日本酒スペシャリスト・千葉麻里絵さんに聞く!【後編】お燗はお酒と料理の接着剤

連載企画:お米ライターが行く!

日本酒スペシャリスト・千葉麻里絵さんに聞く!【後編】お燗はお酒と料理の接着剤
最終更新日:2018年12月27日

「お燗(かん)は料理」。そう表現するのは、日本酒のスペシャリストといわれる千葉麻里絵(ちば・まりえ)さん。東京・恵比寿にある飲食店「GEM by moto(ジェムバイモト)」店主で、“センス(味覚・嗅覚などの感覚)”と“サイエンス(化学的知見)”によって、日本酒の新しい体験の幅を広げています。【前編】では、温度を上げることで生まれる日本酒の味わいについて、千葉さんに教えてもらいました。【後編】では、燗酒(かんざけ)と料理のペアリングを体験させてもらいます。

お燗で際立つ酸味にフルーツの酸味が「ピタッ」

最初に千葉さんが選んだのは、栃木県の蔵元「せんきん」の「仙禽(せんきん) オーガニックナチュール アン」。原料米は農薬を使わずに地元で栽培された「亀ノ尾(亀の尾)」という品種。「精米歩合が90%という玄米に近いお米を使い、生酛(きもと)で酵母無添加という江戸時代の造りを再現した酒。でも、現代的な味わいです」と千葉さん。

日本酒

「仙禽 オーガニックナチュール アン」。酵母無添加(蔵付き酵母)。2017酒造年度。

 
冷たい状態で飲むと、ヨーグルトのような風味と、桃のような風味。そして、千葉さんが「仙禽独特の酸味」と言う、ほのかな酸味も感じられます。

このままでも甘酸っぱくて十分においしい。でも、千葉さんがお燗をつけたものを飲むと、甘酸っぱさがより際立つようになりました。

燗酒は、【前編】で紹介したように、温度の上げ方で味わいは変わります。
錫ちろりに入れた酒を高温の酒燗器で一気に52度くらいまで上げた後に、氷水で46度くらいまで急冷。低温の酒燗器でゆるやかに52度まで上げて、とっくりに注いで少し温度が下がり、50度くらいで仕上げています。とっくりとぐいのみを温めておくのもポイントです。

この燗酒と一緒に提供されたのは、「柿とマスカットの白和え」。

日本酒

柿とマスカットの白和え。トッピングの刻みクルミは「焦がした感じや苦みによって料理に陰影をつけた」
と千葉さん。香ばしさが料理の味を引き締めていて食べ飽きない

 
「料理とお酒のペアリングのフックになるのが酸味です。一般的に白和えに果物を使うことは少ないと思いますが、うちの店では季節によって桃やイチジクなどフルーツを変えて提供しています。お酒を冷たいままで合わせるのもいいですが、お燗にすると輪郭がはっきりとしたジューシーな酸味が出てくる。すると、料理にぴたっと合うのです」(千葉さん)

白和えの柿を食べ、燗酒を飲んでみると、甘酸っぱさのある後味が極めて似ています。特に、マスカットは見事に同じ。クリーミーな和え衣と、日本酒のヨーグルト感も合っています。「冷たい状態だと“料理を包む”感じで、お燗にすると“ぐいっと引っかかる”」と千葉さんが言うように、甘酸っぱさ、特に酸味がフックとなって、お酒と料理が絶妙にマッチングしていました。

衣の油を流した後にカムバックする春菊の香り

次に千葉さんが選んだのは滋賀県「冨田酒造」の「七本鎗(しちほんやり)」。原料米は滋賀県産の酒米「玉栄(たまさかえ)」の80%精米。仙禽同様に磨きの少ないお米です。

日本酒

「七本鎗」。協会701号酵母。2018酒造年度。

 
仙禽は錫ちろりを使いましたが、今回のちろりは内側が錫で外側が熱伝導性の高い銅。「温度を早く上げると、ドライに仕上がります。酸にもさまざまな種類があって、先ほどの仙禽の酸はやわらかくて横に広がるような酸。一方で、この七本鎗は縦に切れる酸で、太い乳酸が一本筋で入っている感じなので、お燗にすると味が締まって骨格がより太い酸の味になります」(千葉さん)

冷たいままで飲むと、樽(たる)酒のような香りがして、このままで十分においしい。「お燗をつけると、木みたいなニュアンスが枯れたような味になって、揚げ物に合います」と千葉さん。燗酒は高温の酒燗器で65度くらいまで一気に上げて、氷水で60度に急冷した後、再び高温の酒燗器で65度くらいに上げて仕上げています。

燗酒を飲むと、味が凝縮されて、冷たいままで飲むよりも断然おいしい。そして、合わせる料理は、「舞茸と春菊のかき揚げ」。サクサクのかき揚げを頬張った後に、熱々の燗酒をぐいっと飲むと、すっと油を切ってくれます。しかしながら、すべてを消してしまうのではなく、舞茸と春菊の風味が鼻の奥にふわーっと戻ってきます。

日本酒

舞茸と春菊のかき揚げ。ピンク色の大根おろしは赤芯大根。

 
千葉さんは、仙禽と白和えはお酒と料理が接着する「ピタピタ系」、七本鎗とかき揚げはお酒が料理の余韻をきれいにする「ウオッシュ系」と表現します。一口にペアリングと言っても、その手法はさまざまです。

あっという間に燗酒がなくなったため、少しだけ残っていた仙禽の燗酒をかき揚げに合わせてみると、あ、合わない……。ペアリングの妙を実感しました。

甘酸っぱい燗酒にフック満載のカルパッチョ

次に千葉さんが選んだのは、千葉県「木戸泉(きどいずみ)酒造」の「Afruge(アフルージュ)」。原料米は90%精米の酒米「ふさの舞」。シェリー樽で2年貯蔵されたお酒です。

冷たい状態で飲むと、まるでマデイラワイン。日本酒とは思えない味わいです。

日本酒

「Afruge」。酵母無添加(蔵付き酵母)。2016酒造年度。

 
今回は急冷せず、低温の酒燗器でゆっくりと52度くらいまで上げています。とっくりとぐいのみではなく、なんと湯のみで提供されました。ますます日本酒を飲んでいる気がしません。「お燗にすると穀物感が出ます」と千葉さんが言うように、ビスケットのような風味が感じられます。

合わせる料理は、「サンマれんこん梅レモンのカルパッチョ」。れんこんや塩漬けして皮ごとスライスしたレモンの上に、あぶったサンマ。練り梅や木の芽などがトッピングされています。

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サンマれんこん梅レモンのカルパッチョ。刺身には日本酒が合う……と思いがちですが、
「実は、刺身と醤油で日本酒を合わせるのは意外と難しい」と千葉さん。自宅では刺身にオリーブオイルと
山椒(さんしょう)の粉と塩を使ったカルパッチョやサラダがおすすめ。フルーツやミントを添えても良し。

 
「サンマをちょっとあぶっていることで、お燗にしたときのビスケット感と合います。お燗することで際立った酸味が梅とレモンのフックになります。木の芽の香りによってさらに奥行きが出て、酒と料理の一体感が生まれます。これも『ピタピタ系』です」と千葉さん。冷たいままでも十分においしいお酒ですが、お燗にすると甘みや酸味が際立ち、カルパッチョの塩味や酸味にぴたっと合うようになりました。甘酸っぱさがよりはっきりとした燗酒に、青魚特有の風味が一体となるから不思議。「カルパッチョは冷たい酒に合う」という先入観が打ち砕かれました。

お燗で広がる日本酒の新世界

お燗は決して非日常ではなく、日常でも楽しめるもの。千葉さんは「家でもお燗はできる」と断言します。

「酒燗器がなくても大丈夫。電気ポットやケトルのふたを外せば原理は同じ」と千葉さん。あとは、ちろり(お燗用の容器、できれば錫〈すず〉)と調理用温度計があれば再現は可能です。

「七本鎗の場合は冷たいままだと本領が発揮できていないけど、お燗にして完成形になる。仙禽やAfrugeの場合は冷たいままでおいしいけど、お燗にすると余白が出て料理と合わせやすくなる。冷酒で味わいを変える方法はグラスを変えるくらいしかありませんが、お燗は『もっと酸を上げたい』とかチューニングできます」(千葉さん)

冷たい状態とお燗の状態の味や香りを比べたり、お燗の温度帯を変えてみたり、燗酒に合うように料理に食材を選んだりスパイスを足したり。お燗は新しい日本酒の味わい方を探究する、深くも驚喜に満ちた世界に導いてくれます。

 
千葉さんの体験を描いたコミックエッセイ「日本酒に恋して」(主婦と生活社)が11月30日に発売。日本酒にまつわる学びがたっぷりです。
「日本酒に恋して」著・千葉麻里絵/絵・目白花子
 
GEM by moto

 
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