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日本酒スペシャリスト・千葉麻里絵さんに聞く!【前編】めくるめくお燗の世界

柏木 智帆

ライター:

連載企画:お米ライターが行く!

日本酒スペシャリスト・千葉麻里絵さんに聞く!【前編】めくるめくお燗の世界

「お燗(かん)は料理」。そう表現するのは、日本酒のスペシャリストといわれる千葉麻里絵(ちば・まりえ)さん。東京・恵比寿にある飲食店「GEM by moto(ジェムバイモト)」店主で、“センス(味覚・嗅覚などの感覚)”と“サイエンス(化学的知見)”によって、日本酒の新しい体験の幅を広げています。日本酒は温度帯の変化でもっともっと楽しめる。そんな燗酒(かんざけ)の魅力や楽しむコツについて、千葉さんに教えてもらいました。(写真提供:GEM by moto)

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お燗で雑味が伸びやかに

千葉さんは日本酒を化学的にとらえて新しい世界を切り開き、その奥深い可能性を探し求める伝道者。日本酒の魅力を世界へ発信するため、幅広いジャンルの料理人とコラボレーションして、独自のアプローチでお酒と料理のペアリングを提供しています。

千葉さんによると、日本酒は温度帯の変化によって楽しめるアルコール飲料。「日本酒にはアミノ酸が多く、温めるとアミノ酸のうまみが増強します。同じように、アミノ酸が含まれている出汁(だし)、たとえばみそ汁は冷たいよりも温かいほうがうまみを感じやすくなりますよね。日本酒もお燗にすると、香りが膨らむことも相まって、体感的にうまみなどを感じやすくなる。アミノ酸は温度によっておいしくなるとは確立されていないのですが、体感的にそうであることは確実だと思っています」

日本酒

丁寧に燗をつける千葉さん。アミノ酸がほとんど含まれていないワインは、温めると酸が立ってしまう。
だからこそ、ホットワインはフルーツや砂糖やシナモンを入れたサングリアとして楽しまれている

 
ただし、必ずしも「アミノ酸=うまみ」ではないと千葉さんは言います。
「日本酒のアミノ酸には大きな成分が4つあります。うまみを出すグルタミン酸だけではなく、甘みを出すアラニン、雑味や苦みを出すアルギニン、酸味や渋みを出すアスパラギン酸です。雑味や苦みは一種のうまみ。たとえば焼き魚はちょっと焦げたほうがおいしく、コーヒーはちょっと苦みがあったほうがおいしいように、日本酒も多少の苦みや雑味があったほうが味の奥行きが出ます。そして、ちょっと焦げた焼き魚は冷たいとおいしくないし、コーヒーは冷たいと苦さが際立ちます。高い温度は苦みをやわらげてくれるように、日本酒もお燗にすると雑味が伸びやかになって料理と酒の仲を取りもつ“接着剤”になるのです」

お燗

千葉さんの名言「お燗はお酒と料理の接着剤」

急冷の一手間で最後までおいしく

「GEM by moto」のカウンター内には、2台の酒燗器があり、1台は80〜90度、もう1台は60〜70度に保たれています。

「お燗は“料理”。酒燗器やちろり(お燗用の容器)など、温度や道具の素材などで味わいは変わります。味にエッジを利かせたいときは温度を一気に高くして熱めにします。すると、成分の含有量が変わるわけではありませんが、酸味を感じやすくなり、キレが良く仕上がります。一方で、その酒の持ち味を壊したくないときはゆっくり低い温度で上げます」

お燗

右から時計回りに、80〜90度の酒燗器、60〜70度の酒燗器、氷水

 
酒燗器の脇には氷水が入った容器も置かれています。千葉さんがしばしば行うのは、ちろりに入れたお酒の温度を上げた後、氷水で急冷して、再び温度を上げるというお燗のつけ方です。

お燗

お酒を混ぜながら氷水で急冷

 
「燗酒を一口だけ飲むならば急冷する必要はありませんが、とっくりに入れた燗酒を最初から最後までおいしく飲んでもらうためには、この方法で燗をつけると味が持続します。急冷することで味が締まる。急冷せずに一発で温度を上げて仕上げると、後で味の締まりがなくなるんです。特に生酒や、冷酒で飲んでもおいしい“一度火入れ”の酒は、いったん急冷すると味わいが全然違います」(千葉さん)

お燗に合わないお酒とは?

ちなみに、お燗にあまり合わないのは「カプロン酸エチル」系酵母のお酒。酒には酵母由来の香り成分があり、その二大巨頭は「酢酸イソアミル」と「カプロン酸エチル」。香りが華やかな「カプロン酸エチル」系酵母のお酒をお燗にすると、ヤギ臭、ほこり臭、紙臭、油臭などが出てしまうそうです。

お燗

日本酒が最もおいしい状態になるように、香りを確かめながら燗をつける千葉さん

 
「香り成分は濃度によって変わります。同じ成分でも、濃度が薄い場合はりんごやパイナップルの香り。でも、濃度が濃くなると、ヤギやほこりの香りになってしまうのです」と千葉さん。お燗には、バナナやメロンを思わせる自然な香りで落ち着きのある香りの「酢酸イソアミル」系酵母を使ったお酒が合うそうです。

しかし、「カプロン酸エチル」系酵母なのか、「酢酸イソアミル」系酵母なのか、どう見分ければ良いのでしょうか?

千葉さんによると、「大吟醸系は『カプロン酸エチル』、純米系は『酢酸イソアミル』である傾向が強い」そう。次回の「日本酒スペシャリスト・千葉麻里絵さんに聞く!【後編】お燗は料理とお酒の接着剤」では、実際に燗酒と料理のペアリングの妙を教えてもらいます。

 
千葉さんの体験を描いたコミックエッセイ「日本酒に恋して」(主婦と生活社)が11月30日に発売。
日本酒にまつわる学びがたっぷりです。

「日本酒に恋して」著・千葉麻里絵/絵・目白花子

GEM by moto

 
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