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今、リンドウの常識が覆る 兵庫の低標高地で始めた切り花リンドウ

今、リンドウの常識が覆る 兵庫の低標高地で始めた切り花リンドウ

私・伊藤雄大、2年前から直売所で花や野菜を売っているが、農業はド下手くそ。目標の「直売所で月3万円稼ぐ!」ために、農家の先輩に作り方のコツを聞き、その様子をお届けします! 第1回のテーマは仏花に美しい青紫色を添える花・リンドウ。「冷涼な地域でつくられる花」というイメージが強いが、近頃はそんな常識が覆ってきているらしい。決して冷涼とはいえない兵庫県但馬(たじま)地域で「切り花リンドウ」の産地ができつつあるそうだ。但馬のリンドウを盛り上げる一人、「たじまリンドウ生産協議会」の会長であり花き農家でもある高木規之(たかぎ・のりゆき)さんに、そのあらましや、リンドウ栽培の実際を聞くべく畑にお邪魔した。
(画像は高木規之さんと、養成中のリンドウ)

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リンドウには暑さに耐える「血」が入っている

兵庫県北部にある但馬地域(養父<やぶ>市・豊岡市・美方郡・朝来<あさご>市)。冷涼地とはいえないようなこの地域で、しかも標高300メートル以下といった低標高地での切り花リンドウ栽培が盛んだという。
リンドウの本格出荷が始まったのは2016年。需要が安定している仏花に使われること、関西方面にほとんど産地がないうえに、近年は東北地方のものが手に入りにくくなったということで、リンドウをつくることになった。
しかし、これまでリンドウをつくろうなんて考えたことがなかった高木さんたち。暑さで枯れるかもしれない、草丈が短いまま花が咲くんじゃないか──。最初はそんな心配もあったとか。
「当初はそれ程育たないと思って、花を支える網の支柱を低くしてたんやけど、低すぎて困ったくらいよく育った。やってみるとできるもんだ」と、高木さんが笑う。
確かに、高原の湿地帯に自生する「エゾリンドウ」をもとに育種された品種が多い切り花リンドウは「暑いところでの栽培は向かない」というイメージがあるかもしれない。東日本では岩手県や長野県、西日本は標高500メートル以上の高原地帯など、大きな産地は冷涼な地域ばかりだ。
「だけど、誰もやっていないからできないというのは先入観やったな。実際、山口県の平坦地でも耐暑性のあるリンドウを育種して産地化してるんやから」。リンドウにはそもそも、暑いところにも耐える「血」が備わっているのではないかと高木さんは言う。そして、ここ最近では但馬地域のほかにも、和歌山県や奈良県などで、新しい産地をつくる動きがあるという。
「どこの市場も地場産品を欲しがってる。もちろん燃料代高騰で遠方から取り寄せるのがキツくなったという事情もあるやろう」。今、これまでの常識がどんどん覆っている──。今やすっかりリンドウにハマってしまった高木さん、かなり楽しそうだ。

遊休田はリンドウにピッタリ

高木さんに案内してもらったリンドウ畑は、今年の春にセル苗を定植したばかりのところだった。株を太らせるために今年は花を切らないが、短い茎のてっぺんには花が咲いている。

養成中のリンドウには花が咲いていた

じつはこの畑は去年まで田んぼだった。湿地帯に自生するリンドウは水切れを嫌う。水路が近くにあり、水口(みなくち)から水を引き込む「畝間かん水」をやれる田んぼはこまめにかん水するにはちょうどよい。また、リンドウの根に悪さをする害虫の被害も水田では少ないはず。米づくりを休む人が多いなか、地域の田んぼを有効利用できる。

リンドウの栽培マニュアル

高木さんたちは他産地に足しげく通い、独自の栽培マニュアルをつくっているところ。
リンドウは2条植えで株間が18センチ、10アールで7000本ほど植える。苗は、1つ50〜180円ほどで購入できる。翌年の春になるとたくさんの茎が立ちあがってくるが、それらをそのままにしては花が小さくなってしまう。そのため、芽かきで8本になるまで間引き、そのうち5本を切り花として収穫する。残りの3本は地上部が枯れる冬まで残し、翌年も元気に咲くための栄養を株元に蓄えてもらう。こうして株の力を保つと、5年間は同じ株から切ることができる。

元肥はそれぞれの圃場(ほじょう)の土壌診断をもとに、肥料会社に「少なめ」に設計してもらっている。基本的には追肥も少なめで、1年に1回、秋にやる。この時は、有機複合肥料の「しき島6号」(N6-P8.5-K6)を1株当たり10グラムほど、マルチに穴を開けて畝肩にやる。
生育をみて、必要であれば春などにもやるが、全体的に肥料を少なめにして、リンドウの葉色を「畑に生えているスギナ」くらいに薄く保つことで、葉が小さいわりに花の大きい、カッコいい姿になる。

今年切ったリンドウ。品種は「しなの」(しなの早生)

お盆に売れる品種を探せ!

「冷涼地と勝手が違うといえば、品種の選び方くらいやな」と高木さんは言う。
リンドウは積算温度で開花のタイミングが決まる。加温ができない露地栽培でリンドウ需要が高まる8月に出荷するには、品種選びを工夫するしかない。
長野県なら盆時期に出せる「しなの」(しなの早生)を植えてみたところ、但馬では少し早く、リンドウ需要が少ない6月下旬〜7月中旬に咲いてしまうことがあったそうだ。そのため、「しなの」より開花の遅い「しなの2号」がちょうどいいとのこと。
「それと、最近は盛り花や結婚式にも使えるようなリンドウを広めたいと思ってて、お盆狙いじゃない品種も実験的につくっとんや。リスク分散という意味もある。それに、意外って言われるけど、パステルカラーの花が好きなんよ」と照れる高木さん。それは、パステルピンク色の花にいくらか白い縞(しま)の入ったリンドウらしからぬ花。その名も「マイフェアレディー」!

高木さんが意外(?)と好きな「マイフェアレディー」

高木さんの畑をよく見ると、薄いブルーの「パステルベル」や濃いめのピンクの「ハイジ」など、一般的な青紫の花とは違う、多彩なリンドウが植わっている。

9戸の生産者から始まったリンドウ栽培だったが、現在はたじまリンドウ協議会として生産者が13戸に増えた。「リンドウは無理」と言われた但馬に新しい産地ができつつある。

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